表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はちみつと夜  作者: 山内瑞穂
1/3

はじまり

ヒトの王の姿を一部変えました。

焦げ茶色の枝毛は、しんしんと光るはちみつ色の絹糸へ。

オリーブ色の豊かな瞳は、髪と同色の高貴な瞳へ。

薄卵色の肌は赤褐色へと変化して、傷跡を何一つ残さない。

耳の先はやわらかなとがりを帯びて、そこには人智を超えた何かが立っていた。


今までそこに立っていた、平凡な村娘の影形も居なかった。いるのはただただ"美しい"、天上人のようで―――――心の底から恐ろしい、姿。


元村娘の周りにいた少女たちは、最初はぽかん、ときらびやかな変身に目を輝かせていた。しかし、状況を把握した者から顔がゆっくりとひきつっていく。注目されている元村娘は、目を白黒させている。

「……化け物」

そう、少女達のなかの一人が呟いた。自身を落ち着かせるためのそれは、皮肉なことに、周りに恐怖を伝染させるだけであった。かん高い叫びが辺りに響く。言葉にならない声を上げて、あるものは転び、あるものは先ほどまで抱えていた作物を踏みつぶし、元村娘から散り散りに逃げていく。周りは阿鼻叫喚だ。ただ、取り残された元村娘だけが、すがるような顔で手を伸ばしたまま固まっていた。

「ど、どうしたの?」

元村娘の声が聞こえる。周りは潰れた作物で荒れ果て、彼女の顔を見たものから、次々に家の扉を閉めた。一人、やややせ細った老婆だけが彼女に向かっていた。決して裕福といえる見た目ではなかったが、みすぼらしさは感じさせない。ゆっくりと、しかし確実に足を進めている。

「せんせ……、私、私、どうなってるの…?」

聞きたくないと耳を塞いで震える彼女に対して、老婆はゆっくりと手を広げた。老婆もまた、震えながらにっこりと笑う。

「ソラ、おいで?」

二人の視線が交わう。ソラと言われた元村娘は、安心したように、老婆に対して一歩近づいた。その時であった。


「行け、フール!」

男の怒号が辺りに響く。それと同時に、ゴス、と鈍い殴打音も辺りに響いた。ソラは顔から地面に倒れ、次には動けないように手を縛られる。潰れた肺からいやな呼吸が漏れた時、ほんの一時だけ、縛る力が弱まった気がした。てのひらにジュクと痛みが走る。「ソラ、ソラ!」と必死に叫ぶ老婆の声の大きさと比例して、ソラの意識は瞼を閉じた。





自然豊かな森の中に、静かにそれはそびえ立っていた。気品を感じられるが、決してうるさくはない古城だ。湖に囲まれ、空には鳥や虫が飛びかい、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような場所である。


ばたばたと足音が廊下に響く。それを注意したものは、事情を聞いてまた自身も走り出した。この城は基本、大きな音は届かない仕組みになっている。それでも音は、王達のもとに響いたのだ。

この城の奥には、広い客間がある。現在そこは飾り立てられており、テーブルクロスの上には豪華絢爛な食事が並べられていた。そこに、二人の男が向かい合っている。

一人は象牙色のなめらかな肌と、濡れ羽色の艶とした髪と瞳を持つ、19、20くらいの青年だ。長い長い髪を編み込んで、その下から一つに結んだ髪を流している。シンプルなつくりだが上品さを感じる服装もまた、色味さえ違うが黒色であった。"美しい"という言葉では表せないような天上の見た目をしており、銀の装飾が美貌をさらに引き立たせていた。そんな彼は、不機嫌そうに眉を寄せる。赤いワインの入ったグラスをゆらゆらとまわして、それを眺めながらむっすりとしていた。

もう一人は薄卵色の肌にオリーブ色にたなびく髪と瞳を持つ、30くらいの男性だ。後ろに流した髪の上には金で作られた額飾りが輝いている。白を基調とした服は金と赤で彩られており、威厳や誇りが感じられる。片手で同じく赤ワインを持ちながら、不機嫌そうに目前を見ていた。彼もまた美しく清廉な見た目をしているが、何処か掴みどころがない冷徹さがあった。


彼らの後ろには、毒見と思われる使用人と、体格の良い男の護衛が立っている。彼らもまた、何処か不安そうに、また不機嫌そうな顔をしていた。彼らが不機嫌な理由はおおむね同じだ。無論、この場所まで響く足音である。しかも徐々に大きく、よく聞くと増えてもいる。

「つまらぬことでなければよいがなぁ」

そう言って、黒い王はワインを一口飲む。ひときわ大きい足音が聞こえた後、扉の前で足音が止んだ。使用人を扉の両端に移動させる。暫くすると、静かな部屋にノック音が響いた。二人はちらりと視線を交わして、黒い王が「入れ」と落ち着いた声で言った。

「失礼します」と、二人の男が入ってくる。緊張した面持ちで入ってきた二人はそれぞれ王の隣に進み、了承を得てから耳元で囁いた。


「なんと」

そう、面白そうに囁いたのは黒い王の方だ。銀の王は真剣そうに考え込んでいる。

「この場はお開きにしようでないか、リュウィン」

にこにこと、上機嫌に黒い王は笑う。対して、銀の王は険しい顔で悩んでいる。

「あぁ、私も民が心配だ。申し訳ないが帰らせてもらおう」

「気にするな。我自身退屈にしていたところだからな」

そう言って、黒い王は無邪気に笑ってみせた。その満面の笑みに、一部の者は眉をひそめる。彼の耳元で囁いた者だけが、ふむ、と毒見に声をかけた。毒見の青年は慌てて駆け出す。

「行くぞイア。準備をしろ、さっさとな。」

黒い王はそんなことを気にする素振りもなく、そう護衛の青年に言い、そそくさと席を立った。青年は慌てたように追いかけ、「どらへ行こうとしておられるのですか!!」と慌てたように叫ぶ。目線は時折、隠れるように銀の王の方を向いていた。黒い王は半身で振り向いて、意地が悪そうににやりと笑った。


「朝日を見に行くのだ!!大仕事はまだ終わらん!

せいぜい三日で死なないように、気を引き締めろ?イア」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ