ヨハンネス・フォン・リーゼンバッハ4
ミュルグレスが帝国軍と結託し、聖都へと攻め寄せて来る――その報がもたらされた時、聖王国の王宮はパニックに陥った。ミュルグレスは聖騎士序列第二位。第一位のカムランが昨年に戦死したため、ミュルグレスはこの時点における聖王国軍で最も優秀な指揮官だと多くの者が認識していた。その彼が裏切り、自分達に牙を向けようとしている。その事実に、門閥貴族達は恐れおののいた。すぐさま迎撃の部隊を繰り出したが、あっという間に返り討ちにされてしまった。
「くそっ!ミュルグレス…今までの恩を忘れて裏切りやがって…!」
ミュルグレスの裏切り、そして迎撃部隊が返り討ちにあったという報告を自室で聞き、ヨハンネスは苛立たし気な声を上げる。
「なんにしても、王宮にいては危険だ…。おい、脱出の準備をするぞ!軍の上級指揮官を呼び寄せろ!」
ヨハンネスは執事に命じ、上級指揮官達を呼び寄せた。すぐさま10名ほどの指揮官が集まった。彼らは門閥貴族かその関係者ばかりだ。
「このまま聖都にいてもミュルグレス軍に捕まるだけだ。俺は脱出する…お前達は俺を警護しろ」
ヨハンネスはそう命じたが、指揮官達から返答がない。不思議に思い、ヨハンネスは声を強くする。
「聞こえているのか!?お前達は俺の警護を…」
ヨハンネスのその言葉を遮るように、指揮官のひとりが剣を抜き放った。そしてその先端をヨハンネスに向ける。
「なっ…貴様、何を…!?」
ヨハンネスが驚く間もなく、他の9名も同じようにヨハンネスに対して剣を向けた。そして中央の男が、皮肉げな笑みを浮かべながら言い放つ。
「ヨハンネス・フォン・リーゼンバッハ殿下…悪いが、拘束させていただきますよ」




