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「君、迷子なの?」
思わぬところから聞こえてきた声に体が震える。真っ昼間なのに、もしかしたら幽霊?なんて考えが頭をよぎり警戒をしながら声の方を振り向く。まぁ、警戒と言っても心構えだけなのだけど。
「…誰?」
「誰とはご挨拶だね、それより先に僕の質問に答えてほしいんだけど?」
足があるので、幽霊ではない…よな?そんな疑問符がついてしまうほどには目の前の彼女の姿は現実離れしていた。ボサボサになった完全な白髪に、生気を吸いとられたような目。ボロボロの、もはや服としての役割を最低限にしかはたしていない布切れ。全身のところどころに見受けられる、アザや切り傷。彼女から先ほど発された、高いはっきりとした声とは全く釣り合いのとれていないその容貌に意識が持っていかれ、会話の内容を上手く飲み込むことができない。何なんだこの子…?虐待でもされてるのか?いやそもそも何で自分に声をかけた…?追い剥ぎとか…?今でもそんなのあるのか?逃げ道とか分からない…
「…?」
首を傾げてこちらを見ている彼女は、それきり言葉を発しようとはしない。その沈黙に思わず耐えきれなくなって、何とか適当な言葉を口から吐き出してみる。
「迷子じゃ…ない。ただ散歩に来ただけ」
「こんな人通りの少ないところに?」
「気分転換…したくて」
「ふーん、そっか」
それきりまた途絶える会話。彼女の目的が何なのかが一切分からない。…そもそも何も考えてはいないのかもしれない。とにかくここに留まる理由もないし、さっさと帰り道を探したい。日が暮れる前に、家に帰らないと親に心配をかけてしまうし…この時期に親に心配をかけるべきではないということは、子供心なりにも理解はしているつもりだ。…そもそも、迷子になってしまっている自分が言えたものでもないけど。
「そっち、行き止まりだけど」
「そ、そ、そそそそれ位分かってましたよ?ほ、ほら言ったじゃないですか?散歩したいんですって」
「嘘。行き止まりじゃないけど」
「ぐっ…」
本当に何なんだこいつ…何で自分がからかわれないといけないんだ…
「帰り道、教えてあげよっか?僕ここらへん道分かるけど」
「いや、結構です。帰り道分かりますんで」
もっとまともな人だったら頼んでたかもしれないけど、こいつだけは何かやだ。怪しいし、からかうし!
「ふーん、ま、いいけど。」
「それじゃ」
そう言い残し、元来た道を歩き帰ろうとする。携帯があればまた状況でも変わっていたんだろうけど、生憎持ち合わせていない。最悪どこかの家に電話を借りるか道を教えてもらうかしないといけないな…そんな覚悟を決めた瞬間を見計らったかのように、後ろから声がかかる。
「ここら辺、一番近くの家でも歩いて20分くらいかかるけど」
…そういうことは早く言ってくれ。と心の中だけで呟いた