ヘルムート・リヒター3
「世迷いごとを」
挑発とも取れるリヒターの言葉を受けても、ヒューゴの声音は変わらない。あくまで冷静かつ冷淡だ。
「どうして俺があんたを奇襲できたか分かるか?」
リヒターが問いかける。
「俺があんたを奇襲するために先回り出来たのは…俺がビビりだったから…だ。だから…突然思ったんだよ。あんたは…ツバキにビビってっる。だから多分…逃げるだろう…ってな…。ビビりだから…ビビってる奴の気持ちは…分かる。ツバキは…お前に勝つ…!」
「悪いが、これ以上負け惜しみに付き合う暇はない」
リヒターの力が僅かに弱まった瞬間を見計らい、ヒューゴは腕に力を込めた。その手に握られた剣が、リヒターの心臓を抉りつつ引き抜かれる。
「ぐ…あ…!」
リヒターの体から力が抜け、その場に膝をついた。ヒューゴはその様子を一瞥した後、馬首を翻した。その背に、リヒターは声をかける。
「負け惜しみ…?違うな…勝利宣言だ」
リヒターとヒューゴの視界の先。そこには、こちら目掛けて駆けてくる一団があった。銀色の甲冑に身を包んだエレオノール騎馬隊だ。
ヘルムート・リヒターは時間を稼ぎ切った。エレオノールとツバキが到着するまでの時間を。




