ツバキ・ニイミ3
「リヒターさん、僕は…」
「お前さんは俺と違って真面目な奴だからな。ひょっとして俺が死んだ事に責任でも感じてんのか?『もっと早くヒューゴの狙いに気付いてれば』とかな」
リヒターは肩をすくめる。
「だがな、お前はそんな責任を感じる必要はない。厳然たる事実として…お前がいなけりゃヒューゴには勝てなかった。あの化け物みたいな奴と命賭けて張り合って、お前は勝ったんだ」
「…」
「そしてお前が命を賭けたように…俺も、俺の意思で自分の命を賭けた。俺は…その結果を受け入れる。多分それは俺だけじゃない。みんな自分の意思で命を賭けたんだ。その事に対してお前が必要以上に心を痛めるのは…思い上がりってもんじゃないのか」
リヒターは椿の頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪を撫でる。
「お前はお前の道を行け。アンスバッハ司令官や、みんなの所にな」
「…はい」
椿は頷いた。もう少年の瞳から、涙は零れていない。
「今までありがとうございました…リヒターさん」
「こっちこそ、ありがとうだ。きっとお前と一緒に戦った奴らは、みんなそう思ってる」
リヒターは笑顔を浮かべると、気だるげな仕草で歩き出し橋の向こう側へと進む。
「じゃあな、ツバキ」
「はい…さようなら、リヒターさん」
椿はリヒターに背を向け、歩き出した。自分が帰るべき場所へと。




