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副司令官

 エステルの作戦は功を奏したようだ。ラジモフたちはこちらへ興味をなくし、歓談に興じている。


「ツバキっち、怪我はないっすか…?」


 エマが囁いた。


「うん、大丈夫」


 ツバキは笑顔で答えてみせる。それを見て、エマとリヒターはほっと胸を撫で下ろしたようだった。


(それにしても、さっきの女の子…)


 先ほど見せたあの動き、常人のものではなかった。エステルの機転のおかげで難を逃れる事ができたものの…あの少女が敵にいるというのは、要塞攻略において障害となる可能性があった。


「あの子供…只者じゃなかったな」


 リヒターも同じ事を考えていたようで、そう小声で語りかけてきた。


「特別な訓練を受けてるか、生まれながらの特別な才能を持ってんのか…いや、話し合うのは後にするか。怪しまれてもまずい」


「…そうですね」


 ひとまず、先程の少女…ハティについて話し合うのは後回しにする事にした。今は、ただの客として振る舞うふりをしつつ…ラジモフ司令官たちの様子を伺うべき時だ。ひょっとしたら、何か重要な情報を漏らす可能性もある。


 そして、様子を伺い続け…3時間余りが過ぎた。


(特に収穫はなしか…)


 ラジモフは噂通りの酒好きだったが、エステルのようにがぶ飲みするという性質たちではないようだった。酒杯ゴブレットに注がれたワインを、ひと口ひと口丁寧に味わいながらゆっくりと飲んでいく。そのためかあまり酔ってはいない様子だったが…その口ぶりは辛辣だった。


「まったく…無能な兵に、馬鹿な庶民ども。要塞司令官も楽ではないな」


 そんな言葉を何度も繰り返していた。どうやら、よほどプライドの高い人物らしい。そして周囲の男たちは、


「まったくですなあ、司令官閣下」


 と、ラジモフに対する追従ばかり。どうやら、ラジモフ司令官の周囲は彼に媚を売る人間で固められているようだ。ひとまず、分かった事といえばそのくらいだった。さすがに、機密に関わるような言葉をこの場で漏らすほど愚かではない様子だ。


(これ以上ここにいても得られるものはない…かな)


 むしろ、あまり長時間いては怪しまれるはめになる。ひとまずはラジモフの能力値ステータスを確認できた事でよしとするべきかもしれなかった。エマやリヒターに視線を向けると二人も同じ考えのようで、『そろそろ出ようか』というアイコンタクトを送ってきた。


 ではそろそろ帰ろう…そう立ち上がろうとしたその時、酒場の扉が開いた。


(…こんな時間にお客さん?)


 もう夜も更けている。退出する客はあっても、今から店に入ってくる客は珍しかった。


「おお、副司令官殿」


 ラジモフを取り囲む男たちが、扉から現れた人物に対して声をかけた。

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