武具屋と知り合い
メル婆に勧められるまま、訳もわからず隣の武具屋向かう。もちろん、あのチャーチの人は放置して。
いまだに語っていて、いつまで続くのかがわからない。正直言って軽くホラーだった。
そんな人をメル婆に任せて私たちは店に入る。
「いらっしゃい。って、あぁ、お嬢か」
「え、は、え……え?」
「嫁の実家だ」
そのにいたのはまさかのおっさん……ジェッドさんだった。
人間驚きすぎると反応出来なくなるんですね。というか、おっさんが結婚していたのが知らなかった。
「えっと……結婚、してたんだね」
とう反応して良いのかがわからず、ありきたりの反応になる。
すると、俺が結婚しているのがそんなに意外か、と呆れたような責めるような目を向けられる。
だって、知らなかったものは知らないもん。
「買い物なら安くするがどうする」
「まじですか!?」
「他でもないお嬢だからな。将来への出資と思えば安いさ」
本当に良いのか?いや、でも良いって言ってくれている訳だし、お言葉に甘えよう。
でも、流石に金額が目につく。安くしてもらえるとはいえ、流石に高い。こんな金額払える気がしない。
確かに、値段の高いものは品質が良いんだろう。ただ、値段以上に問題がある。
「やっぱり鎧系ばっかりだね……」
この店にあるのは言わずもがな、鎧系のものばかり。強い冒険者になればなるほど女性の数は少なくなる。それに、例え女性だとしても鎧を纏う人が多くなる。
それに比べて私は必要最低限の装備しかしない。そうでもしないと身体がうまく動かせないのだ。スキルで強化している人は鎧の重さとか気にしなくても済むから良いんだろうけれど、私はな……
「いらっしゃい。何かお困りですか?」
突然隣から声をかけられてびっくりする。顔を向けると、いつの間に、という程近くに女の人が立っていた。
私からしても見惚れるようなブロンドの髪に深い藍色の瞳。年齢は20代後半だろうか?
とにかく、いらっしゃい、と声を掛けられたのだから店員なのだろう。であれば、ダメ元で質問してみよう。
「いや、えっと、動きの制限されないようなものは無いかな……って」
「なるほど。神子さまは、鎧の面積が少ない方がいいのね」
「え?」
「お見かけしたことくらいありますよ。それに、夫から話は聞いていますし」
おっと??ということはまさか、おっさんの奥さん!?
いや、年齢差ありすぎでしょ!?何歳差よいったい!?娘と言われても納得できるくらいには歳の差開いていませんか??
「ふふ、これでも夫の方が若いのよ?」
「えぇーっ!?」
「さて、この話は置いておいて、前衛職用のもので、尚且つ軽くて動きやすいものってなるとうちの店には置いてないわね……軽いものってなると魔導師や治癒師用のローブ的なものになるし、前衛職ってなると重装鎧とかしか無いわ。」
見る感じそうですよね。ダメ元で聞いてみたけれど、やっぱり無いか……
この格好で行くしか無いのかなぁ……いわゆるネグリジェというようなやつなんだけど。
「動きやすいものってなると鎧に慣れていない新人さんとか革製のものになるし。って、あ……あれなら良いかも……ちょっと待ってて?」
そういうと奥さんは店の奥に入って行った。
待っててと言われたから待っているつもりだけれど……いったいどうしたんだろう?
ガタッ!ゴトッ!!ガッシャーン!!
言葉で表現するならばそんなような音が聞こえてくる。そして、おっさんの叫び声も聞こえてくる。
え、いったい何が起こってるの!?助けに行った方が良いのかな!?
「ミーナ、コレとかどうだ?」
そう言って店に入って以来一度も声を発さなかったハロスが声を掛けてくる。その指が指しているのは大きなフードの付いたローブというのがふさわしいような黒いコートだった。
正直かっこいい。だがしかし、
「……この音は心配にならないの?」
「あの人がいるなら大丈夫だろう」
そういうものなのか。いや、ダメでしょ。
「有ったわよー」
そうこうしているうちに奥さんは戻ってきた。全身埃まみれにして頭には蜘蛛の巣を付けて。その後ろをおっさんが付いて出てきた。同じく埃まみれだが、奥さんとは違ってかなり疲れ切っている。
いったい何が有ったの!?
「これ、私が現役時代に使っていたものよ。私が私の為に作ったオーダーメイド作品。革も痛んでいないしプレート部分も良いものを使っているのよ?」
「え、は、はい?」
「後はこれをあなたの体に合わせて調整すれば……心配しないで私の現役時代とスタイルは殆ど変わらないしそこまで難しい調整にはならないわ。時間も取らないから安心してね」
「いや、えっと……」
「そうと決まれば、待っていて頂戴?」
そう告げてまたすぐに店の奥に行ってしまった奥さん。そして取り残された疲れ切ったおっさん。
どうしようかわからずにおっさんの顔を見る。
「他の商品でも見ていてくれ。俺は倉庫を片付けてくる」
そう告げてげっそりとした表情で出て行った。
どうしようかとハロスの方を見ても彼は彼で商品に魅入っている。以前聞いたのだが、此処まで長い期間一つの世界に留まっているのは珍しいそうだ。だからこそ、自分が魂を回収した後、器がどう変化するのかを此処までゆっくり見れることが嬉しいんだそう。
私はというと、その話を聞くまでハロスが死神であることを忘れていた。
だって、最近神様っぽく無いんだもん。




