ヨハンネス・フォン・リーゼンバッハ6
ヨハンネスは門閥貴族達により捕らわれ、王宮の近くにある軍事施設の地下牢に閉じ込められた。かび臭く薄暗いその牢の中でヨハンネスは叫ぶ。
「おい!俺をここから出せ!聞こえないのか!?俺は王太子ヨハンネス・フォン・リーゼンバッハだぞ!」
しかし、看守はそんなヨハンネスの声に耳を傾ける事はない。しばらくの間叫び続けたヨハンネスだったが、疲れ果てたのか腰を降ろしてうなだれた。
「お元気ですかな、ヨハンネス殿下」
ふいにそんな声が聞こえ、ヨハンネスは顔を上げる。その視線の先にいたのは…茶色い巻き毛を持つ太った男。聖王国で大臣を務めていた人物だ。
「お、お前…!」
ヨハンネスは牢の格子にしがみついた。
「ここから出せ…いや、出してくれ!このままでは俺はミュルグレスに処刑される!」
「ふむ、まだまだ元気なご様子ですな。これは良かった」
大臣は髭を撫でつつヨハンネスの顔をしげしげと観察する。
「ミュルグレス・レイに引き渡す前に、衰弱死されては困りますからな。どうか、それまで元気でいて下さいよ…ヨハンネス殿下」
「貴様…!」
ヨハンネスは大臣を睨みつける。
「貴様が大臣になれたのは誰のおかげだと思っている!俺が引き立ててやったからだろう!」
その言葉は事実だった。ヨハンネスの目の前にいる男は、門閥貴族だったが若い頃に政策で失敗を犯し出世の道が断たれていた。しかし、ヨハンネスに接近し彼の機嫌を取る事で、大臣にまで出世した人物だ。
「今までの恩を忘れたのか!?」
「いえいえ、これでも吾輩はヨハンネス殿下に頂いただけの恩はすでに返しているつもりですぞ」
「なに…!?」
「今までさんざん、おだてて差し上げたではないですか。『聖王国始まって以来の天才』『剣術においても学識においても、ヨハンネス様に敵うものはありません』『ヨハンネス様にお仕え出来て幸せです』…とね。その嘘で、今までいい気持ちを味わえたでしょう?」
「嘘…だと…?」
「ええ、勿論。あなたのように愚鈍な人間を本気で褒めたりなどする訳がないではありませんか」




