フェルマー・シャルンホスト2
一方、エステルと対峙するシャルンホスト軍団の本陣。戦場が俯瞰できる小高い丘の上から、シャルンホストは戦場を見下ろしていた。彼にしては珍しい事に、一切の無駄口を叩かず淡々と伝令兵に命令を伝えている。そんな様子を後ろから見ていた指揮官のひとりが、シャルンホストに近付いて言った。
「敵もよく粘っていますが…この状況から押し返す事は出来ますまい。我が軍団の勝利は確実ですな」
「…そうですね」
口髭を生やした中年の指揮官の顔をチラリと見て、シャルンホストはつまらなそうに返答した。指揮官にとっては、そんなシャルンホストの様子が意外だった。
「どうされたのですか、シャルンホスト大将軍。あなたらしくないではありませんか」
「そうでしょうか」
「ええ。シャルンホスト大将軍の天才的な采配のおかげで、エステル・ラグランジュは手も足も出ません。世界最大の要塞、巨大要塞を陥落させた智将という触れ込みでしたが…大した事はありませんでしたな。しょせん、エステル・ラグランジュなどシャルンホスト閣下の敵ではないという…」
「違いますよ」
シャルンホストは、指揮官の方へ顔を向けた。その、感情の籠らない顔を見て指揮官は思わず息を飲む。にやにやとした笑みを浮かべるシャルンホストは、多くの者から不気味だと思われているが…今の、無表情なシャルンホストからは、それ以上に得体のしれない雰囲気が漂っていた。
「エステル・ラグランジュは強い。兵力が同数であれば…あるいは私が負けていたかもしれません」




