神代の秘密
「ねえあのね」
「ん?」
彼女は今の複雑な心境なりにいろいろ考えているらしく、実家に戻るとかそういうことはないが実家にしばらくは寄ったりするようにしたい、と。完全に帰省するわけではないので当然日帰りだったりするんだけど、実家を離れた理由は彼女の力が暴走するのを抑えるためだ。決してそれは正しい選択とは思えない。もう少しきちんと考えたうえでそれしかない、と思えるようなものを受け入れていきたい。もちろんお義父さんだって家に帰るというのは許さないだろう。家族総出で決めたうえで俺との結婚を許してくれたんだし。それに実家に帰ったら間違いなく彼女はこの先に起こることを見てしまう。そうなってしまったら彼女は優しいから何としてもそれを変えるために動くに違いない。たとえそれがどんなに危険な未来であっても。
修正力というものが歴史に働くように、俺たちの行動もすべてまるで必然のように決まっている。だからこそ神は人間が未来を見るころがないように未来予知なんてものを人間から奪い取ったのだ。……一部を除いて。そのうちの一つが神代一族。だけど彼らの力は断片的な未来しか見えない。彼らの力のおおもとは何度も同じ時間を繰り返す中でたった一つだけ、修正力の影響が薄い世界にて自分の望んだ結末になるように見届ける方だ。見届け、そして見届け終わった瞬間に命が尽きる。神に近い力には代償があるし、それが命だった。修正力というものはどうやっても世界をむしばむ「イレギュラー」を排除するために働く。それがたとえその時代に生きる神の抗いだとしても、それを世界が受け入れない限り同じ結末になるように世界は枝分かれする。ちょっとした違いがあっても、その違いだって最終的に大きな結末が変わらないから変えたところで意味のない部分が変わっているようなものだ。
「神代の時間移動の力は当代の人間でもわからない、って言ったよね?」
「うん。力を行使した瞬間寿命が決まるってのも」
「だとしたらさ……」
「お義父さんは何を変えたかったのか。それを聞いておく必要は……あるのかもね」
その人間が生きてる中でもっとも変えたい結末だけをただひたすらにループし、無限に広がる時間の中でその力を行使している人間にとって「大事な人間」がそれを観測した瞬間にループは終了する。……お義父さんはおそらく何かを変え、誰かが観測した。そして望んだ結果になったためもう寿命がすぐそこに来ている。そう考えるのが自然だ。彼が神代の外から来た人間だという事だけを除けば。