家族
「というわけで、俺達は子猫探しをするぞ!」
「「おー!」」
あれから少しの時間が経ち、俺達は街へとくり出していた。
俺達の拠点があるこの街————ラスタルは王都から少し南に外れた場所にあり、ラスタル公爵が治める領地の中で最も栄えている場所だ。
街の中心にある市場は活気が溢れており、今こうしている間にも賑やかな喧騒が聞こえ、行き交う人々がごった返している。もちろん、冒険者協会の支部も存在し他にも俺達以外のギルドもこの街を拠点にしていたりと、公爵が領民に優しいというのと大き過ぎず小さ過ぎずが多くの人に気に入られているようだ。
「今回はアルベスト商会の会長夫人が飼われているペットを探すみたいですね。どうやらお茶会に参加している間に逃げ出してしまった————らしいです」
「お茶会に連れて行ってたのかな? 大事なペットなら連れて行かなきゃいいのにね」
ソフィアちゃんが依頼書を見ながら説明してくれ、その紙をポーレットが覗き込む。
今回この依頼をするのは俺とソフィアちゃん、ポーレットでやることになった。イザベルとミカエラは俺達とは別行動でもう一つのクエストをこなしている。
「ま、こんなクエスト大した稼ぎにもならねぇし、さっさと終わらせようぜ。俺は早く行きつけの娼館のコスプレキャンペーンを拝みに行きたいんだ」
「ロイド、気持ち悪い」
「直球で貶してきたなこいつ」
「やめっ、やめてロイド!」
イラっとしたので、隣を歩くポーレットの頭をわしゃわしゃしておく。
「それにしても、どうして今回はこのメンバーなのでしょうか? 初めてですよね、この三人でクエストを受けるのは」
「単純に、イザベルがまたやらかすからリーダーが監視したかったからじゃない?」
「お前もやらかし組のメンバーだけどな」
俺達は依頼を受けるにあたって基本的にリーダーが選定する。もちろん、俺達の意見が大いに尊重されるのだが……バランスや、依頼を受けたい面子が重なった時にはリーダーが決めるのだ。
今回は特に皆やりたいものはなかったので、リーダーにお任せしたのでこの面子となった。
「やっぱりリーダーもイザベルが一番の問題児だって思ってるんじゃないかな?」
「お前も大概変わらんが……被害度だけで言ったら確かにイザベルが抜きん出てるからなぁ。流石イザベル、はみ出し者の名に恥じねぇな」
「お二人共……イザベルさんが可哀想ですよ……」
仕方ないじゃん。イザベルがやらかす時って大概焼け野原に変えるか、建物を壊すんだもん。被害度は星三つである。
そんなやり取りをしながら、俺達は街中を歩く。これといって依頼をこなしている訳ではなく、ただただぼーっと。
そして不意に、目の前に青い騎士服を着た集団がこちらへと歩いているのが見えた。
『おい、あいつらはみ出し者じゃねぇか』
『全く、普通に生活して恥ずかしくないのか?』
『俺だったら恥ずかしくて歩けねぇよ!」
ガーッハッハー! と、俺達に聞こえるような声で話しながらそいつらは横を通り過ぎる。
……確かあいつらは『蒼の騎士団』のギルドの面子だったような? あの青い騎士服がギルドの印だったような気がするし。
「あはは……やっぱり、未だに慣れませんね……」
すると、横でソフィアちゃんが無理した笑みでそう言った。きっと、慣れないとは先程の連中が言っていた事だろう。はみ出し者は、やはり世間から嫌われやすいからなぁ。
特に大きなギルドからはめちゃくちゃ嫌われている。リーダー曰く「自分達より強い人間に嫉妬しているだけ。あいつら、自分達が私達のギルドより大きいのに実力で負けてるから嫌味を言って優位に立とうとしてるの」との事らしい。
気持ちは分か……らんな。嫉妬して何の意味があると言うのか?
だが、それも一部のギルドだけ。全部が全部俺達を嫌っているわけではなく、今でも俺達と仲良くしてくれる他のギルドも存在している。
……全く、ソフィアちゃんを傷つけるなんて許し難い奴らだ。
「気にすんなってソフィアちゃん。そんなの、右から左に流しときゃいいんだよ」
「そうだよソフィア! あいつらはボク達の偉大さに嫉妬しているだけだからねっ!」
「俺達、別に偉大でもなんでもないがな」
うちのギルド人数少ないし。功績挙げた事ねぇし。
「そ、そうですね……」
ソフィアちゃんの顔に少しだけ明るさが戻る。それでも、まだどこか気にしているようだ。
……まぁ、それもそうか。
ソフィアちゃんはこの前まで王都の教会で過ごしていた。皆が優しく、王持ちのソフィアちゃんを邪険にすることなく楽しく過ごしていたらしい。
それが、新しい司祭に変わり、ソフィアちゃんはあらぬ理由を付けられて追放された。どうやら新しい司祭は王持ちを極度に嫌ってる人物らしいのだ。
そして、追放されたソフィアちゃんはこの街に流れ着き————リーダーに拾われた。
だから、ソフィアちゃんはあまり馬鹿にされる事に慣れていない。だからこうして陰りを見せているのだろう。
だから俺はソフィアちゃんの頭をそっと優しく撫でた。
「ロイドさん……?」
「本当に気にするなって。周りに馬鹿にされようが俺達は俺達だ。あいつらみたいな奴が世の中全ての人間じゃねぇし、こんな俺達に仲良くしてくれる連中もいる。それに————」
そして、横にいるポーレットを引き寄せ、二人の肩に腕を回した。
「俺達がいるだろ? 例え全世界の奴らが馬鹿にしたって————俺達だけはソフィアちゃんの味方だ」
「そうだよ! だってボク達は家族だからね!」
「そう……ですね。ふふっ、そうでした。私達は家族ですもんね」
ソフィアちゃんの表所がいつもの明るく可愛らしいものに戻った。
……ふぅ、よかったよかった。ソフィアちゃんは元気の方が可愛いからな。
「それじゃあ、そろそろ本格的に依頼を終わらせようよ! ボクはこれから眷属を増やしにいかないといけないからね!」
「そうだな、俺もポーレットと同じでおねぇさん達とイチャイチャしに行かないといけないからな」
「待って、一緒にしないでくれる? 本当に、全然違うからね?」
「ふふっ、そうですね。私も、孤児院の皆さんのお手伝いをしなくてはいけませんので早く終わらせてしまいましょう」
こうして、俺達はゆやく依頼をこなす為に真面目に動くのであった。