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プロローグ

 見晴らしのいい草原。広がる青空が清々しいものであり、心地よい風が俺の頬を撫で、深呼吸すれば美味しい空気が肺に入ってしまう。

 こんな日は優雅にピクニックでもしたいなー……なんて思ってしまうのは仕方がないだろう。

 今日は素晴らしい快晴、絶好のお散歩日和。こういう日にこそ、美人なおねぇさんを連れてキャッキャウフフしたい。うん、切実に。

 まぁ、そんな事を言っても仕方がない。恋人がいないどころか、今は依頼の真っ最中なのだ。夜、こっそりとお姉ちゃんに癒してもらおう。

 さぁ、お兄さん張り切ってお仕事しちゃうぞー! 頑張った後の自分へのご褒美が楽しみだか

 ドガァァァァン!!!


「どわっふ!?」


 張り切りましょうのプロローグの最中、俺の横がいきなり爆ぜた。

 間一髪避けられたものの、俺の隣には青々とした草原の草が真っ赤に燃えている。加えて言えば、狼に似ている魔物の残骸が散らばっていた。


「あ、わりぃロイ! ちょっとそっちに流れちまったわ!」


 そう言って、悪びれもなく嬉々とした表情で大剣を振る赤髪の女性。胸元が大きく開かれた服装が何とも視線を引いてしまい、そのムチムチなナイスバディは俺の鼻の下を伸ばさせる────うぅむ、今日も素晴らしい。

 でも────


「お前ッ、ふざけんなよ!? 開始数秒の出番で消える寸前────死ぬところだっただろうがど阿呆ッ!」


 その大剣からは紅蓮の炎を撒き散らし、漏れた炎が地面に触れると、勢いよく爆ぜていく。

 そんな事をしている本人の顔は可愛いよりも美人系。色っぽさ抜群で街にいたら思わず声をかけてしまうのだが、今の彼女には心の底から近づきたくない────多分、死ぬ。


「細けぇ事は気にすんな! 死んでもソフィアに頼めば生き返らせてくれるだろ!」

「そう言う問題じゃねぇんだよこの戦闘狂が! 痛いの! 死んだら痛いのよ分かるかねそこのお嬢さん!?」


 赤髪の女性────イザベルに向かって罵声を浴びせるが、彼女は気にした様子もなく辺りの魔獣を蹴散らし────美しき草原を焼け野原へと変えていく。


 折角綺麗な場所だったのになぁ……。

 そんな光景に悲しく思っていると、不意に横からトテトテと可愛らしい歩きで近づいてくる少女がいた。


「……」


 金色の髪に小柄な体躯、小動物を連想させるような可愛らしい顔立ちに白一色の修道服。うん、今日も可愛いね癒されるねー。


「……」


 そんな心洗われるような少女が俺の隣まで辿り着いた。俺は黙って笑顔で見守る。そして、しゃがみこんで魔物と思わしき残骸に手を伸ばすと────


蘇生リカバリー!」

「グルァァァァ!」

「ちょ、何してんのソフィアちゃん!?」


 魔物が復活してしまった。そして、あろうことか俺に向かって狼もどきの魔獣は牙を向けてくる。

 またしても命の危機ッ!


「くっ! 影落シャディア!」


 突然の事で驚くが、とりあえず魔獣を生み出した影に沈める。姿形は消え、危険は去ったものの……心臓バックバクである。


「ちょっとぉぉぉぉぉぉっ! ソフィアちゃぁぁぁぁぁぁん!? なに魔物生き返らせてんのよ!? 仲間が一人襲われかけちゃったんだけどなぁ!?」

「で、ですが……死んじゃったら可哀想ですし……」

「お仲間も死んじゃうんだけど!?」

「だ、大丈夫ですっ! ロイドさんは死にません! それに、死んじゃっても私が生き返らせてあげますから!」

「絶対そう言う問題じゃないと思うよ!?」


 拳を握り、頑張りますと息巻く少女────ソフィアに若干恐怖してしまう。謎の信頼と自分の自信が猟奇的だ。

 生き返らせると言っても、死ぬ時の痛みは味わうのだ────本当に、生き返らせるという問題じゃないと思う。


「そうだよソフィア。魔物は生き返らせたらダメじゃないか」


 そして、そんな俺達に次なる人物が現れた。肩口まで切りそろえた黒髪に、茶色いローブを纏った幼い少女。片目だけの眼鏡が異様に変人に見えてしまう。


「もっと言ってやれポーレット。蘇生はダメだと、俺を危険な目に合わせない事を!」

「生き返らせたら、ボクの眷属にできないじゃないか!」

「そこじゃない。言って欲しいのはそこじゃない」


 この子は俺の身を案じてくれないのだろうか? お仲間としての意識を皆持って欲しい。ボクの一人称だが、完全に可愛い顔立ちの所為で違和感しか生まれない。多分、無理してその口調なんだろうなぁ。


「それより見てよロイド! ボクの眷属がまた増えたんだ!」


 そう言って、後ろを興奮した表情で指差す黒髪の少女────ポーレット。

 その指差した後ろには、大量のツギハギだらけの狼の魔獣の姿が────


「……また、増やしたのか? そろそろリーダーに怒られるぞ?」

「リーダーの事は気にしない! 死者の王であるボクの眷属はまだまだ足りないんだ、これからもじゃんじゃん増やさないとね!」


 そう言って、薄い胸を張るポーレット。死体だったからなのか目は虚ろで、普通に気味が悪い。後、臭い。


「ポーレット……臭い」

「それボクが臭いわけじゃないからね!? 眷属が臭いからだよね!?」


 思わず鼻を摘んでしまう臭さだ。隣にいるソフィアちゃんも鼻を摘んでいる。

 眷属の体臭くらい管理しとけよ。お前王だろ? ……まぁ、アンデッドは臭いと相場が決まってるから仕方ないかもな。腐敗だし。


「そもそも、レディーに対してその言い方はいただけないかな!? 謝って! いたいけな乙女に謝って!」


 目の前で憤慨するポーレット。地団駄を踏んで謝罪を要求してくるが────


「もっと成長してから……な?」

「それはボクがちびっ子だからって事!?」


 いやー、だってお前本当にちびじゃん。歳も俺より四つ下だし、ポーレット然りソフィアちゃん然り……女の子の魅力に欠ける貧しい身体じゃない? そんなポーレットをレディーと認めるなんて……出直してきて欲しい。

 欲を言えばイザベルみたいな体とソフィアちゃんみたいな性格になって出直してきて欲しい。


「あの……ロイドさん?」

「なんだいソフィアちゃん?」


 ソフィアが服の袖を摘んで声をかける。そして、おずおずとイザベルがいる方向に指差した。

 ふむふむどれどれ……?


「あーっはっはっはー! 今日も快勝爽快! やっぱ討伐クエストはいいなー!」


 そこには気持ちよさそうに高笑いをするイザベルに────辺り一帯焼け焦げた草原だった。

 今のこの地にはあの気持ち良い草原の姿なんてものはなく、何処か戦争でもあったのかと思わせるような悲惨なものだった。煙を上げる草原が悲しく見えてくる。


「……また、リーダーに怒られるね」

「怒られるな」

「怒られますね」


 ここ一体は公爵家の管轄の場所だ。そんな場所が一気に焼け野原になってしまったとなれば────また、うちのギルドの評判が下がるなぁ……。

 リーダーがそこら辺何とかしてくれるし……まぁ、いっか!


「いやぁ! 今日も楽しかったな! な!?」


 そして、焼け野原に変えた元凶が俺達の元に近づいてきた。己の仕出かした事を理解せず、ただただ自分の欲に素直に従ったイザベル。

 そんな彼女に俺達は────


「お仕置おめでとう!」

「今回はボク関係ないんで、お仕置頑張ってね」

「え、えーっと……ファイトですっ!」

「ちょっと待ち。その励ましはどういう事だ?」


 こうして、今日も俺達のクエストは無事? に終わった。若干、焼け野原になっている事やら、死んだ魔物がゾンビになっているが……まぁ、依頼は無事完遂したって事でいいだろう。


 これが俺達の日常。

 ────ギルド『クラウン』。これが俺達の物語の拠点である。


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