平和な朝
ハロスと2人、諦めて同じベッドで眠る。
ベッドに入ると今まで張り詰めていた気が一気に抜けたのか、まぶたが急激に重くなる。
おやすみくらいは言おうと思って、眠気を堪えて声をかける。声が出せていたかはわからないけれど、おやすみと声が返って来たのを最後に聞いて、目の前が暗くなった。
それから目を覚ますと、外から明るい光が差し込んでいる。
まさか、お昼頃まで寝てしまったのかと慌てて飛び起きた。窓の近くに駆け寄ると、その光が人工物であることがわかって、安堵の息を吐いた。
「朝早くからなんだ……」
私が飛び起きたベッドの反動か、布の擦れる音か足音かで目を覚したのか不機嫌そうな声をかけられる。
「ごめん、明るかったから寝過ぎたのかと思っちゃって」
「ったく、明るくても此処は洞窟の中だから鉱石とかだろうが……」
再びごめんと謝ると、目が覚めたと起き出して来たハロスに、一応おはようと挨拶をする。
多分、私が普段と同じ時間に起きたのなら多分恐らくまだ日は昇っていない時間帯。これからどうしようか。
おじさんは「ゆっくりしたい」と言っていたし、普段動き出すのは日が昇り出す頃だからまだ時間はある。
此処が安全などない森の中であれば周りに警戒を払って見張りという役割を勝手に引き受けている。が、此処はおじさんの故郷な訳だから比較的安全はある。
おじさんの故郷だからというだけで信用するのはどうかとは思うが、おじさんもかなり気を抜いているような印象を受けたし、何か害を与えるつもりなら夜中に何かされていただろう。
何もなかったということは、今のところ害はないということだ。
となればやるべきことはただ一つ。
「ハロス、お願いがあるんだけど」
「内容による」
「久しぶりに対人戦の稽古つけて貰える?」
「やる場所ねぇだろ。街を壊すってか?」
「それなら、ひろばをつかえばいいのよー!」
!?!?
突然部屋に響いた声に動揺を隠せない。いったいどこから!?
あたりを見回すと、枕元にあった小さな鉢植えから可愛らしい女の子が飛び出して来た。
「みーは、ようせいさんなのよー!かみさまとこいびとさまとおはなししたくてがんばったのよー!!」
「ということは、インプってこと?」
「いんぷ?たぶんそーなのー!とにかくおへやからでるのー」
何がなんだかわからないまま小さな両手に背中を押される。
戸惑って動かないでいたら「うごくのー……」と泣きそうな声が聞こえて来たため、慌てて歩く。
「おはよう。昨日は楽しめたか?」
そのまま歩いていると昨日、部屋まで案内してくれたインプさんに出会った。
もしかして楽しんで寝てないのかだとかニヤリと笑って聞かれる。それに答えようと口を開く前に背中から声が聞こえる。
「ずっとおねんねしてたのよー!!」
「は??」
そりゃあそうだよね、私たち2人に声をかけたら別の声が聞こえるんだもん。それは驚くよね。
私の背中から顔を出した幼いインプちゃんを見て、目の前の人は首を傾げる。
「こんな奴、此処にいたか?」
「みーはきょうでてきたのよー!しんじんさんなのよー」
「え、出てきたって何処から?」
「おへやなのよー」
その返事を聞いて、彼は何かぶつぶつと呟き始めた。
いや、まさか、そんなという単語が所々聞こえる。何か、この子におかしいところでもあるのだろうか?
「まさか、部屋にあった小さい鉢植えか……?」
「それなのよー」
「……これが神の力なのか」
ん??どういうことですか??
意味がわからず尋ねると、この子が実体をもてるようになるにはあと少なくとも数年かかる予定だったそうだ。
つまり、予定以上に早く生まれてきたと。
しかも、ハロスと私に会いたくて出てきたと言っていたわけだから、神様の力と言えなくもない。神が、精神的な力をこの子に与えたということだ。
というか、それならば……
「頑張って出てきたってことは疲れてないの?」
「つかれてないのよー!!げんきいっぱいなのよー!!」
あと数年かかるものを一夜にしてやってのけたからには流石に疲れが溜まっているのかと思ったがそうでは無いらしい。無理をして言っている感じもないから、本当に元気なのだろう。
「っと、話が逸れたな。もう行くのか?ならアイツを起こしてくるが……」
「いえ、ちょっとハロスと手合わせをしたくて……」
「なら広場を使え。ある程度なら耐えられる造りにはなっている」
「ありがとうございます!!」
「じゃあいくのよー!」
再び背中を押され出し、広場に向かって歩き出す。
歩いていると、背中を押される感覚が消え、目の前に可愛らしい顔が現れる。
「やっぱり、はしるのよー!ついてくるのー!」
そのまま遠くに飛んでいくインプちゃん。
ハロスと顔を見合わせ、見失わないために走り出す。
楽しそうに笑いながら飛び回る彼女の背中を追って走る私と、面倒なのか空を飛んで追いかけるハロス。
いや、待って、速いんですけど。ハイスピードで街中を進んでいく私たち。
息が苦しいけれど、まぁこれもまた一つの体力作りのトレーニングと思って走り続ける。
でも、あんまし続けるとこの場所を出るまでにくたばりそう……
少しは手加減してくれますよね……??




