現実は涙を連れて
「いやはや、新しい協会長様は随分と乱暴者でいらっしゃる」
「「……は?」」
思わずハロスと声がハモった。
いや、周りの人たちも声に出さなかっただけで思ったはずである。何言ってんだコイツ、と。ちゃんと見ていればわかるはずなのに。乱暴をしたのは私であることに。確実に、加害者が私で、ハロスは被害者だ。ちゃんと見ていれば子供でもわかる事だ。
『ねぇ、ミーナ』
ハロスの声が脳内に響く。なんだろう……って、【念話】か。この4年間一度も使って無かったから、スキルの存在忘れてたわ。
『おい、クソガキ!』
『誰がクソガキだ死神ぃーっ!!』
お前なんか性格変わってるだろ。前はもっと……こう、もっとキモい感じだったはずだぞ。って、そんな話をしている場合じゃないんだった。
『多分だけど、お前と私の考えは同じだと思う』
『ふーん。それじゃあのデブは、
『『バカ。いや、それ以下だな』』
うーん。やっぱりハロスとは話が合うな。ひねくれてるもの同士気が合うのだろうか……って現実逃避してたわ。直んないなぁ、この癖。
「……というわけでミーナ殿。この様な野蛮人など相手にせず、我々とともに教会へ参りましょう!!」
盛大に両手を広げる謎の男。その背後には取り巻き的な謎の集団。いや謎の、としか言いようがない。だって名乗ってくれてないんだもん。私が聞き逃していた可能性もなくはないけど。
まぁ、見たところチャーチの人だな。協会へ、とか言ってるし。それもある程度の管理職の人だろうな、服装的に。
というか、こんな奴が管理職について良いのかよ。いや、こんな奴でもつけるほどまともな奴が居ないのか……?
それならかなりヤバイぞ。チャーチには絶対行っちゃダメだ。
神への道徳とかなんとかいう名の洗脳とかがガチでありそうで怖い……。何が何でも回避しなくては!!
『ハーロース』
語尾にハートが付く勢いでハロスの名前を呼ぶと、隣で肩を揺らされた。くそっ、似合わないのはわかってんだよ。笑うなぁ!!
ちょっとだけ協力してもらおう、とか思ってたけど辞めだ辞め!嫌がらせしてやる!
『対応、宜しく』
私の言葉に慌てるハロスの声が頭に響く、が無視を決め込む。ハロスが慌てるとか、レアものだなぁ、なんて思いながらも考えを改める気はさらさら無い。私を笑った罰だ、苦しめ。
何をするかというととっても簡単。4歳児らしい行動をするのです。
ハロスの側にいそいそと寄り、その陰に身を隠す。そして目に涙を溜めて、陰から上目遣いで震えたフリをして、こう言えば完璧な4歳児。ミーナの外見の良さを存分に生かした作戦だぜ!!
「ハロスお兄ちゃ……あのおじさん怖い。助けて……」
周りの人達は、もともとポカンとしていた顔を更にポカンとさせている。
そりゃそうだわな。さっきまで飛び蹴りして対等に話していた相手を急にお兄ちゃん呼びして、歳相応のか弱い女の子になってるんだから。
ちょっと面白そうだから覗いてみよっかな。そう思って【読心】を使ってみた。
『『『『お前の方が断然怖いわ』』』』
ありゃ。心の声がハモるとかすっごいわ。が、しかし!私は怖くない。否定する!私は怖くなんかない!!
というか、ライアーナちゃんまで私のこと怖いって思ってるし!なんで⁉︎
『……し……な……………が……』
ん?なんか違う事考えてる人がいる?いや、人達か?
異様に小さな、けれど何故か不穏に感じるそのハモっているようでハモっていない様な、そんな思考を辿る。
ってチャーチの人達?多分この人達の思考だ。
でも、何かがおかしい。まるでこの人達本来の思考じゃ無い様な……
よし!迷ったら、使ってやりましょうや!!スキル【神眼】はっつどー!!あ、勿論周りにバレない様に【錯視】も使う。
『なんでお前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』
「っ!」
『大丈夫か?何を見た』
私が驚いて肩を揺らしたのに気づいたのか、ハロスが【念話】で気にかけてくれる。
全然大丈夫じゃない。目が熱い。目が冷たい。目が痛い。なんだかよくわからない、熱いのか冷たいのかそれとも別のなのか、そんな痛みが目を襲う。
でも、そんな事も気にならない程私は呆然とした。
なんでアンタの声が聴こえるの?なんでアンタがそこに居るの?なんでアンタがそんなことになってるの?どうしてアンタがこんなとこにいるの?まさか、アンタが敵だとかそんな事ある訳ないよね?
どうしてなの、誰か答えてよ?
「ねぇ、大丈夫⁉︎」
その声で一気に現実に引き戻された。いつのまにかハロスが屈んで私の肩を揺すっている。
「目、大丈夫な訳?」
ハロスの言葉で、初めて自分が泣いているのに気がついた。
大丈夫だよ、なんて言って頬の涙を拭った。……そのつもりだった。でも、私の目から流れていたのは涙だとかそんな生易しいものでは無くて、血。涙を拭ったと思った掌には血がベッタリとついていた。
そこに来て、周りが騒然としているのに気がついた。それはそうだよね。急に血を目から流し始めたらそうなるわな。
でも、今の私にはそんな周りの反応もどうでも良くて。さっき視たモノの方が遥かに重要で。
私が倒れる直前の言葉はきっと誰の耳にも届いていなかったと思う。目の前にいたハロス以外には。
「どうして、雪がそこにいるの……?」
そう呟いて、私の記憶は途絶えた。




