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捨てられた小さな命
俺は差し出された赤子を抱く。ちょっと重たい。
「名前はアルムです。どうか大事に育てて下さい」
そう言うとオリビアは部屋から出て行こうとする。
「ちょっと待て。まさか子供を捨てていくのか?!」
ラムセスがそう怒鳴るとオリビアは泣き出した。
「仕方ないんです…こうしないと私は家に戻れません。家に帰って次の子を産み、乳を世界に提供するのが半山羊人の定め」
「そんな…」
ユリは絶句する。俺も…言葉が出ない。
「さようなら、ヴァン.どうかアルムをお願いします…」
そう言ってオリビアは俺達を振り切って出て行った。
「……」
「まぁま…」
俺の腕の中で小さなアルム…ジュニアは身をよじる。
「……」
たった今…何も分からないまま母親に捨てられたこの子を俺は…
「俺が育てる…」
「ヴァンが?」
「いや…難しいだろう。世話係りをつける。今は黒豹王を倒す事だけを考えろ」
「うん…」
世話係りに連れて行かれるジュニアを見送りながら…俺の中で黒豹王への殺意が少しだけ薄らいだ。