叡智の聖騎士6
カムランの口から出た意外な言葉に、ミュルグレスは一瞬だけ沈黙した後に答えを返す。
「もし不満があったとしても、私はそれを口に出来る立場ではありません。そういうあなたはどうなのですか?カムラン殿」
「不満かい?勿論あるよ。今の聖王国は、国民にとって最良の統治が出来ているとは思っていない」
「ではなぜ聖王国のために戦うのですか?」
「例え不満はあっても…それでも、僕が戦うのをやめてしまえばこの国は帝国に蹂躙されてしまう事になる。そうなれば…この国の人々が長い時間をかけて作ってきたものが、全て踏みにじられてしまう。ここから見える街並みも、人も、文化も。それだけは防がなければいけない。僕は、そう思っているよ」
カムランは、窓の外に向けていた視線をミュルグレスに戻す。
「僕にはね、夢があるんだ。帝国の侵攻を完全に跳ね除け、この国が平和になったら…僕は、聖王国を立て直したい。門閥貴族が幅を利かせ、庶民が振り回されるような国ではなく…多くの者にとって公平な国にしていきたいと僕は思っている。もっとも、ヴォルフラムにヒューゴという最強の大将軍を要する帝国の侵攻を跳ね除ける…というのがこれ以上ない程に困難な事だ。国を立て直すと言っても、それに反対する門閥貴族は大勢出てくるだろう。僕の夢の前には、多くの困難が立ちはだかっている。それでも…僕は、この夢を追いかけたい」
無謀な夢だ、とミュルグレスは思った。しかしその無謀さを笑おうとは思わなかった。彼が志を共にするヒューゴの夢もまた…無謀という点ではカムランと同じ。ただ、その方向性が真逆であるだけだ。
「見果てぬ夢だとは分かっている。君に協力して欲しい、と言うつもりもない。ただ、僕は…僕の考えを君に知ってもらいたかったんだ」




