おじさん
「って、何処にも居ない!!あの人何処に泊まってんの!?」
どの宿に行っても、ライアーナのお父さんは見つけられなかった。もうチャーチの人たちに見つかっているかもしれない……。
だとしても、本当に何処にいるの!?いや、まさか冒険者向けのところ?でも、ほとんどの店が昼間は敷地内に居るなとか、連泊したとしても1日に居て良い時間が何故か決まっていてそれを超えたら追い出されるとか、ご飯を出してくれないという客に優しくないところだよ!?
ゲームのセーブエリア的役割しか持ってないところだよ!?入ったら即翌朝っていう演出がそのまま現実にしたらこうなるのかって、ちょっと納得するような仕様の店ばっかりだよ!?
「そんなとこに泊まってるの?」
「おい、宿屋を悪くいうな。アレにはアレで理由が有るんだよ」
バロスが冒険者向けの宿屋の仕様についての説明を始める。
……って、なんか熱入ってない?今、そんな話をしてる暇はない気がするだけれど。
ハロスによると、宿屋に泊まりっぱなしで働かない冒険者対策なんだそう。でもって、冒険者は実力主義だから、腕の良い人は普通の旅行客向けの宿にも泊まれる。そう言った宿に泊まるのは新人か稼ぎの低い奴かだから、踏み倒されないように稼ぎに行け、ということらしい。
って、そうじゃなくて!!
「今はその話じゃないでしょ!?」
「もしかしてミーナちゃん?」
「へ?」
突然声をかけられて振り向く。するとそこに居たのは、紛れもなく私たちが必死に探していた顔で。
「おじさん!?」
「久しぶりだね、これからライアーナに会いに行こうと思ってるんだけど……ってどうしたんだい?」
「これからってことはまだチャーチの人たちと合ってないですか!?」
「チャーチの人って、結局ミーナちゃんも
「私以外のチャーチの人!」
「いや、まだだけど……」
その返答を聞いた瞬間、ハロスと顔を見合わせてガッツポーズをした。
それを見ておじさんが不思議そうな顔をしていたけれど気にしない。そんなことを気にできるほど余裕のある状況ではないんだ。
「あの。前置き全部すっ飛ばして聞きますけど、ライアーナの好きな人ってご存知ですか?」
「知ってるも何もシューくんだろう?あの子のお陰で、あの辺りは魔王への偏見が無くなったし、何よりあの子は働き者でね。あ、そうそう……」
やばい、話が長くなる予感。
申し訳ないけれど、途中で止めさせてもらう。そして、この場所だと話しづらいから何処かに行きたいと言うと、良い場所がある!とおじさんは私たちの目の前を歩き出した。
そんなおじさんについていくこと数分。
見覚えのある道を歩いている。そして、なんだか行き先も知っている気がする。というか、この道の先には宿屋は一軒もない。あるのは武器屋と防具屋と、酒場を経営するお婆さんの家のみ。
「ねぇ、ハロス」
「何も言うな。俺様も同じ考えだ」
そして、案内されるままに一軒の家にたどり着く。
「ただいま。知り合いを連れてきたけど大丈夫でしたか?」
「ったく、何かするなら事前に連絡を入れなさいと昔から言ってるだろう!……って、なんだいあんたたちか」
「「やっぱりそうか……」」
辿り着いたのはメル婆の家でした。
私たちの反応に、困惑したような表情を浮かべるおじさんと呆れた目を向けるメル婆。
というか、2人の関係がすごく気になる。気になる、けど今はそれより優先すべきことがある。
椅子に座るように促され、テーブルにつく。私の左隣にハロス、正面におじさん、そしておじさんの隣にメル婆という順に座った。
少し話しづらい雰囲気……
けれど、ここで詰まっていたら時間の無駄になる。だったら、話すしかない!!
そう思って、今朝起こった事を話した。
朝起きたら、ライアーナからの置き手紙があった事、その手紙の内容。恐らく、チャーチの人間がおじさんに接触を試みると思ってやって来た事。
「……つまり、あの子はシューくんのところに逃げたという事だね」
「いや、逃げたというわけでは……」
「あの子をそんなに弱く育てたつもりはないよ。それに、元々チャーチに入った理由は薬のおうり……ミーナちゃんの領地のみんなのためだったはず。自分で決めた事すら守れないとは……」
今、がっつり横領って言いましたね。
というか、おじさんが怒っている姿初めて見たな。おじさんあれだね、笑顔で起こるタイプなんだね。何気に一番怖いタイプだね。
「よし、乗り込もうか」
「……へ?」
いや、何清々しいほどの笑顔で言ってるんですか!?そんな爽やかな笑顔浮かべて乗り込むって言われてもどうすれば良いんですか!?
ハロスに助けて、と視線を送ろうとした瞬間、おじさんに肩を掴まれてミーナちゃんもついて来てくれるかな?と言われた。
頷くしか出来ない気迫があった。つまり、頷いてしまった。
それを見て、早速準備に取り掛かるおじさん。
って、今から行くの??私、今からとか無理ですから。チャーチ飛び出して来たうえに、そのままおじさんと冒険の旅(仮)に出かけるとか無理ですから。
そんな私の思いをよそに、着々と支度をしていくおじさん。
えっと……私はどうするのが正解ですか?




