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ポスター  作者: 長迫
3/20

3

 また同じ曲を歌いながらイサムはベッドにもぞもぞと入った。

やはり曲名は出てこない。

ベッドに倒れ込もうとすると、何かがぶつかった。

ワカゾノだ。

布団をめくり上げると、不満そうに顔をしかめる。

ワカゾノをどついて端に押しやり、無理矢理ベッドに入ったイサムは

声をかける。


 「ワカゾノ、寝てたのかい」


 「寒い」


 「珍しいじゃねえか、寝てんのなんか」


 「寒いってば」


嫌味のひとつでも言ってやろうと上体を起こしたが、

会話をする気配のないワカゾノの寝顔を見下ろし、

イサムは深いため息をつく。

また見たことの無い服を着ている。

ワカゾノの浪費癖に泣きたくなってイサムは

乱暴に頭から布団をかぶった。

その勢いにすっかり目を覚ましのかワカゾノは

イサムの脇腹を拳で軽く殴って、ずるずるとベッドから降りた。


 「いてえな、なにすんだよ」


脇腹をさすりながら寝転がっているイサムの顔を覗き込みワカゾノは


 「お勤めご苦労さん」


と言った。

イサムはワカゾノの顔をじっくり眺めてみる。

あの日、ライブハウスで出会ったとき、

まだワカゾノはこんな憎らしい顔つきではなかったはずだ。

イサムはまたもや後悔でいっぱいになった頭を抱え込む。

人を見る目がないにも程がある。

イサムはワカゾノの頭を小突く。

ワカゾノはイサムの憤怒を他所にへらへら笑っている。


 「腹減った」


イサムの脚が伸びていると知りながら

ワカゾノはわざわざ踏みつけるように布団の上に座り込んだ。


 「いてえって。いてえよ、降りろ」


イサムはそう言ってはみたものの、

もうワカゾノを構ってやる気力も体力もなかった。

無反応のイサムをつまらなく思ったワカゾノは

ベッドから離れてテレビをつけた。

イサムは寝返りを打つ。

やっと眠れる。

そのうちにワカゾノもどこかに出かけるだろう。

イサムの財布から数枚の紙幣を抜き取って。

テレビからは料理番組の音が流れてくる。

女性アナウンサーの甲高い声と、

一流シェフのユーモラスな解説が聞こえる。

身体中に溜まっていた疲労が一気に押し寄せてきて

イサムの意識はいよいよ朦朧としてきた。

ところが、みるみるうちに大きくなってゆく音量に

睡眠を中断せざるを得なくなってしまった。

ワカゾノの子どもっぽいやり方にはいい加減

我慢がならない。


床に出しっ放しの雑誌を丸めてテレビの前に

ぼんやり座っているワカゾノの頭を思い切り叩くと、

イサムはテレビを消した。


 

 「なにすんだよ」


ワカゾノは大袈裟に頭をさすってみせた。


 「うるせえだろ。俺は寝るんだよ。働いて疲れてんだ」


 「腹減った」


 「お前も家賃の半分ぐらい払ったらどうなんだよ。

  俺を頼るのは止めてくれないか

  俺はイキモノ飼うほど稼いじゃいないんだから」


いつになく真剣なイサムの顔をじっと見返し、

ワカゾノは一言、こう言った。


 「腹減ったな」

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