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トレビュシェット

 エステルに案内されたのは、要塞からほど近い森の中だった。ちなみに一行には、エマ、リヒター、ボゥ、ホフマンの4人が加わっている。これからの話はエレオノール千人隊の行く末に関わるという事で、彼らにも同行してもらったのだ。


「ラグランジュ防衛部隊長、このような森の中でいったい何を見せてくれるというのでありますか?」


「まあまあ、それは見てのお楽しみよ」


 エステルは、ボゥの疑問を笑顔でかわす。背の高い針葉樹の林立する森の中をしばらく進むと…突如、開けた場所に出た。その辺りだけ木が切り取られ、広場になっている。そこで作業をしている人間が10人ほど。そしてその中央には…6、7mはあろうかという木製の器具が建てられていた。椿の知る物に例えるならば、外見はクレーン車に酷似している。


「これは…大型投石器トレビュシェットか…?」


 リヒターが呟く。


大型投石器トレビュシェットって…?」


大型投石器トレビュシェットというのは、投石器カタパルトを発展させた攻城兵器だよ。投石器カタパルトと違い、重りを使って岩を飛ばすんだ」


 椿の質問にエレオノールが答えた。


「その通り。この大型投石器トレビュシェットを使えば、投石器カタパルトの数倍の重量を持つ岩を飛ばす事ができる。それでいて射程距離も投石器カタパルトより優れているの」


 そう言いながら、エステルは眼鏡をくいと上げた。


「元々、解体して北部要塞ノルドの倉庫にしまってあったものなんだけど…こうやってこっそり持ち出して組み立てみたの。…おーい」


 と、大型投石器トレビュシェットの周囲で作業している男に手を振った。男がこちらに近付いてくる。エステルは男に問いかけた。


「調子はどう?」


「てこの部分が朽ちかけてたんで木を切り出して取り替えました。なかなかいい感じです。多分、実戦でも使えるかと。…それじゃあ、作業があるんで」


「うん、ありがとね」


 男は大型投石器トレビュシェットの方へと戻っていった。椿は、なるほど…と思う。


「エステルさん…つまり、この大型投石器トレビュシェットを使って巨大要塞フルングニルを攻める…って事ですね」


 投石器カタパルトの威力については、椿はヌガザ城砦で目にしている。投石器カタパルトで城砦を攻撃され続けていれば…間違いなく、耐え切る事ができなかった。そして、大型投石器トレビュシェット投石器カタパルトの数倍の威力があるという。これで攻めれば、巨大要塞フルングニルを落とす事も不可能ではない――と、そう思ったのだが…何故か、エレオノールやリヒターの顔色は暗かった。


「残念だけれど…これだけで巨大要塞フルングニルを落とすのは、不可能だと私は思う」


 眉間に眉を寄せながら、エレオノールは言った。


「どうして…?」


「理由はいくつかある。まず、大型投石器トレビュシェットは大きすぎるために投石器カタパルト以上に移動が困難だという事。つまり、大型投石器トレビュシェットで城壁を攻撃し続けるには、大型投石器トレビュシェットの周囲をしっかりと守らなければならないんだ」


「そうか…」


 実際、ヌガザ城砦防衛戦ではリヒターの奇襲で投石器カタパルトはあっけなく破壊されてしまった。大型投石器トレビュシェットを使用するならば、それを破壊しようとする敵の攻撃からしっかりと守るだけの兵力が必要になるという事だ。


「さらに、巨大要塞フルングニルの城壁は三重になっている。三つの壁を破壊するのは大型投石器トレビュシェットといえど容易ではないはずだよ。最終的には要塞に突入する兵力が必要になる。」


 何にしても兵が必要だという事だ。ヒーマン司令官が戦いに積極的でない以上、大兵力を用意するのは難しいだろう。


「そう…なんだ。これで巨大要塞フルングニルを攻略できると思ったんだけどな…」


「ああ、残念だけれど。…ラグランジュ防衛部隊長」


 エレオノールはエステルに向き直った。


「今私が言った事は、防衛部隊長もご存知のはず。…にもかかわらず、なぜ大型投石器トレビュシェットの整備を進めているのですか?」


「ふふふ、どうしてだと思う?」


 エステルは含みのある笑みを浮かべる。何か考えがあるという事らしい。


(今言った方法以外で大型投石器トレビュシェットを活用するためには…?)


 椿は考え込む。そして、(そうだ…!)と、一つの案を思いついた。


「あの…ひょっとして…大型投石器トレビュシェットで兵士を飛ばすんじゃないですか?それで城壁を乗り越えて、要塞の中に着地させて…中から攻撃、とか…!」


「おおお!なるほど!ツバキっち、天才っ…!」


 エマが感嘆の声をあげた。…が、しかし。


「あっはははは!」


 と、エステルに笑われた。


「…ち、違うんですか?」


「あー…いやいや、うん、面白い案だとは思うよ。…実際に、昔試してみた人もいたらしいし。でも、大型投石器トレビュシェットで人なんてぶっ飛ばしちゃったらさ、着地する時に大変な事になっちゃうでしょ」


「…た、確かに」


「それに、大型投石器トレビュシェットで飛ばせるのは一度に2、3人ずつが限度…そんな少人数で要塞の中に入った所で、逆に返り討ちにあっちゃうんじゃない?」


「そう…ですね」


 いい案だと思ったのだが、どうやら外れだったらしい。周りを見回せば、エレオノールやボゥ達も大型投石器トレビュシェットの有効な活用方法が見出せていないようだ。


「ふふん…どうやって使うか分からないみたいね。この大型投石器トレビュシェットはね――こう使うのよ」


 エステルは、大型投石器トレビュシェットの使用方法を説明する。それを聞き終えた一同は――驚愕の表情を浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] …これをフルングニルの連中にプレゼントして、聖王国に攻めさせる?…防御が売りなのに攻撃に転じたら、かなーり弱くなるのでは?…と自分で言って何ですが、かなーりリスクもあるし、変人の発想な…
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