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Time Loves  作者: ジャンマルγ
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平和な男の平和な日

 ごく平凡な日が続き数十年。生まれたときにはすでにいろいろな国が和平を結び世界平和という礎の元安全圏な暮らしができている中でなんとなく、「物足りないな」そう思いながらも自分たちはこの平和な時間を楽しんでいた。勉強が好きだった自分は大学もしっかり出て、そして嫁までもらって。順風満帆で理想の人生。そんな人生の絶頂ともいえる自分だったが最近はもっぱら仕事で疲れがたまっていく一方で少しだけ、ほんの少しだけあまり気が乗らないことが増えたりしていた。良くも悪くもいえば、同じような毎日でマンネリ化して、いまいち生きている実感を持てなくなっていた。

 最近は仕事の残業も増えていることもあり家にいる時間が減ったりして休みをもらっても休んでいる気がしなかったり。だけど仕事もここが踏ん張りどころであるのは間違いなかったし、仕事自体はこなせるように日々を過ごした。

 そんな中で久々に家で過ごすことになるきっかけは上司の何気ない一言だった。出社するや否や突然有給の書類を手渡された。普通に働いていればそんなことはないらしいのだが自分の部署の上司は妻と面識があり、最近自分が家に帰っておらず妻が寂しそうにしているのも知っていたらしいが、仕事の方が量が量で声をかけにくかったらしい。だけども仕事にある程度折り合いがつき少しだけ楽になったタイミングで声をかけられた。


「社長にはうまく伝えとくからさ」

「ええ、でも今大事な時期ですし……」

「奥さん、神代の家には帰ったのか?」

「えっ?」


 神代。妻の旧姓であり実家には結婚してから顔を出せていなかった。部長はそもそもが妻の生まれた神代の家の直接の家計ではないものの、昔から交流のある人だとは妻から聞いてはいた。だけども、改めて直接詳しい話を部長本人から聞いたりするとやはり夫としては少し複雑な面があった。情けないというか、なんというか。部長は「詳しく話せない事情はないが神代の家は少し特殊だからゆっくり話す機会がないとだめかもしれんな。」そう言って休みを押し付け、今日のところは提示上がりをすることになった。突然明日来なくていいよ。といわれてもやりたいこととかは今ないし少し困ったけど……

 部長の言う通り妻とゆっくり話したりしてお互いに話したいものとかも話せていない、というのはちょっと気にしてたし。おとなしく休みを家で過ごすことにした。


 ちょっとだけ聞いた話があるのは神代、という家は由緒正しき神に仕える家柄であり、巫女……というのはちょっと違うらしいが。しかし家を継ぐのは代々一番神様に近い子が務めるらしい。妻も最初はそうなる予定だったが……幼稚園くらいの時に一度だけ原因が不明の高熱に陥ったことがあるらしい。お医者様が言うには家のことでいろいろ悩んだりとかそういうストレス的な部分からきているんじゃないか。ってことだったらしいが両親は彼女が家の伝統を継ぐ、という立場は神様と近すぎるから幼い彼女には身体的にも耐えられないのかもしれない。という事で急遽家の使いの役割は彼女の姉が引き継ぐ形になった。

 家系的にはそういう過去の記録はないらしいのだが神様に仕えている、というのはどうやら迷信とかそういうのではないのだという。


 そんなこともあり妻は特殊な家計の生まれであり、俺みたいな人間と結婚したりはありえないはずだったのだが……同じ大学で勉強している俺を見つけたときに彼女は「運命的な出会いです。私はあなたと一緒に生きていきます。」となんとも言えない電波なプロポーズを受けてしまった……。最初こそ迷惑そうに自分もふるまっていたが最初に神代の家のことを聞かされた時彼女の言う運命、という言葉に説得力があったこともありそのまま交際。のちに結婚をした。

 とはいえ、結婚したのだって仕事が少しうまく生き始めて貯金もたまってからだったし、それがかえって家に帰れなくなる原因になったりもした。それ故に家のことは全く分からないが実家にも帰れていないため大体今回は10日ぶりに家でゆっくり休むことになる。妻とはメールなりで会話したりはしていたから直接会うのが久しぶり、という事になる。ビデオ通話だったりもやってはいなかったので顔すら見るのも久しぶりという状態。正直こんなのが続いたら夫婦愛は冷めるんじゃないかとも心配になる。そうなってしまったら彼女の実家にも顔向けできないし幸せだからやってこられた今までが台無しになってしまうし。何より離婚なんてしよものなら彼女の結婚したいから神代の伝統からは外れたい、という願いがなしになってしまい神代の伝統を彼女が引き継ぐことになる。

 若いうちは彼女の身体的な部分で荷が重かっただけであり、二十歳を過ぎた彼女は今更とはいえ神代の伝統を継ぐには問題点は解消しているのだ。何よりご両親が結婚させるのは伝統から離すことができるから結婚を認めたのであり、離婚しちゃえばご両親的にも複雑だろう。まあうちの両親はそんなことどうでもいいと思ってそうだけど。


 結婚自体がお互いにとって得があったのは事実だし損得勘定で結婚したわけじゃないのも事実だ。だけども自分が家にいないというだけで夫婦の仲はマンネリ化していく。煙草も酒も普段は飲んだりしないが今夜は妻と二人で酒の席にでもしようと思う。こういってしまえばダメかもしれないが酒の力に頼ってお互いにちゃんと自分のことについてもっとじっくり話し合おうと。

 さっきメールで家に帰るし有給で明日は休みという旨は伝えてある。そこに関しては心配いらない。


「ああ、そうだそうだ。奥さんにこれ、渡しておいて」

「え?」


 部長から手渡されたのは神代と文字の書かれた包みだった。どうやら手違いで部長の家に送られただけでそれを渡しに来たのだという。中身はわからないが薄いお札のような気がした。結婚祝いか何かだろうか?とはいえ結婚祝いにしてはこんな時期に出すのは季節外れな気がする。開けてみて中身はわかるのだからおとなしくこれを妻に渡せばいいだけである。

 でもやっぱりなぜしかも手渡しなんだ?そこに意味はあまり無いような気がするが。

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