ムカつく敵と理解できない神王様
「クソがっ……!」
何がクソかって、体力切れですよ。
体力が残り50。それなのに私は今、肩で息をしながら全力で走っている。
この体力値だと、少し休むか、歩いた方がいいんだけど……
絶賛、魔物に追われています!!
もう帰ろうと思っていたのに、なんでそんなときに⁉︎マジふざけんな!!
相手は虫型のはぐれワーキングビー。働き蜂が魔物化してデカくなった感じのヤツ。ぶっちゃけかなりキモい。
普段は集団でいるから、遠目からもわかりやすくて近づかないんだけど1匹だけだったから見逃してしまった。
気づいたのはあいつとの距離が1キロ切ったかそれくらいの時。そこから全力で逃げてます!!
こんなことになるなら【神眼】の無駄遣いでもなんでも良いから、使って索敵しとくべきだった。
今悔いても、もう遅い。次からは絶対にそうしよう。
生きて帰れたらそうしよう。うん、絶対に。
しかも、ワーキングビーは1匹だけでも今の私にはキツイ。
速いし、毒持ちだし……時間をかけるときっと仲間がコイツを探しに来る。コイツはあくまで、集団からはぐれているだけだから。
どうにかしないと……。
【強化】とか【凶化】あたりをして逃げられるか?いや、この体力じゃ身体が耐えられない。
スキルに負けて心臓が破裂するか、動けなくなって魔物に喰われるか。どっちにしろ死ぬ未来しかない。
どうする、どうすればいい訳⁉︎
こうなったら、魔法に頼るしか無い?
でも、足止め出来そうな魔法スキルは持ってないから、無理だ。
「……って、わっ!!」
ワーキングビーが攻撃を仕掛けてきた。というか追いつかれた!というか回り込まれて攻撃しやがった!!
咄嗟に八咫霧で防いだけど……針が腕に掠った。毒を少しだけど貰ったっぽい。
まぁ、毒って言ってもただ単に体力を減らすもので、死なせるような代物じゃない。今の私の体力には致命的だけどね!
というか、人が考え事してるときに攻撃してくんな!!必死に逃げて戦闘回避しようとしている人を狙うな!!
ムカついた。かなりイラッときた。何が何でもぶった斬る。
こいつを絶対に斬る。
そう、闘志を燃やして八咫霧を構える。
どの道逃がしてくれなそうだし、やるっきゃない。
《コール。スキル【毒耐性】を獲得しました。【毒耐性】がLv.3になりました。》
グッドタイミング!!けど、体力が38まで落ちた。しかも、じわじわ減っていっている。
体力が0になっても死ぬことはないけど、動けなくなる。イコール、殺される。
一体どうすれば……
そうだ!ぶっつけ本番で不安しかないけど、やらなきゃ死ぬ!!
こいつに殺されるのだけは私のプライドが許さない。やってやる!
魔力を急いで身体中に回す。
それに加えて魔力で心臓の周りに壁を作るイメージをする。
そうすれば、心臓の破裂は防げる……はず。
なんとか出来たっぽい。多分。
ここで迷ってる暇はない、やらなくちゃ!
「スキル【強化】!!」
身体だけににスキルをかけるのではなく、魔力自体にもスキルをかける。二重構造で【強化】しているイメージで。
……なんとか、かかったっぽい。魔力はめっちゃ減ってるけど、どうせ表示不可能な数値。機にする必要はない。
それより体力の方は……
よし、体力の減りはそこまで大きくない。ただ、急いでキメないとヤバい。死ぬ。
でも、ただ単純に身体を強化するよりも動きが速いし、これならいけるかも!いや、いってみせる!!
そう思って、ワーキングビーに攻撃を繰り出す。
向こうは、私が急に早くなったことに理解が追いついていないみたい。
今なら行ける、そう思って、思いっきり腹を斬り裂いた。
「終わったー……」
急いでスキルを解除すると、残りの体力は14。
でも、毒の効果は残っているから少しづつ減っていく。
とりあえず、核と、ついでに毒針を頂いて【収納】に入れる。
残り体力6。
今からじゃ家には帰れない。帰る前に力尽きる。
そう思って、近くの木のウロに身を隠した。
「これじゃあ、約束の時間までに帰れないなぁ……」
独り言を呟いて、私は目を閉じた。
暫く家を出してもらえないかも。
まぁいいや。その為に毒針も頂いたんだし。
もう、無理だ。頭もうまく回らなくなってきてる。
しばらく休もう……
《コール。スキル【毒耐性】がLv.4になりました。》
《コール。スキル【魔装】を獲得しました。》
おやすみ、神王様。魔物が近づいてきたら教えてくれると嬉、しい……な
《……コール。称号【神王の友】を獲得しました。それにより、神聖召喚で神王を召喚できます。》
その称号獲得のコールはその時の私の耳には届いていなかった。
それの存在を知ったのは日が暮れかけたときに目覚めて、ステータスを確認してからだった。
神王様、私をどうしたいんですか……。
そう思って、暫く動けなくなって、家に帰るのが更に遅れたのはいうまでもないことだった。