雪と華
軽い精神病的な心情が出てきます。嫌だという方は読まないで下さい。
読まなくても話は続くようにします。
「華!華ってば!」
もう。いくら呼んでも起きてくれない本当に困ったお姉ちゃん。
「ねぇ、起きなよ!はーやーくー!!」
「ん……」
やっと起きてくれた。まったく、もう。そう思ってため息をついたら、ごめんって言われた。別に怒った訳じゃないのに。
私と同じ顔で、けど性格は全然違くて。ちょっと暗いところもあるけど、いろんなことを知ってて、教えてくれる優しい双子のお姉ちゃん。私が一番尊敬してる人!
ママとかパパは、お姉ちゃんのことを「暗くてキミガワルイ」って言う。
キミガワルイの意味はよくは知らないけど、いい言葉じゃないのは知ってる。それを言われると、華はごめんなさいって泣くから。
華はきっと、意味を知ってるからごめんなさいって言うんだろうな……。
ママもパパも、私と妹が双子だなんて信じられないっていうけど、それは私の方。こんな物知りな華と、私みたいな明るいだけのバカが双子だなんて信じられない。
本当、似てるのは顔だけだよ。
「こっちだよ、早く早くっ!!」
「う、うん……!」
華を外に連れ出すのは私の役目!だってほっといたらずっと部屋で本を読んでるんだもん。そんなのダメ!ゼッタイ!!
私、華と遊びたいもん!!
「……いつもありがとう。なんだか、雪の方がお姉ちゃんみたい」
華がそんなことを言うから、口を尖らせる。
ママからは「子供っぽいからやめなさい」って言われるけど、まだ子供だもん。子供っぽくっていいじゃん!意味わかんないよ。
私の顔を見てオロオロし出す華。
可哀想だから、怒ってる理由を教えてあげる。
「私、バカだもん。頭いいんだから、そっちの方がお姉ちゃんじゃん」
「そう、なのかな……?」
「そうだよ!ぜったいそう!!」
なんでそんなに自信ないかなぁ?
「そうだ!そんなに自信がないなら、私のマネをすればいいんだよ!私、元気だけが取り柄だから!!」
うん!いい考え!!そうすれば、華だって元気になるはず!!
「雪の、マネ……うん。やってみたい」
「それじゃあ決まり!約束だよ!!」
「うん、約束……!」
よし!これでみんなも華のことをバカにしないはず!!
……でも、どうして私の方がバカなのに華のことをバカにするんだろ?わっかんないなぁ。
「ゆきっっ!!!!!」
「え?」
「雪!雪!!待って、ねぇ、雪!!」
なんだ。華、大きい声出るじゃん。なんで泣いてるの?なんで?どうしたの華?
あれ?声が出ない。カラダが動かせない。どうして?
なんか、眠いなぁ……
「雪!死なないでよ!!」
そっか、私死ぬんだ。
でも、どうして死ぬんだろう?わかんないや。
ねぇ、華。
私の分も笑って、前を向いて、胸を張って生きてね……
それじゃあ、ばいばい。華……
確かに私は、華に私の分も笑って生きてって願った。
でも、私は華に、私になって生きろなんて願ってない。
華が自分から決めたは思えないけど、多分ママとパパに言われたからって理由でフリをしてるんだろうけど。
それとも何?本当に私に成り代わって生きてるの?だとしたら許さない。ゼッタイにユルサナイ。
なんで……ナンデ華が!!雪って呼ばれてんだよ!!なんで周りは指摘しないんだよ!!私か華かはどうでもいいって言うの⁉︎蒼井 雪がそれほど大事か!!自分を捨ててまでして私に成り代わって何がしたい!!
フザケンナ!!
オマエが私を名乗るなんて許さない!!後悔させてやる。オマエが、私のフリをするなんてユルサナイ!!!
オマエが私だと、蒼井 雪だと認めるものか!!私が蒼井 雪だ!!
ゼッタイ二ユルサナイ。
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイーー
「もうやめてよ!!」
「やっと起きた。ねぇ、大丈夫⁉︎」
「あ……ハロ、ス」
「大丈夫?魘されてたみたいだけど平気?」
此処は、私の部屋?なんで、パーティの途中じゃなかったっけ?なんで此処にいるんだっけ?
って、そっか。さっき倒れて、それで気を失ってたってことか。
さっきみたのは、もしかして雪の思い?
心配そうに私の顔を覗き込んでいるハロスに申し訳なくなって、大丈夫だよって笑いかける。でも、上手く笑えてなかったみたいで、ハロスに顔を顰めて、笑えてないし……って言われてしまった。
「目から血が出てたけど、呪いの一種だった。もう解いたけど、何を見ようとしたらああなったわけ?」
何も話したくなくて、私は布団に包まって顔を隠す。
こんな状況で話したくない。いつ誰が入ってくるかわからないし、それにまだ整理がつかない。こんな状況で話せるわけがない。
「一応人払いはしてるから、誰も入ってこないよ。安心して話してよ。支離滅裂でも良いから」
「……多分。全然似てなかったけど、妹だと本物の雪だと思う」
「ふーん」
「ねぇ、なんで雪があんなに黒くなってたの⁉︎なんで!!私がこうして転生出来てるから、雪も転生して幸せになってると思ってたんだよ⁉︎なのにどうして!!雪が、なんで、どうして
……私の所為なの?」
「ミーナ?」
私が悪かったんだ。私が雪のフリしてたから。私が雪をあんな風にさせたんだ。私が生きてたから悪いんだ。私が生まれてなければ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
「ミーナっ!!」
「え……?何、ハロス?もしかして口に出てたりした?ごめんね、私は大丈夫だよ」
「オマエが俺様に謝るとか似合わない。謝んな。大丈夫とか言うな。俺様は仮にも神様だぜ?オマエ1人の思い吐き出されたってなんて事あるわけないじゃん」
なんなの、ハロスのくせにカッコつけないでよ。
でも、そう言って頭を撫でられると涙が出てくるじゃん。なんでハロスの胸を借りて泣かなきゃなんないわけ?ふざけんなよ。
「泣いていいよ。俺様しか居ないんだから」
本当、ふざけんなよ。
なんで止めさせてくんないんだよ。意味わかんないよ。
「……でも、有難う」
「でも、って何に対してのだよ」
そう言って笑ったハロスの身体は死神と呼ぶには余りにも暖かくて、ホッとして、涙が止められなくなった。
もしかしたら、ここまで泣いたのは雪が死んだ、あの日以来かもしれない。




