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子猫探し

「————それで、どうやって探しましょうか? 手分けして探しますか?」


 歩きながら、ソフィアちゃんが尋ねる。


「「そんなの決まってるだろ(じゃないか)?」」

「お二人共、息ぴったりです!」 


 こいつと息ぴったりなんてやめて欲しい。たまたま言葉が重なっただけだ。


「ふふん! こういう探索系のイベントはボクの出番さ!」


 ポーレットが自信満々に胸を張る。ただ、残念な事に発展していない未開拓なその胸部はいくら胸を張っても全く目立たない……うぅ! なんて可哀想な子なんだ!


「流石ですねポーレットさんっ!」

「いちいち褒めるなよソフィアちゃん。褒めたらこいつ調子に乗るだけだから」


 調子に乗ったらいつも以上にめんどくさいからなぁ。やらかし度が一段と上がってしまう。また連帯責任とか言われて説教されるの嫌なんだけどなぁ。


「なんて言ったってボクは死者の王————子猫一匹探す程度、造作もない事さ!」

「ほら見ろ。調子に乗っちゃったじゃないか。ウザいだろ? こいつ、ウザいだろ?」

「いえ、元気があっていい事だと思います!」


 ダメだ、このギルドにはまともな奴が俺しかいない。


「見てるんだよソフィア! 先輩であるこのボクが、ちゃちゃちゃちゃっと解決して見せるからね!」


 ちゃが多いわ。

 そして、ポーレットは自慢のマントを翻し、市場の往来の中で高らかと口を開いた。


「いでよ我が眷属! その魂は、我が身元にあり!」


 すると、ポーレットの周辺から大きな魔方陣が浮かび上がった。そして、浮かび上がった魔方陣からゆったりと唸り声を上げて————魔物型のアンデッドが姿を現す。

 その数ざっと百体。それぞれが目に光を宿さず、腐敗した体である。

 ポーレットのギフト————死者の王。それはこの世から命を散らした生物を自らの眷属としてこの世に顕現させるものである。並のネクロマンサーよりも死者を眷属にする事ができ、本人曰く今は二十万体の眷属がいるらしい。

 聞いただけでも、そこいらの軍隊では相手にならなそうだ。それほどまでに強力。

 そして、自らの眷属を使って子猫探しをすれば人手は増え子猫も見つかりやすくなるだろう。

 だが————



『キャァァァァァァッ!』

『ア、アンデッドが出たぞぉぉぉぉぉ!』

『早く冒険者を呼べ!』



 ……まぁ、こんな街中で出せばそりゃあ騒ぎになるよね。


「流石はポーレットだ。街中で自ら騒動を起こすなんて————そんなにもお仕置きを受けたいとは」

「わっ、わわわっ! 早く眷属さん達を戻してくださいポーレットさん!」


 いつの間にか周囲の騒ぎは広がっていき、人だかりは一気に消え、皆騒ぎながら建物へと逃げ込む。そして、他のギルドの冒険者が続々と集まってきた。


「さぁ! 我が眷属達! 子猫を探すんだ!」


 ポーレットが嬉々とした表情で眷属であるアンデッドに指示を出し、アンデッド達は一斉に動き出し街を徘徊しに向かおうとする。

 冒険者達が構え始める。皆、アンデッドを倒そうとしているみたいだ。

 うぅむ……呑気に見ているが、そろそろ止めないと本気でリーダーに怒られてしまうな。

 そろそろ止めないと。


影落シャディア

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ボクの眷属がぁっ!?」


 だから俺は影を生み出し、アンデッドを影に沈めました。横でポーレットが悲しんでいるが……気にしない。だってこのままだと騒ぎが大きくなっちゃうんだもん。


「申し訳ございませんっ! 本当に申し訳ございませんっ!」


 ソフィアちゃんが周囲に向かって一生懸命頭を下げる。流石は迷惑をかけたくないと思っている優しい子。日頃魔物を生きかえらせなければ、絶対に問題児扱いされない優しい子なんだけどな。



『な、なんだ……またクラウンか……』

『慌てて駆けつけて損したぜ』

『もう、迷惑かけちゃダメだよー!』



 皆、騒ぎの原因が俺達だと分かると、そんな言葉を言い残してこの場から去っていった。周囲の人達も「またお前らか……」みたいな顔をして物陰から姿を現す。

 ……まぁ、俺達はやからしまくってるからなぁ。きっと皆も見慣れてしまったのだろう。

 それにしても、俺達に優しい奴らでよかったよかった。


「全く……お前は街中でアンデッドを出したら騒ぎになることくらいいい加減に分かれよな。後、お前の代わりに頭を下げてくれたソフィアちゃんにお礼言っとけよ?」

「うぅ……ボクの眷属がぁ……」


 えぇい鬱陶しい。元はと言えばお前がこんな街中でアンデッドを出すが悪いんだろうが。

 本当に、ポーレットは使えないぁ。


「仕方ない、ダメで足手まといのポーレットに代わって、この俺様が人様に迷惑をかけず子猫を見つけてやろう!」

「か、かっこいいですロイドさんっ!」


 俺が額に手を当ててそう言うと、ソフィアちゃんがキラキラした目で見てくる。

 ……よせやい照れるだろ?

 俺は後輩癒し系女子の期待を背負い、ポーレットと同じく高らかに口を開く。


影分身アバター!」


 そして、今度は俺の足元から大きな影が生まれる。中からは俺と似た影がその姿を現す。

 俺のギフトは『影の王』。

こと、影の扱いの能力に感じては右に出る者はいない! そう! こうやって己に似た自我を持つ分身を造る事なんて造作もないのだ!


「さぁ、俺の分身! 子猫を探してくるんだ!」


 俺は現れた分身に向けて命令する。

 すると————


『あ? お前がやれよ』

「え? いや、お前俺の分身……」

『だから何だよ? こんな事でいちいち呼ぶなクソが』

「だ、だって……俺、主人なんだけど……」

『文句あるのか?』

「す、すみません……」

『ったく……とりあえず、金寄越せ。今から娼館行ってくるからよ』

「……はい」


 俺はおずおずと懐から金を取り出す。分身は俺から勢いよく金を取り上げると、そのまま俺の行きつけの娼館に向かって去っていった。


「……(しくしく)」

「かっこわる。ロイド、かっこわる」


 復活したポーレットがこれ見よがしにさめざめと泣く俺を貶してくる。

 その言葉に……俺は何も言えなかった。




 結局、俺達は地道に子猫を探すことになった。

 やっとの思いで見つけた頃には日が暮れてしまい、その時の報酬は少ないものだった。

 ————しかし、報酬のお金と先程分身にふんだくられたお金が一緒だったことが、余計にも俺の涙を誘った。


 故に、ツヤツヤで帰ってきた分身を見た時には「速攻で消せばよかった」と後悔した。


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