8
「お兄ちゃん、知り合い?」
一瞬の沈黙を破り、場の空気を和らげたのは妹の言葉だった。不意に話しかけられたのと、彼女の外見が以前と異なり全身の肌の露出をさせないような格好になっていたために、反応に時間がかかった。
「えーっと…」
彼女…零と俺の関係を上手く示すには何という言葉を当てはめればいいのだろう。こんなとき、言葉の窮屈さを感じてしまう。本当は適切な言葉が存在するのかもしれないけど、自分の無知さよりも言葉の束縛性というか、一度その形に当てはめたら中々元に戻せなくなってしまうその性質を疎ましく思ってしまう。
「この前帰りが遅くなったときがあっただろ?そのときに道を案内してくれた方」
結局関係性を明言することを控え、言葉を濁すことで乗り切る。零を案内してくれた子、というには俺と彼女の距離感は近くなくて、案内してくれた人というほど遠くもない、そう思ったから方という言葉を使った。もしかしたらその表現すらも適切ではないのかもしれない。けど今の自分自身には精一杯の答えだった。
「なるほどね、初めまして。零さん、ですよね。この前は兄がお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそおかげさまで楽しい時間が過ごせましたので」
「いやー、困っちゃいますよ。毎度毎度外出する度にどっかいっちゃうんですよね…」
「いや、そんなことないだろ話を勝手に盛るな」
「そうだったっけ??」
そうとぼけてみせる妹に零はふふと笑っている。その姿を見てなんとはなしに気恥ずかしさを感じる。なんというかこう…周りに誰もいないと思って好きな歌を熱唱していたところを見られたような感じ。
「それはそうと…また会ったね。学校になにか用事でもあったの?」
「ううん…えっと、そうだね、やっぱり用事があったのかもしれない」
そういって零はさっきとは異なる種類の笑みを浮かべる。その表情から何も感じ取れないほど鈍くはないが、そこに足を踏み入れるほどの勇気もやはり俺は持ち合わせていない。
「零さん用事ってもう終わってます??もしよければ一緒に帰りませんか?」
ここらが俺の会話スキルの限界と感じ取ったのであろう妹の、さりげない気遣いに心の中で感謝をし、同意の意味を込めてうんうんと頷く。
「うーんと、あんまり二人の邪魔しちゃ悪いから遠慮しとくよ」
「そんなこと言わずに、一緒に行きましょ!邪魔なんかじゃないよね、お兄ちゃん?」
「うん、零が嫌じゃなければ是非。もっとこの街のこととか詳しく知りたいし…もし一緒にきてくれるなら嬉しい」
おっ、やるねー兄ちゃんという声が小さく聞こえてくるが聞こえないふりをする。
「それじゃ、ご一緒させてもらおうかな」
「ぜひぜひ!!積もる話もございましょうよ!あ、話が積もるほどまだ私たち一緒にいませんでしたね」
「とりあえずちょっとお前は静かにしてて?」
果たして端からみて俺たちはどのような関係性に見えているのだろうか?仲の良い友達同士、兄妹、?それとも…