表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/1118

第一段階

 その日、椿はまだ日も上らないうちに隊舎を抜け出していた。薄暗い要塞内を燭台の灯りで照らしつつ慎重に進む。


「おや…君は…?」


 不意に、背後から男に声をかけられた。わずかに体をびくつかせ、後ろを振り向く。


「確かラグランジュ防衛部隊長の所の…」


「ツバキです。ツバキ・ニイミ」


「ああ、そうだったね。ツバキくん。いや、ツバキ『くん』なんて呼んじゃダメかな。何しろ君はその歳で千人隊の実質的なNo.2って聞くからね。将来俺なんかより出世するかもしれない。今のうちから、ツバキ『さん』って呼んでおいた方がいいかな」


 そう言って男は笑う。彼の名はコルバン。北部要塞ノルドにいる部隊長のひとり、警邏けいら部隊の部隊長だ。


「いえ、そんな…」


 椿は困ったように苦笑した。コルバンは、端的に言うなら『冗談好きのおじさん」といった人物で、決して悪人ではない――が、北部要塞ノルド上層部の一人である事には変わりない。用心して相対しなければならない人間のひとりだった。


「それはそうと、こんな時間にどうしたんだい?歩哨の交代…じゃないよね?」


「はい、今日は非番です。今日から3日間休みを貰ってるんで、ちょっと遠出をしてエステルさん達と釣りに行く約束をしてるんです。移動に時間がかかるらしいんで、この時間に出発しないといけないらしくて…」


「おお、そうかい。それなら気をつけてな。ぜひ、ラグランジュ防衛部隊長の酒のサカナでも釣ってあげたまえ。ははは」


 そう言って、コルバンは去っていった。椿は、軽い罪悪感を覚える…何故なら、今言った事は事前に考えておいた嘘だからだ。『ちょっと遠出を』というのは本当だったが、目的地は海ではない。


 椿は北部要塞ノルドの北門に到着する。そこではすでに、3人の人物が椿を待っていた。3人とは、エマ、リヒター、そしてエステルだ。


「すみません、遅れちゃって」


「大丈夫っすよ。自分たちが早く着いちゃっただけっすから」


 蝋燭キャンドルに照らされ、闇の中でエマの笑顔が浮かぶ。


「それじゃ、全員揃った所で行きましょうか。作戦の第一段階、発動って事で――」


 エステルの言葉を受け、全員が頷き合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ