クラウンの朝
「「「「ご馳走様でした!!!」」」」
「はい、お粗末さん」
満足した表情で両手を合わせ、ダイニングのテーブルで食べ終わるギルドメンバー。それを見て、エプロンを付けた俺はご満悦だ。うん、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいよね。
「うんうん、やっぱりロイの作る料理は美味しいわね! ギルドに誘った甲斐があるわ!」
「すげぇ料理以外否定された気分……」
「そんな事ないわよ————ロイは私の特別よ、誇りに思いなさい」
「へぇへぇ、ありがとうございますね」
ちなみに、クラウンではもっぱら家事は分担。ギルドの金銭管理はリーダー、掃除はポーレット、洗濯はソフィアちゃん、買い出しはイザベル、そして俺が炊事だ。
クラウンでは上下年齢関係ない。皆が家族だからギルドでの生活はしっかり役割を分けて行うのだ。
「確かに、ロイって料理だけは上手いよなぁ〜」
「本当だよね、顔も性格も三流だけど料理だけは一流だよ」
「はっはっはー……お前らいっぺん表出ろや。今日こそシバいたるで」
感謝するどころか貶しやがって……いつかひん剥いてやる。そして俺の欲求を満たしてやる。
「さぁ、ご飯も食べた事だし────今日の依頼を発表するわよ」
「は、はいっ!」
リーダーの言葉にソフィアちゃんはキラキラした目をする。
少し前にギルド────それどころか冒険者になったばかりだから依頼が新鮮なんだろうなぁ。
ちなみに、クラウンで一番の新参はソフィアだ。その前がポーレット、次にイザベル、そして俺とリーダーが一番最初────と言っても、リーダーに初めて声をかけてもらって一緒にこのギルドを作ったってだけ。
「じゃあ、今日の依頼を配るわね」
そう言って、リーダーが依頼内容が書かれた紙を皆に配る。
依頼は依頼者が冒険者協会に何か解決して欲しい事を依頼して初めて俺達に渡るような依頼となる。たまにクエストと呼んだりするが、これは人によってまちまちだ。
依頼は冒険者協会本部や支部に共有され張り出される────が、ギルドに入っている者はギルドを通して依頼を受ける事ができる。
それは俺達が『個人』ではなく『組織』として冒険者協会に加入する事になったからだ。故に、冒険者協会がギルドに依頼を共有し、その中から早い者勝ちでリーダーが依頼を貰ってくる────そして始めて俺達が依頼を受ける。そういった流れだ。
「リーダー!」
「何、イザベル?」
「なんで討伐クエストがねぇんだ!」
イザベルが渡された紙を見てリーダーに少し声を荒上げて尋ねる。
……ふむふむどれどれ?
・キエタケ草五十本の採取。
・商人夫人の子猫探し
確かに、二つとも討伐系ではなく比較的人気のなさそうな物ばかり。戦闘狂のイザベルが文句を言うのも仕方無いのかもしれない。
「仕方ないじゃない、他のギルドの人達ってこういうのやりたがらないのよ。それだったら、依頼をしてくれた人達が困ってしまうでしょ?」
「そ、それを言うのはズルいと思うぜ……」
真顔で言うリーダーに渋々引っ込んでしまうイザベル。ここで「どうでもいい!」って言わずに納得する辺り、イザベルもなんだかんだ優しいよな。
「それにあなた達に大きな依頼をやらせると人様に絶対迷惑かけるの。これ以上ギルドの評判を下げる訳にはいかないわ」
「それはイザベルが暴走するからだろ」
「イザベルが悪いよね」
「なんだ二人共!? 私の所為だって言うのか!?」
やれやれ……自覚がない奴が一番困るぜ。俺とポーレットは呆れた目をイザベルに向ける。
「言っておくけど、ロイもだからね?」
「そんな馬鹿なッ!?」
リーダーのジト目に俺はショックを受ける。嘘だ! 絶対に嘘だ!
「こんなにもイケメンで「下の中だろ」こんなにも性格が良くて「性格ひん曲がってるよね」こんなにも紳士で「毎日街中の女性にナンパする変態じゃない」────ぐすっ」
皆して酷いッ! これが女子ばかりのギルドのアウェーだと言うのか!?
「げ、元気出してくださいロイドさん……。私は、別にそんな事思ってませんよ?」
「ぐす……ソフィアちゃぁん……」
隣に座るソフィアちゃんが優しい目を向けてくれる。蔑んだ目を向けるこいつらとは大違いだ。
「ソフィアちゃぁ〜ん! こいつらが……こいつらがイジめるんだよぉ〜!」
「そうですね、辛かったですね」
俺がソフィアちゃんの胸に飛び込むと、優しく頭を撫でてくれた。
やっぱり俺の味方はソフィアちゃんだけだなぁ……砂漠の中のオアシス、荒地に咲く一輪の花────正しく聖女だぁ。
「……殺すわ」
「ちょっと待てリーダー!? 流石にその手に持ったスプーンは危ねぇ!? おい、ロイ! 早くリーダーの気持ち分かれよ!」
「お、落ち着いてリーダー! 辺りが段々凍ってきてるッ! ボク達まで凍っちゃう!」
……何やら外野が騒がしいなぁ。折角ソフィアちゃんにこの傷ついた心を癒してもらってるのに……流石は癒しの王────そのギフトはどうやら心まで癒してくれるようだ。
……あ、意外と大きかった。普通に柔らかいや。