最終決戦4
「敵は手も足も出ない様子ですね」
ヒューゴ軍、中央よりやや後方の場所にて。クロエ・フィレルがヒューゴに囁いた。今現在、ヒューゴ軍はエレオノール軍の突撃を完全に封じ込めている。エレオノールは、単純な指揮能力や武力ではヴォルフラムやカムランには及ばない。だが、騎馬隊を率いて一斉突撃を行った際の攻撃力はヴォルフラムやカムランすら凌ぐ事がある…クロエ・フィレルはそう見ていた。
事実、エレオノール率いる騎馬隊の突撃で戦局が大きく動いた戦いは多い。しかし、ヒューゴの巧みな指揮はエレオノールの騎馬突撃すら防いでいる。もはや勝ったも同然…とまでは言わないが、優勢に戦いを進めている事は間違いない。そう思い声をかけたフィレル上将軍だったが、ヒューゴは静かな声で答えた。
「いや…やはり相手は強い。全力で戦わなければ勝利は危うい」
ヒューゴの用兵は、今の所完璧に近い。エレオノール軍の狙いを予め察知し、そこに兵を増強。敵の攻撃を跳ね返し続けている。エレオノール軍の攻撃で少しでも戦線が崩れかければ、すぐさま代わりの兵を派遣。僅かな綻びもすぐに修復してしまう。これは攻めるエレオノール達からすれば、壊しても壊しても修復される強固な城壁に突撃を続けているようなものだ。疲労が蓄積され、士気も下がってくるのが普通だ。しかし、今の所エレオノール軍にそのような兆候は見られない。
(エレオノール・フォン・アンスバッハの持つカリスマ性…そして積み上げてきた勝利という実績が兵達を鼓舞している。いや、それだけではない)
「やはり…私にとっての一番の脅威はツバキ・ニイミか」
ヒューゴ・トラケウは呟いた。宿敵と定めた少年の名を。




