魔王との対談
「そういうことなら文句はないよ」
えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?良いんですか、おじさん!アレほどまで怒っていたのに良いんですか!?
私たち、自分らの意思とは言えあなたに言われたからついて来たのに……
いや、まぁこれでさらに家族仲が悪くなるくらいだったら、全然良いんだけど。それに、新しいこともいくつか知れたし、良い経験にはなったけど。
それでも、道中必死におじさんの怒りというかもはや殺気を耐え続けた結果がこれというのはいささか物足りない。
そんなこと言っちゃいけないのは、わかってはいるんだけどね!?
「えっと……これからどうします?多分、今、チャーチちょっとヤバいんじゃないかなぁ、って思うんですけど」
「うん。そうだね。今チャーチを中心に魔王討伐軍っていうのが組まれているみたいだし」
魔王討伐軍??ん??
いやいやいや、どうしてそうなった!?原因が思い当たらないんですけど!?
流石に私たちのせいではないはず。だって、チャーチの許可は貰ってから此処へ来ている訳だし。きっと何か、別の理由が有るはず。
詳しく尋ねると、魔王いわくなんやかんや色々あってこうなったらしい。
いや、だからその「なんやかんや」の部分を知りたかったんですけど……
とにかく、早急にチャーチに戻らなければならない。
しかしもう今日は遅いため、今夜は泊めてもらって明日帰ることになった。
案内されたのは、和室。と言っても、畳の上に小さな机と椅子、そしてがっつり洋風な装飾の施されたベッドがある。やっぱり、洋風なのか和風なのかわからない。
まぁ、ここは地球ではない訳だから、その辺りを気にしたらダメなんだろうけど。
最初はハロスと同じ部屋に通されかけたけれど、2人して全力で拒否した。結果、魔王が笑いながら部屋を分けてくれたのだ。
正直、迷惑をかけたなって思う。でも、かけてしまったからには、今から「やっぱり……」なんて言うと更に迷惑をかけるだろうし言えない。
各客室に1つずつお風呂が付いていたため、湯船に浸かってこれからのことを考える。
まず、チャーチに急いで戻る。そして、打倒魔王勢力をどうにかしなければならない。
ただ、どうやってどうにかするか、だ。下手に物理で止めようとすればヘイトは余計にたまるかもしれない。だから、意識改革をする必要が有るんだろうけれど……
「あー、駄目だ。頭が回んない。何か新しい情報とかあったら変わるんだろうけど……」
思考を中断して、部屋に戻る。
すると、先ほどまで机の上には何もなかったはずなのに、1枚のメモがあった。
読んでみると、それは魔王からの呼び出し。
どうやらお風呂に入っている間に部屋に来ていたようだ。……って、部屋に入るか、普通。ドアの隙間から差し込んでおく、とかでも良かっただろうに。
とにかく、さっきまでみんなで居た魔王の自室へと向かう。廊下は静まり返っていて、少し不気味だ。
なんとなく、やっぱり此処は魔王の住む場所なんだ、という感じがする。
「失礼します」
「入って良いよ」
中に入ると、魔王は先ほどとは違った雰囲気を醸し出していた。
思わず、電流が走ったかの様に背筋が伸びる。微笑を浮かべ、腰を下ろす様に促される。促されるままに座ると、その目の前、低いテーブルを挟んで一番距離のある位置に彼は腰掛けた。
「ディスティアさんから聞いているよ。この世界を救ってくれるんだよね」
ディスティア。その名前を久しぶりに聞いてなんだか懐かしく感じる。
最近はというか、ここ10年近くはハロス以外の神と会っていないから、久々に会いたいなと感じる。
「まぁ、約束しましたから。それで、お話というのはなんでしょうか?」
「出来ればで良いんだけれど、魔物たちをなるべく殺さないで欲しいんだ」
「と、言うと?」
「彼らは別の世界で転生を許されなかった魂たちだから」
「転生を許されなかった魂?」
「そう。君みたいに記憶を持って転生しているモノは稀なのだけれど、この世界だけでなく他の世界でも今生きているモノは大抵が転生したモノたちだ。ただ、転生出来るのは死んだ段階で他のモノを恨んでなく、前世に未練がないモノのみ。それ以外は転生することは出来ないんだ」
「それって大半が転生出来ていないんじゃ……」
「そうだね。しかも、転生出来ない魂はどこにも行けずに彷徨うしかない。魂は時や空間に左右されないから、地縛霊とかでない限り世界を行き来出来る」
えっと、よくわからないんだけれど、魔物は私みたいな存在ってこと??
いや、違うか。でも、あれ?ん??本当によくわかんなくなってきた……
詳しく聞くと、転生は神が魂を組み替えることが必要らしい。その世界に合わせた形に変えるのだそうだ。その世界に合った形、というのは魔王様もよくわからないらしいけれど、そこら辺は何か制約があるのだそう。
そして、私みたいに記憶持ちは奇跡的にそのままの形でも他の世界に合致する魂を持っていたってことらしい。
……いや、やっぱりよくわからないわ。




