嬉しくない誕生日
サーラの叫び声によって、チャーチに連絡が入れられたのが2ヶ月前。
チャーチから、是非会いたいと連絡があったのがその2週間後。
だったら、私の4歳の誕生日にパーティを開くのでそこに招待する、とお母さんが返信していたのがその更に1週間後。
そして今日、私の4歳の誕生日です。あと1時間半でパーティの開始時間の5時。もう人は集まってるだろうな。
どうしてこうなったのよ。いや、私の所為か。
【治癒】を持っているとバレてから、森に行かせてもらえなくなった。
友達とは遊べるけど、今までみたく子供だけで遊ぶことは出来なくなった。どこに行くにもサーラが付き添うようになった。
さすがに家だと1人にさせてもらえることはあったけど、それでも精々1時間前後。それだと軽い筋トレくらいしか出来ない。
それに、いつ人、主にサーラが来るかがわからないし、油断出来ない。
【神眼】が片目で使えるかも試せずじまい。
【神眼】を使っているところを見られたら、それこそ確実に詰む。
というか、よく考えたら【錯視】とか【幻覚】あたりで誤魔化せるんじゃね、と思いつきましたよ。
やってみたら出来た。でも、【幻覚】での誤魔化しは面倒だからやらないだろうな。
スキルの説明としては、【錯視】は個々の事象に、【幻覚】は事象の集合体にかけるスキルらしい。
最初はよくわかんなかったけど、最近ようやくわかってきた。
例えば、【錯視】は目だけとか耳だけとか小範囲専門の、【幻覚】は身体全体とか、建物全体とかの広範囲専門のスキルらしい。
まぁ、どこからどこまでが小範囲でどこからどこまでが広範囲かはよくわからないけど。
ということは、【神眼】を隠すにあたって【幻覚】を使うとなると、身体全体をスキルで覆わなければいけなくなる。面倒以外の何物でもない。
って、話題が逸れてるわ。
「お嬢様。ドレスをお持ちいたしました」
「はーい」
サーラが持って来たのは、私の目の色と同じ蒼色のドレス。
お母さんとサーラが張り切って今日のために作ったもの。そう、お母さんとサーラの共同作業で作られた4歳児が着るには大人びたドレス。
「あのね、サーラ?」
「はい、何でしょうか」
満面の笑みを返してくるサーラ。
「ほんとにソレ着るの?大人っぽいし、動きづらそう。ミーナには似合わないよ?」
「何を言っていらっしゃるのですか?お嬢様のご聡明な顔立ちに良く似合っていると奥様も私も自負しております。それに、本日はチャーチ、教会の方々もみられるのです。はしゃぎ過ぎないように、多少窮屈な装いを用意したのですよ」
初耳ですよ⁉︎
私が動き回らないようにワザと動きづらくしているって言うんですか、サーラさん!
酷い。ひど過ぎます!!
「さぁ、着替えましょう。お嬢様のお友達も祝いに来てくれています。こちらを着て、晴れ姿を見て頂きましょう」
サーラに手を引かれ、しぶしぶ諦めて着替える。
だってまだ大人の力には敵わないんだもん、仕方ないじゃん!!
「はぁ……良くお似合いです、お嬢様」
「あ、有難う。サーラ……」
「では、奥様にお見せしに参りましょう。御当主様は既に広間にいらっしゃりますので、後ほどと致しましょう」
わかりました、サーラさん。
私はどうやら、サーラの笑みに弱いらしい。
普段は表情を変えずに仕事をしているから、私がこの表情を引き出していると思うとなんだか嬉しい。それに、従わなくてはという謎の思いが生まれる。
はっ!
もしかして私は、サーラに手懐けられているのか⁉︎そうなのか⁉︎そうなのか!!??
そんなことを考えているうちに、お母さんの部屋の前まで連れてこられた。
いつの間に⁉︎
「奥様、お嬢様をお連れ致しました」
「わかったわ。ちょっと待っててねー」
そう言って自らドアを開ける我が母。相変わらずお美しいですね。
「……」
あれ?私を見るなり固まってしまった。やっぱり似合ってないんだろうなぁ。
「可愛い……すっごく可愛いわ!!さすが私とあの人の子ね!!とっても似合ってるわよー!!」
お母さん、苦しいです。離してください。
抱きしめるにしてももう少し力を緩めてください。
「おか、さ……く、くる、し……」
声すらうまく出せないほどきつく抱きしめられた。
「でも、もう少しレースを足してふんわりさせても良かったかしら。それか、大胆にもっと減らしてもう少し大人っぽくしても似合ったかも!どうしましょう!!また作りたいわ!!ねぇ、ミーナはどんなのがいいかしら?」
ヤバい。お母さんに声が届いてない。
息が出来ない……本当に苦しい。助けてサーラ、お願い。
涙の滲む目でサーラを見つめると、彼女は私とお母さんを引き剥がしてくれた。
助かった……
「奥様、お嬢様のことを考えて行動して下さいませ。まずは落ち着いて下さい」
サーラの言葉で、咳込みながら肩で息をする私がようやく目に入ったらしい。
お母さんは、落ち着きを取り戻して、いや、落ち込んでしまった。
「ごめんなさい、ミーナ。苦しかったのね。それに気づかずに暴走してしまって……私はあなたのお母さん失格ね」
本当にごめんなさい、と言って自室に引きこもろうとする。なんとかしないと!
お母さんとお父さんは同じ部屋だから、お母さんが引きこもるとお父さんがベッドで寝れなくなる。私、もう嫌だよ。
お父さんが廊下で寝ているのを見るの。初めて見たときはビックリしすぎて泣きましたよ。
締められかけているドアの隙間に手を伸ばして、お母さんのドレスの裾を掴む。
「ミーナ⁉︎危ないでしょう」
「あのね、お母さんはお母さん失格じゃないよ。ミーナのお母さんはお母さんだけだよ。
お父さん待ってるから、行こう?ミーナ、お母さんと一緒がいいよ?」
「ミーナ……」
目を潤ませながら私を抱きしめるお母さん。
どうやらお父さんを廊下で寝させることは阻止できたっぽい。
「有難う、ミーナ。それじゃあ、お父さんも待っているし、広間に行きましょう」
疲れた。すごく疲れた。
でも、此処からが勝負。広間に行ってからが勝負だ。
私の4歳の誕生日パーティはまだ始まっていない。さぁ、頑張りますか!!
そう意気込んだ私に、サーラが懐中時計を見て告げる。
「あと5分で会場入りの時間ですよ。お嬢様、奥様」




