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逆さの虹

作者: アップル田部尾

「この森を音楽でいっぱいにしたい!」

青く光る水面が波で小さく揺れました。ポチャという音だけが、あたりに聞こえています。このどんぐり池はどんぐりを投げ込むと願いが叶うという言い伝えがあります。しかし、純粋な気持ちがないと願いは叶わないらしい。純粋な気持ちとはなんなのでしょう。それは分からないですが、コマドリは初めてこの池に来ました。

ここにくるには、相当な時間と労力を必要としました。それに何より暗くて、怖い。いつどんな猛獣が出てくるか分かりません。でも、それ以上にコマドリは「森に音楽を」という思いが強かったのです。そして、何年も前に消えてしまった虹を取り戻したいという思いも。この逆さの虹の森で誰にも負けないぐらいに・・・。


帰りはコマドリにとって思ったよりも早く着いたように感じました。行きの不安、期待、不安。不安が大きく、羽が上手に動きませんでした。だけど、帰る今になっては、ウキウキした気持ちが大きくなっていました。この森に歌がいっぱいになったらどんなに毎日が楽しいだろう。そんな想いで頭の中がいっぱいでした。森中の動物や植物が毎日一緒に歌を歌い、楽しく毎日が送れる。そんなに楽しいことはないとコマドリは思っていました。


なんでこの森を音楽でいっぱいにしたいかというと、森がどんどん小さくなってきているからです。人間という動物によって、木たちが死んでいっているのです。ヒノキも死んでしまいました。コマドリにとっては、ヒノキは住処であり友達だったのです。本当に悲しく、一週間ぐらい動けず、泣いてばかりいました。そんな時、たどり着いた木はクスノキでした。クスノキは、優しく話しかけてくれました。

「どうしたんだい?」

「ヒノキが死んじゃったの」

「それは辛いね。ずっと泣いてるのかい?」

「うん。どこに行っていいかも分からないの」

「ご飯はちゃんと食べてるかい?」

「喉に通らないの」

「じゃあこれをお食べ」

そういって、自分の枝に付いているどんぐりをコマドリにあげました。

「こんなもの貰えないよ。だって体の一部でしょ」

「いいんだよ。困ったときはお互いだよ」

コマドリは、いつもは昆虫を食べているので、どんぐりは食べれるか不安でした。少し苦かったけど、体に元気が湧いてきました。

「ありがとう。元気になったよ!」

「それはよかった!」

「何かお返しできない?」

「お返しかあ。そんなものいらないよ。」

「なんでもいいよ!」

「じゃあ、この森を音楽でいっぱいにしてほしい」

「音楽?」

コマドリはビックリししました。そんなことでいいのかと思いました。

「この森を音楽でいっぱいにしたら、人間たちもこの森の大切さを分かってくれるのかなと思って。」

「名案だね!」

「僕もコマドリさんの歌にいつも楽しい思いをさせてもらってるんだ。だから、この森に住んでるすべての生き物みんなで音楽を作って欲しい」

「いい考えだね。でもそんなことできるのかな」

「この森の東の先にどんぐりの池っていうのがあるんだ。そこにどんぐりを投げ込むと願いが叶うんだって。だけど僕はここから動けないからいけないんだ・・・」

「いいよ!僕は飛べるから、代わりに行ってくるね!」

「ありがとう!実は僕も人間に切られるのが怖いんだ。でもこれで希望が見えてきたよ!」

「僕に任せて!」

「でも、どんぐりの池までは険しいと聞いているから、気をつけてね」

「わかった」

コマドリは早速、クスノキにどんぐりをもらって飛び立ちました。


池から帰ってきたコマドリは考えました。どんぐりの池は噂かもしれないので、もし噂だったら、クスノキの願いは叶えてあげられない。コマドリ自身も歌を歌うのが好きなので、音楽でいっぱいにしたいという夢を叶えたいのです。考えに考えた末、一緒に歌うメンバーを増やそうと考えました。

まず、最初は一番誘いやすい動物を誘おうとコマドリは考えました。真っ先に浮かんだのがキツネです。キツネはお人好しで、すぐにコマドリの提案を受けてくれると思ったのです。コマドリは、飛びながらキツネを探しました。キツネは、地面の葉っぱを口で掴み、何かをしていました。

「キツネさん。何をしてるの?」

「やあコマドリさん。実は、ここにモグラさんの穴があったので、大きな獣に襲われないように穴を隠してたの。」

「優しいね。」

「そんなことないよ。モグラさんのために当たり前のことをしただけだよ。」

「もっと森がいいところになるといいと思わない?」

「そうだね。どんどん森も小さくなってきてるしね。」

「森を音楽でいっぱいにしたいんだけどどう?」

「音楽?」

コマドリはキツネに音楽いっぱい計画を話しました。キツネは心地よく受け入れてくれました。

「でも、僕歌はそんなに上手じゃないよ。」キツネはしょんぼりしながら言いました。

「大丈夫!楽しくみんなで歌えたらそれでいいんだ」


まだまだ数はいりそうです。コマドリとキツネだけではいい演奏はできません。コマドリは次に、誰を誘おうか考えながら自分の巣に帰ってきました。すると、自分の巣に近づくに連れて、巣が赤いように見えました。驚きながら近づくと自分の巣が何者かによって、赤い木の実だらけになっていました。

カサカサっと音がし、木の裏側から長い尻尾が見えていました。コマドリはピンときました。

「リスさん!」

返事はありませんでした。

「リスさん!これあなたの仕業でしょ!」

「バレたかー」

「こんなことするのリスさんしかいないよ」

「今回は、驚いた?」

「驚いたけど綺麗だね!赤くて!でも、目立っちゃうから襲われそう、、、」

「あら、それは大変!」

「イタズラもいいけどほどほどにしてね。」

「ごめんなさい」

「お詫びと言ったらなんだけど、協力してほしことがあるんだけど。」

「なんでも言って!」

「この森を音楽でいっぱいにしたいんだ!」

リスにもクスノキと話したことの説明をしました。

「なんか楽しそうだね!」

「そう言ってくれて嬉しい」

リスはウキウキしながら聞いてくれました。数が増え、なんだかコマドリ自身もウキウキが増してきました。


パンッ!!!!

と、大きな音が森中に響き渡りました。この音はあの音かな、と不安になりました。

不安と同時に羽が動かなくなり、近くの枝に止まりました。ほのかに火薬の匂いが漂ってきました。

数分経ってから、音のなったところに近づきました。すると、シカがお腹から血を流して倒れていました。シカは身動きが出来ず、ただ倒れていました。

そこに人間が近づいてきました。

「こらちっさいなあ」

と猟師は言いながらシカの足を持って歩いて行きました。

コマドリは、自然に涙が流れてきました。なぜかわかりません。ただただ涙が流れました。

なんで何もしていないシカが殺されないといけないのかわかりませんでした。

シカは何もしていないとわかってもらわないといけないと、心に決めコマドリはその場を去りました。


コマドリはさっきの出来事を誰かに話したくなり、クスノキのところに行きました。クスノキは、コマドリの話を一生懸命に聞いてくれました。

「なんでシカさんは殺されないといけないの?」

コマドリは泣きながら言いました。

「なんでなんだろうね」

「人間は本当に怖いし、卑怯だ。銃とかを使って動物や植物を殺すんだ。」

「そうだね」

「人間なんて大嫌いだ」

「そう思うよね」

コマドリはまた涙が溢れてきました。自分は何もできなかったという後悔と人間に対する怒りで。

「でもね。人間も動物だよ。」

クスノキはゆっくりと話し出しました。

「そうだけど、、、」

「何か人間にも考えがあるのかもしれないね。」

「そうかなぁ?」

「僕にはわからないけど。それを確かめるためにもやっぱり音楽でこの森をいっぱいにしてほしい。コマドリさんにしかできないことだから。」

コマドリは静かにうなづきました。人間にも何か考えがあるか、、、。このようなことは考えたこともありませんでした。

コマドリはクスノキの言葉を胸に、思いを膨らませながら飛び立ちました。


「それは僕の食べものだよ!」

「俺が先に見つけたから俺のもんだ!」

食いしん坊のヘビと暴れん坊のアライグマが根っこの広場で食べ物の取り合いをしていました。

お互い激しく言い合いながら取っ組み合いをしていました。しかし、アライグマが根っこに捕まりかけていたのです。この広場で嘘をつくと、根っこに捕まってしまうのです。そして帰って来れないとの噂も聞きました。

コマドリは最初、アライグマが悪いから罰を受けて当たり前だと思っていました。しかし、いいところもあるアライグマを見捨てることはできませんでした。

見かねたコマドリは歌を歌いはじめました。最初は喧嘩をしていましたが、二匹とも喧嘩をやめ上を見上げました。

不思議なことに、その歌を聞いたヘビとアライグマは喧嘩のことなど忘れ、一緒に歌ってくれました。アライグマの下から伸びていた根っこも元に戻っていっていました。

喧嘩のことなど忘れて、ヘビ、アライグマ、コマドリは三匹一緒に歌いました。楽しく歌った後、みんなが笑顔になりました。

「この食べ物、半分こしようよ。」

と、ヘビは言いました。

「うん!そうしよう!」

二匹は仲直りしました。さっきの喧嘩は嘘のようでした。

コマドリは音楽で森をいっぱいにしようと思っていたのですが、想像はできませんでした。しかし、争いも音楽で無くなるという実感ができてとても嬉しく思いました。

「コマドリさんだったのか!ありがとう!」

「なにもしていないよ」

「歌を歌ったら喧嘩しているのがバカに思えてきたよ」

「ねえ、ヘビさんアライグマさん。この森を音楽でいっぱいにしようよ」

ヘビとアライグマはすぐに納得してくれました。どんどんと数が増えていきます。


コマドリと一緒に音楽を奏でてくれる動物は増えました。だけど、小型の動物しかいません。大きな音で森中に響き渡らせるような動物も必要だとコマドリは考えていました。そんなことを考え飛んでいると、オンボロ橋に差し掛かりました。

オンボロ橋の目の前には、クマがいました。

「クマさん!どうしたの?」

「うわあ!」

「ビックリした。コマドリさんか。脅かさないでよ。」

「ごめんよ。なにしてるの」

「食料を探しにきたんだけど、帰りはこの橋を渡らないといけないんだ。でも、この橋グラグラそうで怖いんだ。下は見えないぐらい高いし。」

「そうなんだ。他の場所からは帰れないの?」

「うん、、、。さっき銃声が聞こえたし、他の道から行ったら僕の友達みたいに人間に捕まっちゃう。」

「そっか。なら応援する!それぐらいしかできないから。」

「ありがとう。でもどうやって?」

そう聞かれると、コマドリは歌を歌いはじめました。楽しく、明るい曲が森に響きました。

「いい歌だね!なんだか渡れる気がしてきた!」

クマは勇気を振り絞って駆け出しました。クマが渡ると橋は大きく揺れました。少しずつ木が壊れていきます。クマは一生懸命渡ります。しかし、もうちょっとで到着のところで、バキバキッと後ろ足の部分の木が壊れてしまいました。前足だけになってしまい、絶体絶命です。

コマドリはさっきよりも大きな歌声で応援しました。クマはそれにより、前足に思いっきりを入れて崖を登りました。クマは無事登ることができました。

クマは安心したようにコマドリを見ました。

「コマドリさんありがとう!歌にすごく元気づけられたよ!」

「クマさんよく頑張ったね!」

「何か困ったことはない?コマドリさんの力になりたい。」

「じゃあ、この森を音楽でいっぱいにしよう!」

クマにも説明をしました。クマは目を輝かせながら聞いてくれました。もちろん、と大きな声で言ってくれました。

コマドリはこんなにも協力してくれる動物がいるとは思っていなかったのですごく驚きました。


ウキウキしながら迎えた音楽会。しかし、あいにくの雨でした。森の中は暗く、あらゆるところが濡れてしまっていました。みんなの気分もよくありませんでした。

ゆっくりと誘った動物たちが集まってきました。

気分はみんなよくないがコマドリは歌い出しました。だけど、気分はあまり乗らないのとこんなことで森が元気になるのか疑っていました。

「こんなことで森に活気が戻るの?」とキツネは言いました。

コマドリはみんなが歌ってくれないけど、やめることなく歌い続けました。雨でびちょびちょだけど必死で歌いました。その一生懸命さについて、クマが歌い出しました。それに続いて、ヘビ、アライグマ、リス、キツネが歌い出しました。最初はこの動物たちだけだったが、他の動物たちも歌い出しました。動物たちだけでなく、木や花たちも枝を振ったりして歌いました。どんどん森の中に音楽が溢れ出しました。

そんな中、銃を持った猟師も近づいてきました。それに気づいた動物たちは歌うのをやめてしまいました。

「おかしいなあ。ここで何か聞こえたんだけどなあ。」

猟師は不思議そうにいいました。コマドリは恐ろしいと思いながらも勇気を振り絞って歌い出しました。周りの動物たちもコマドリに続いて歌いはじめました。

「ああ、音楽みたいだ!素晴らしい!」

そう言って、猟師は銃を置き歌を歌いはじめました。その森で奏でられている音楽が森中に広がっていきました。

コマドリが人間に近づいていいました。

「もう動物や木を傷つけないで」

「本当にごめんね。こんな美しいところが森にあると知らなかった。」

下をむきながら猟師は続けて言いました。

「でもね。コマドリさんや他の動物や植物と同じで、食べないと生きていけないんだよ。」

コマドリは驚きました。人間も自分たちと同じ動物だったんだ、と初めて気づきました。

「そうだよね。」

「でも、今日気づいたよ。必要以上に動物や植物を傷つけるのはやめるよ。」

そう言って、猟師は歌いながら帰っていきました。それを聞いていた周りの生き物たちはさらに陽気に、楽しそうに音楽を楽しみました。


翌日、コマドリはクスノキに今日のことを伝えに行きました。

「コマドリさん、昨日は楽しかったね!」

「クスノキさんも一緒に歌ってくれたんだね!」

「人間とは上手くいった?」

「うん。人間もぼくたちと同じ生き物だって分かったよ。」

「そうだね。だから僕たちはお互いに傷つけあうんじゃなくて、共に生きていかなくちゃならないんだね。コマドリさん、気づかせてくれてありがとう!」

「共に生きるかあ。クスノキさんのお陰で僕も大切なことにきづいたよ。ありがとう!」

その時、光を無くしていた虹が光を取り戻しました。その逆さの虹は、どこまでも遠くまで伸び、大きな橋になっていました。まるで人間と動物や植物をつなぐように。

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