出逢い
「ミーナ!ずっと話していた奴がいたでしょ?そいつが、ついに来てくれたんだよ!!」
アルヴァンティヌスが誰かを引っ張って来た。否、引きずって来た。
どうしよう。割と怖い。キラキラ笑顔で人を……いや、神様を引きずっている。
引きずられてる神様もなんか諦めてるっぽい。げんなりしてる。
アルヴァンティヌスさん?一体どうやって連れて来たんですか?怖いから聞きはしないけど気になる。
それはそうと、可愛い顔をして、かなり力が有るんですね!!初めて知りましたよ。
私の中でアルヴァンティヌスが最も怖い神様疑惑が浮上した瞬間だった。
これからは、あんまり怒らせないように気をつけよう……とか言いつつ、蹴りは随時入れてくつもりだけど。
「えっと。アル、その神様はなんの神様?……なの、でしょうか」
「えー!ミーナが敬語とか今更すぎて気持ち悪いよ?」
すみません。あまりに衝撃的すぎてつい……
「ミーナ、コイツは死神だよ。死神、この子がミーナ。前世は蒼井雪って名前だったんだって!知ってる?」
「えー。蒼井雪って、本当にー?」
「本当だよ!!死神、知ってんの?でも、死神が回収する前に僕が連れてったから会った事ないはずだよね?」
んっとー……どういうこと?
な、なんか、やばい雰囲気になって来た気が。何がどうなってるの?本当にわからないんだけど。
死神さん(さん付けで良いのかな?)も何かぶつぶつ言ってるし、それに私のことを知ってるみたい。でも私は会ったことないし……もしかして、神様だから何かの拍子に見られていたとか?
いや、だとしたら言ってくれても良いはずだよね。こんな暗いっていうか、不穏な空気をバンバン出している意味が無いし。
私、知らない間に何かまずいことしてた、とか?だとしたらかなりヤバいかも……どうしよう。
「ねぇ、アンタ。ミーナだっけ?」
「あ、はい!」
急に声をかけられて、驚きのあまり声が上ずった。
恥ずかしいけど、そういう事考えている場合ではないっぽい。
「ちょっと2人だけで話そーか」
そう言ってパチンと指を鳴らした。
その瞬間、アルヴァンティヌスが消えた。
驚いてあたりを見渡したけど、何処にもいなかった。
そんな私に、結果を作って2人だけの空間にしただけだ、と教えてくれた死神さんはそこまで悪い人ではないみたい。
「ねぇ、なんで蒼井雪って名乗ってんの?俺様、アンタと同じ顔で同じ名前の子の魂を10年前に回収してるんだけど?」
「え……?」
「確か、蒼井雪には、双子のよく似た多分一卵性の姉妹がいたはずなんだよね。回収した時見たから覚えてるよ。キミみたいに気持ち悪いほど透明な魂だったから」
バレてる。確実にバレてる。
私が蒼井雪じゃないってことが。私が、彼女の双子の姉だってことが。
でも、なんで。他の神にはバレなかったのに。まさか、他の神にもバレてた訳?でも、だったらどうして今まで指摘されなかったの?
「ねぇ、何か言ったらどうなの?」
「ぁ……ごめん、なさい」
「謝られてもわかんないよ。なんで、別人のフリをしてるの?彼女に成り代わって何がしたかったの?周りを騙して楽しかったの?」
楽しかった、だって?
ふざけるな。私が、どんな思いをしてきたか知らないくせに。
「ねぇ、そんなに楽しかったの?」
「ッ!!うるさい!楽しかったはずがない!!私が、どうしてこんな真似したか知らないくせに、決めつけるな!!」
「じゃあ、どうして?」
さっきまでの重い空気が少しだけ軽くなった気がした。
もしかして、この神様はワザとあんな空気を出してたってこと?でもなんでそんなことをする必要が?わからない。全然わからない。
でも、何故だかこの神様に無性に訳を言いたくなって、今まで我慢して来たことを話したくなって、いつのまにか口を開いていた。
止めようとしても止められなくて、支離滅裂なまま話していた。
親が妹の、雪の死を受け入れきれずに役所に私の、蒼井華の死亡届を出したこと。私を否定して、雪として育てたこと。雪らしく振舞わなければならなかったこと。
その他諸々全部。泣きはしなかったけど、むしろ笑っていたけど声は凄く震えていた。
「本当は私じゃなくて雪が転生するはずなんじゃって思ってました。でも、次は自分らしく生きれるのかなって思って……。騙していてすみません。他の神様達にも謝って取り消して貰うべきですよね」
「あー、転生すんのは間違いなくキミだと思うよ。神って基本、魂の色とか形で人を判断するから。だから、人の名前と顔を覚えてる俺様が特殊だったりするんだよなぁ」
え?何それ。つまり、どういうことですか??
「俺様は仕事柄、生物の名前とか顔とかが覚え易いんだよ。ミーナ、だっけ?の魂は透明で、蒼井雪の魂は白?乳白色っつーの?みたいな感じでさ。だから、魂の色が見える神にとっては名前とか外見ってどーでもいーんだよ。アイツらはアンタがレアな透明な魂だったから選んだろうな」
いや、何ですかそれ。
私が転生するってことで間違いはない、と?
ていうか、アルヴァンティヌスとディスティアは私がゲームをプレイしてたからなんだって言ってたような……つまり、騙してたってこと?魂の色で選ばれたとか初耳ですよ。
「まぁ、ごめんね。ヒトにとって名前って大事だっていうから気になったんだよね、アンタの事情とか考えなしだったな」
「いえ!いいですよ。私だって、色々ぶつけちゃったから……。そうだ、死神さんって名前は何ですか?」
「あー。名前無いわ。死神って色んな世界とか時間軸によって呼ばれ方がかなり変わるから特には無いな。だから好きに呼んで。あと、敬語も気持ち悪いから要らないや」
「それじゃあ……有難う、死神さん!」
死神さんは案外良い神様みたい。雪のことを覚えててくれたみたいだし。それに、死神さんには悪いけど初めて吐き出せてスッキリしたっていうか、心が少しだけ軽くなった。
死神さんをなんて呼ぶかはもう少し考えようと思う。ギリシア語とか、フランス語とかから何か取ろうかな?
まぁ、とにかく死神さんと話せて良かったなって思った。
その数日後に、死神さんをハロスって呼んだらそれが名前として固定されたのは予想外だった。
でも、ハロスと出逢えたからこそ私はミーナとして頑張ろうって改めて覚悟ができたからずっと感謝している。
これは、ハロスと私が初めて会ったときの記憶。




