表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

安眠マクラ

作者: N(えぬ)
掲載日:2020/06/09

 月の綺麗な夜だ。

 翔平の部屋には夕子が来ていて、きょうは翔平の誕生日を祝うために平日だったが二人ともなんとか仕事をやり遂げて20時には会うことが出来た。


 翔平は、「食事は外でも」と言ったが、夕子は「記念の日は出来れば自分で作ったものを家族で食べたいから」と言った。このとき翔平は夕子が「家族で」と言ったのを気に留めた。彼女はもう、自分との将来のことを考えているのかも知れない。そう感じた。そして、それは悪い気がしなかった。


 夕子は料理が好きで、リクエストすれば何でも作ってくれた。けれど翔平は、どうも小さいころから「食べるものが決まっている」たちで、母親がそうしたわけでは無いが、数種類の献立を毎日ローテーションで食べていても全く平気だった。夕子が作ってくれる料理はおいしかったが、たまに見たことも無いものがテーブルに並ぶと、面食らってしまうこともあった。翔平はそう言う彼女を見ているうちに、

「こんど、俺もなにか自分で作って夕子にごちそうできるようになりたいよ」そう言った。

「ほんと?それは楽しみ」

 夕子は笑うとえくぼが出来る。


 夕食のあとの片付けまで終わったのは23時近かった。夕子は慌てて、

「マズい。きょう中に渡さないと一日遅れになっちゃう」

 そう言って、翔平の気をずっと引いていた、かなり大きな袋の中のものを夕子は取り出して、

「はい。ショウヘイ、誕生日おめでとう!」

 彼女は両腕を水平に前に伸ばして差しだした。それは、「枕」だった。

「ん?マクラかな?」

 翔平は確かめるように彼女の手からそれを受け取った。

「そう。「安眠マクラ」よ」

「安眠マクラ?ああ、なんか、よく通販番組とかで売ってるようなヤツ?」

「それが違うのよ~。市販はされてないの。わたしが住んでいる町にいるちょっと有名な発明家の博士が作ったものなの」

「へぇ~。そう言う人ってほんとにいるんだ。……マクラかぁ」

「なんか、信じてないでしょ?!」

「あはは。町の発明家が作ったっていうの、すごくうさんくさいもんナァ」翔平はそう言って、マクラをいろんな角度から見てみた。

 マクラは、茶色と藍色の細かい花のような模様の布で袋状に作られた、和寝具のマクラの形をしていて、中に「少し弾力のある粒状のなにか」がぎゅっと目一杯詰まっているようだ。そして、見た目よりずっと軽い。

「このマクラ、博士にもらって、わたしもひとつ持っているの。それ以来、ずっと使ってる。だからわたしの保証付きで安眠が出来るわ」

「そうなんだ。それは、頼もしいなあ」

「これに頭を乗せて横になると、マクラの中のツブツブの吸収体が頭の余分な熱や頭痛の元になるようなもの、ストレスに繋がる出来事から出るマイナスエネルギーなんかをゆっくり吸収していってくれるの。そして気分よく、その日に起きたイヤなことは何もかも忘れさせてくれて、ぐっすり眠れる。っていうことだって博士が言ってた!」

「なんか、スゴイものだね……そのツブツブって言うのが、なんなのか、気になるよ」

「うん、わたしもそれを博士に聞いたんだけど。そうしたら「それはそのマクラを開発する上での一番重要なことだから教えられない」って。けれど、体に害のあるものじゃ無く、むかしから存在するものなんだって」

「ふうん」

「そのマクラは、使っていくと毎日、人のそういうストレスになるものを吸収してくれるんだけど、ツブツブ自体は小さく硬くなっていくの。で、ずーっと使ってると、そのうちに弾力も無いサラサラの砂みたいになってしまうのよ。そうなってしまうと、もうマクラの効果は無くなってしまうの」

「吸収するのに、膨らまずに縮むのか」

「そう。そうなったら、いい月の出た夜に、月の光が当たる場所にマクラを置いておくと、また中身のツブが膨らみを取り戻して、ふっくらするのよ」

「おもしろい性質なんだねえ。じゃあ、きょう、早速使ってみるよ。ありがとう、夕子」

 翔平はうれしそうに夕子にそう言った。

「うん、そうして。ビックリするくらいよく眠れるよ!」

 夕子はそう言って窓の外を少し見た。

「きょうは、いまちょうどいいお月様が出てるから、ちょっとマクラを外に出してみましょ」

 そういうと、サッシを開けてベランダに出た。翔平もマクラを持ってつづく。

「わあ、このマクラ!」

 マクラは月の光を受けて、ぼんやりと青く光っている。

「いま、このマクラは中の粒々が完全に膨らんだ状態なの。こういうときに月の光に当てると、こうやって光るの。この光の色、月の光の色と一緒なの。月が青白いときは青白く、赤っぽく光るときはマクラも赤っぽく光るの。中に詰まっているツブツブが、月の光と呼応しているんだって」

「幻想的だねえ」

「ほんと。見ていると気持ちが安らぐ光なの」

 翔平は夕子を見つめた。

「きょう、もう遅くなったし、泊まっていく?」

「え、うん……」

「このマクラの感想を話しながら眠ろう。あ、でも、夕子のマクラもあればいいのにな」

「ううん、あたしはきょうは、翔平の腕マクラでいい夢を見るワ」



タイトル「安眠マクラ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ