勝利への道20
「ぐっ…!」
カイの強烈な一撃を受け止めつつ、エルンストは思考を巡らせる。
(ツバキ・ニイミとイチャイチャするために戦っている?何を、戯言を…)
エルンストはカイの事を男だと認識している。もっとも、それを抜きにしても…イチャイチャするために戦うというのは、エルンストにとって理解し難いものだった。しかし、カイの繰り出す攻撃はさらに強くなる。そして、エルンストは見た。カイの瞳に輝く力強い光を。
(そう、か…)
エルンストは理解する。好きな人とイチャイチャしたい――恋する者と愛し合いたい。それは、極めてありふれていて…だからこそ、何よりも強い願い。信仰とでも表現すべき想い。
「お前は自分のために戦っているというような事を言っていたな…オレもそうだ。オレは、自分が幸せになり…ツバキも幸せになってもらいたい、そのために…戦う!」
『自分のため』でもなく、『自分以外の何かのため』でもない。『自分と、愛する者のため』に戦う。それは、エルンストには出来ない事だ。
「なるほどな」
エルンストは苦笑する。相手は、『信仰の聖騎士』。極めて根源的な願いのために、全てを捨てる事の出来る相手。それゆえに…、
「俺じゃあ、勝てない訳だ」
ついに連撃を受けきれなくなったエルンストは、その肩にカイの突きを受けていた。エルンスト・リヒトホーフェンの手から、地面へと剣が滑り落ちる。




