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第8話 ぶち壊し祭り

 「な・・・なんだてめぇは!?」


 バリーの表情が一気に焦りに変わった。他の客はハチの放った轟音に驚いたのと、唐突なこの状況に訳が分からなくなっていた。


 「皆様、この度のパーティに水を差す形になってしまった事を深くお詫び申し上げます。今回のショーはこれにて終了です」


 ハチが丁寧な口調でいつの間に持ち出していたマイクで語り始めた。


 「てめぇ、良い所で・・・お前もあいつの仲間か。二人いたのか。だが、どうやって入ったんだ?」


 「腰の鍵を見てみろ。バリーさん」


 バリーは腰に手を当てた。鍵が無くなっている。どこを探しても無い。


 「いつの間に・・・どこに行った!?」


 バリーはハチの方を睨んだ。そこに答えがあった。更にもう一人いた。子供だ、腰程まで伸びたボサボサの髪で痩せた体格の男が、可愛らしい笑顔を向けながら、さっきまで腰に付けていた鍵を見せびらかしていた。


 「バリーさんよ、子供ってのは小さい生き物だ。だからこそ目につきにくい。だから簡単に見逃してしまう。特に今日のような目先の欲しか見えていない状況なら、お前と一緒に店に入ったのにも気が付かなかっただろ?ま、タマが隠すように酔ったふりをしてお前の視界を遮ってたのもあるがな」


 「あのさ、ムカつくおにーさん。この鍵はね、さっきホシおねーさんとお話ししてる時に取って来たんだよー。とうだいもとくらしってやつだねー」


 バリーはしばらく焦っていたが、すぐに冷静さを取り戻した。


 「やりやがるな、このガキ・・・だけどよぉ、入ったはいいがどうするんだ?契約書はここにある。どうやってホシをこの状況から救い出す気だ?どうしようもねぇよなぁ、あるんなら出せよ、証拠を」


 バリーはまだ自信がある。ホシの借金が虚偽である証拠はこの世界のどこを探しても無い。ハチたちには勝ち目はないと、自信に満ち溢れていた。


 「・・・お前はどうにも、他人が絶望に堕ちる様を見るのが好きらしい。お前は、自分が絶望の底に堕ちたことはあるか?俺にはある。俺にとっての絶望をな・・・望みの無い世界をお前は知らない。そんなお前が絶望なんて言葉、軽々しく口に出すな。そんなに証拠を見たいか?後悔するだけだぞ?」


 



 ハチは忠告はしたものの、問答無用で証拠を突き付けた。


 バリーの表情は絶望へと沈んだ。


 「な・・・そんな、あり得ねぇ・・・どうしてここにいる。アマナ!!」


 目の前に現れたのは、バリーがその手で海の底へと突き落とした人物だった。


 服装、髪型、顔つき・・・そして何より、懐き方が、彼にとってその証拠になり得た。


 「よ、久しぶりじゃねぇか。バリーさん」


 バリーの目の前に現れたのは零だ。サナとルナを連れて、店内に堂々と入った。


 零を知る者はこの世界にはホシと、サナとルナだけだ。零はアマナと瓜二つの顔をしている、それを利用したのだ。零はアマナに成り代わった。


 「大変だったよ、ここまで来るのは・・・にしても、これはいったいどういう事だ?俺はお前に借金をした覚えはねぇが?」


 バリーは冷や汗を流しながら、しばらく考え込むように黙り込んだ。


 「いや、契約しただろ。忘れたとは言わせねぇぜ?お前、なんであんな目に遭ったのか分かってんのか?お前が突然俺との契約を破棄したからじゃねぇか」


 バリーは話をでっち上げる。曖昧な事を言って事実を捻じ曲げる作戦に出た。アマナが消えたのは2年前の事だ。2年の歳月は意外と長い。記憶は曖昧になってくる。それを利用しようと考えた。


 「ん?契約?もしかしてあれの事か?あのーあれ、あれはお前の一方的な脅しだろ」


 零は特に分かってはいないが、強引に話を合わせる。零は待ったのだ、この嘘のやり取りでボロを出す瞬間を。


 「お、脅しな訳ないだろ?お前はあのあの契約で了承したじゃねぇか・・・」


 バリーは何故話が合うのか分からない。しばらく悩んだが、ある結論に至る事で落ち着いた。


 「・・・アマナ、お前は本当にアマナなのか?さっきから聞いてれば適当言ってねぇか?」


 アマナはもしかしたらと思った。だが、この質問がこのやりとりに終止符を打たせた。


 「アマナ・・・かぁ、実際のところよく分かってねぇ。俺は海に落とされた後、記憶を無くしてたらしくてな。ここに来れたのはほんと、偶然なんだよなぁ・・・ところでよバリー、俺はさっきから適当に答えたのに、なんでお前は俺との話に辻褄が合うんだ?」


 零は止めを刺しに出た。バリーは完全に失敗した、目の前にいる零を、完全にアマナと思い込んでしまった事で既にこの闘いの勝敗は決していた。


 「まさか、全て仕組んでいたのか!?」


 「仕組んでたのはてめぇだろバリー、俺は嘘を言った。にも関わらずてめぇは事実と思い込んだ。それはてめぇが最初から嘘を言ってたからだ。だからやり取りが続く。嘘で固められたやり取りがな・・・


 嘘ってのはな、最後は絶対にバレるんだぜ。その嘘は時間が経てば経つほどより大きくなって自分だけじゃ抑えられなくなる。そしてそのついた嘘は、何倍にもなって自分に襲い掛かる」


 バリーはどこかに逃げ道はないか探す、文字通りの脱出口を、自分自身の内面の逃げ道を、彼は探しまくった。だが、出口は塞がれた。自分自身で塞いでしまった。自分の行動が、自分の言動が、完全に出口を消し去った。目の前にあるのは壁だけだ。


 そして、その壁は、バリーに襲い掛かる事になった。


 「こ・・・これは、どういう事ですかな?」


 丁寧な口調で話す人物、彼らは戻ってきた。


 「シャイニー ゾロアス・・・ゲイル ウィング・・・」


 このパーティの主催の二人、シャイニーとゲイルは、この出来事の間にトイレにいた。というのも、バリーが店に入った後、タマがあたかもパーティ客の一員を装って二人をトイレへ呼び、酔いを醒まさせていたのだ。


 「話は先ほどから聞かせて頂きました。バリー殿、お主はこの店の看板娘である彼女に手を出すだけでなく、陥れ、挙句の果てには我々貴族すらも利用しようとしていたというのか・・・お主に、人間の恥という言葉はないのか!!!」


 シャイニーは激しく憤った。それもそのはずだろう。せっかくの友好関係の築き上げのパーティを、ぶっ壊れたのだから。


 バリーは、周囲を睨むように見渡した。先ほどまで乗り気だった貴族の男たちも、少し冷静さを取り戻し、バリーに怒りを向けていた。先ほどまでむしろバリーの味方のような存在がだ。


 バリーは決心した。最後の手段を使う事にした。


 「はぁ・・・仕方ないねぇ。全部ぶち壊された。だがよぉ、俺一人片づけたところで、何も変わりはしねぇよ。出てこいてめぇら!!」


 バリーの呼びかけで一斉に待機していた、バリーの仲間が会場へと入った。


 「な・・・どういう事だよ?この事件ってバリーの奴の単独でやったことなんじゃ」


 「タマ、この事件には裏がまだあるという事だけだ。だが、今回はどうやらあぶりだせなかったみたいだがな。だから、今はこの事件の解決を優先しろ。お前は忠也を守れ」


 ハチはタマにこの程度で動揺するなと伝えた。ここから先は守りながら戦う。少しやりずらい戦いだ。少しの気の緩みが一気に形勢を不利にする。こっちがまともに戦えるのは3人、相手は数十人だ。


 「サナ、ルナ、肩に乗れ。そしてちゃんと捕まってな」


 「のる!のる!のる!」

 「かたぐるま!かたぐるま!」


 零はサナとルナを肩に乗せた。そして再びバリーを睨み続けた。


 「さぁ、祭りと行こうか・・・踊るぞてめぇら!!」


 祭りとは名ばかりの大乱闘が、この小さな店内で巻き起こった。

 


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