世界の一日
大昔、この国には三つの種族が生まれたと言います。
太陽のように耀く美しさを持つ、朝を司るダークエルフ。
月のようにきらめく美しさを持つ、夜を司るエルフ。
二つのような美しさは無いけれど、それを補う豊かさ持つ、昼を司るヒト。
彼らは種族ごとに国を作って暮らし始めました。
それぞれの種族が一人亡くなる度、それを司る時間は小さくなりました。それぞれの種族が一人産まれる度、それを司る時間は大きくなりました。
時間が綺麗に三等分された世界で、彼らは仲良く生きていたのです。
そんな世界では、暫く経つと徐々にヒトが力を付けていきました。ヒトは二種族より豊満な体と力を持っていましたから、それを利用して悪事をするものが現れたのです。
残りの二種族は抵抗をしたものの、多くの者が惨いことをさせられました。それに対して二種族が戦を仕掛けるなど、時代は酷い有様でした。二種族も、ヒトも、無辜な者ほど沢山消えてゆき、一日の各時間は、短期間でコロコロと変わっていきました。
そんな時でした。それぞれの種族に、それぞれの王が現れました。
最初に現れた国はダークエルフの国でした。唐突に、地を張うような肌の色と、日光のような輝きの髪を持った青年が現れたのです。彼は自身を「王」と名乗りました。そして、「各国に王が産まれる」とも、宣言しました。その予告どうりに、次にエルフの国に、そしてヒトの国に、それぞれその種族で最も美しいとされる姿で"王"が現れたのです。
そして彼らは総じて「他の王と力を合わせ、そして我らが民を導く」と告げました。
勿論、この世に疲弊していた者以外は、頷くことはありませんでした。「そんなものが現れて困る」といった声も、悲しいかな、決して少なくはありませんでした。その為、各国の王の早くは発見されて直ぐに、遅くは一週間後には皆、死にました。
その時、民は最初の王が言った「産まれる」という意味を理解したのです。各王は死んだ次の日に、また現れました。最初とは違う場所で、しかし、最初とは全く同じ姿で現れたのです。ヒトの王以外は記憶も継承しているようで、彼らは前の人生の全てを覚えていました。何度も何度も、彼らは産まれ変わりました。
そして、畏怖と信仰を受けながら、彼らは三種族の、正真正銘の"王"となったのです。
彼らの政治のおかげで、世界は平和になりました。王の存在も認められるようになりました。少なくとも、街の話題で種族間の悪口が始まることは無くなったのです。
そうやって、長い長い時がたった時、ダークエルフの王は言いました。
"大昔、ヒトのやったことを余は許せない。これ以上、ヒトが生きていることを黙認することは出来ない"
その言葉を筆頭に、仲間意識の強い性質を持ったダークエルフ達はヒトに戦をしかけました。その王は王の中でも一際、三種族から信頼を寄せられていました。最初に産まれた王でありましたし、物腰の柔らかく優しい心を持った王であったのです。
その為、二種族は口々にこう言いました。「なにか理由があるのだ」「話せば分かってくれるお方だ」しかし、期待が裏切られる度に、徐々にそう話すものは減っていきました。そして、いつの日かそれは二種族とダークエルフの全面戦争となってしまいました。あの心優しき王は、"魔王"と呼ばれるようになりました。
いつもはそのような事を止める王達は、その時だけは、ただ黙ったままでした。世は荒れ、そしていつの日か、ダークエルフは皆滅びました。ふた月もかからない、小さな国滅ぼしでした。呆気ない終わりでした。そして、エルフの国の、のちの英雄がかの王の首を捧げた時、エルフの王は言いました。
「もう、彼が産まれることはない。これからは、我が"魔王"だ」