勝利への道9
「敵右側部隊、本陣のすぐ近くにまで迫っています!どうされますか、エルンスト軍団長!」
「…」
部下からの報告を聞き、エルンストは深く考え込む仕草を見せる。敵を迎撃するのか、それとも逃げるのか――軍団長である彼は選択をしなければならない。敵の数は1万。いや、戦線を突破する際に多くの兵が脱落しているはずから、おそらく今は7千程度になっているはず。数十万規模の軍勢が戦い合うこの戦場においては、少数の部隊と言って良い。普通に考えれば、20万を超えるヒューゴ軍中央軍団がこんな少数の敵を相手に逃げる事などありえない。
だが、敵は普通ではない。カイを初めとして、多数の精鋭が右側部隊に所属している事は先ほど部下から報告を受けた。ひょっとしらたら、敵の刃はエルンストにまで届くかもしれない。しかし、ここでエルンストが逃げればヒューゴ軍中央軍団全体の士気に大きく関わるだろう。逆に踏みとどまって敵の進撃を防げば、今度こそ敵に打つ手はない。エルンストの勝利だ。
戦うか、それとも逃げるか――。エルンストは、戦場において最も困難な二者択一を迫られる。
「エルンスト軍団長、どうなされるのですか…ご決断を…!」
そんな部下の言葉にも耳を貸さず、エルンストは俯き考え込む仕草を続ける。誰の目にも、これは悪手だと思えた。迎撃するにしても、逃げるにしても…決断が遅れれば遅れるほど不利になる。しかしついにエルンストは顔を上げる。
「よし、我が軍は…」
と、彼が決定を伝えかけたその時、伝令兵の悲痛な叫びが彼の耳に届いた。
「敵襲!敵襲!すぐそこに敵軍が迫っています!」




