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ヘルムート・リヒター4
「あーあ…らしくない事…やっちまったな…」
地面に横たわりながら、リヒターは声にならない声で呟いた。
「のんびり暮らせりゃあ…それでよかった…はずなんだがな…」
聖王国軍で何年か働き、ある程度の金が溜まればそれを元手に商売を始める。それが軌道に乗れば若くして隠居、悠々自適の生活を行う…それが、ヘルムート・リヒターの描いた人生設計だった。
「なのに、なんで…命なんか賭けたんだろうな。本当に…らしく…ない」
しかし、とリヒターは思う。らしくない選択肢だったが…後悔はしていない、と。彼は信じている。椿の勝利を…少年が掴み取る未来を。
体から力が抜け、視界が暗くなる。死が自身のすぐそばまで迫っている事をリヒターは感じた。しかし、不思議と恐怖は無かった。
「まあ…これで一生分頑張ったし…あの世で…一緒にのんびりしましょうや、ユンカース隊長…」




