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第7話 レッツショータイム

 ホシは今、働いているバーの従業員入り口に到着した。少し迷っていたが、決心してそのドアに手をかけた。


 「大丈夫。あの人たちは悪い人じゃない。なんとなくだけど分かる。うちは、うちに出来る事を精一杯やるだけだ」


 ドアを開けると、何食わぬ顔でマスターがホシを迎えた。


 「あ、ホシちゃん来たね。今日は貴族さんのお出ましだ。失礼の無いようになって・・・どうした?具合でも悪かったか?」


 予想以上に普通な対応でホシは少し呆気にとられていた。もしかしたらマスターは、何も知らされていないのでは?とホシは考えた。ホシにとってマスターは、孤児院の経営を後押ししてくれて、経営難の時に自分の店を紹介してくれた。命の恩人のような存在だった。


 「あ、大丈夫です!」


 「んあ?そうか、じゃ、早速だが、こいつをだな・・・」


 マスターは今日だす料理の指示をホシと他にも来た従業員に出した。


 (しばらくは大丈夫そうだな。そうだ、いつもみたいに振る舞えばいい。あの人たちを信じよう)


 ホシはいつもの調子を取り戻し、いつも通りに仕事をこなした。


 ・


 ・


 ・


 時刻は午後7時を迎えた。店内に正装に身を包んだいかにも高尚そうな人たちが入って来た。しかし、この中に女性の姿はなかった。


 ホシは店の入り口でその人たちを迎えた。


 「ようこそ、いらっしゃいませ」


 予定の人数が入ったことを確認して、ホシがバックヤードに戻ろうとしたとき、後ろから声がかけられた。あの男だ。


 「今日の予定、解ってるよなぁ。やらなかったらどうなるか・・・お前の帰りを待つ奴がいなくなるぜ。


 酒入れて、昂ったところでやれ。安心しなよ、マスターにはその間外にいてもらうからなぁ、俺たちなりの配慮さ。タイミングは自分で見つけろよぉ」


 ホシは今にも殴り飛ばしそうな気持を強引に抑え込み、睨むだけにした。


 「ちっ、約束は守るさ、だけど、サナとルナには、絶対に手をだすなよ」


 「あぁ、良いとも。俺としてはお前があいつらの前で恥かく姿を見れれば満足できそうだしなぁ」


 「変態が・・・」


 ホシはバックヤードへと戻った。





 「えー、この度はウィング家とゾロアス家の友好の証として・・・」


 貴族の代表の男が店の舞台部分に上がり、演説を始めた。演説を行っているのはエイド王国の貴族、ゾロアス家の代表、シャイニー ゾロアスだ。


 シャイニーは、昔セイアン村に来た時にこの店で食事をして、その時以来この店を気に入り、今日、交流のある貴族、ウィング家を招待したのだった。シャイニーにとっては只の交流会、今夜行われる事は、知る由もない。



 「では、心ゆくまでお楽しみください」


 シャイニーは演説を終え、席に戻った。それとタイミングを同じくして、ホシはマスターの手料理をそれぞれのテーブルに届けた。


 「お酒、お入れしますね」


 「お、済まないね。ん?君けっこうかわいいねぇ」


 「は・・・はぁ、ありがとうございます」


 ホシは苦笑いを浮かべた。


 



 柄の悪い男は、外で一応警備をしていた。


 「なぁ、シャロウよぉ。お前はどう思うよ」


 男はもう一人のほとんど喋らない男に暇だから話しかけた。


 「何がだ?バリー」


 「いやよぉ、あの孤児院のガキだよ。あの二人、一体何があんだろうなぁ。あいつの親って不明なんだろ?意外と大物のガキだったりしてな」


 「さぁ、興味がないな。ただ分かるのは、ホシの奴を邪魔に思う連中がいるという事だな。アマナの件からホシの今回の件まで、この一連の出来事は全て仕組まれているという事だ。つまりは、俺たちは物言わぬ道具であれって事だ。手を出せば、下手をすればアマナよりも悲惨な目に遭いかねない」


 「だな、あ~暇だ。さっさと脱がねぇかな~・・・なぁ、あの女って胸でかいと思うか?」

 

 「俺は興味ないと言っただろ」


 二人が店の外の見張りをしている中、二人はフラフラと歩いてくる一人の男を発見した。手には酒瓶を持った。先ほど威勢のいい言葉を並べていた、タマだ。


 「よ~、兄さんたち。さっきはわりぃなぁ」


 タマは柄の悪い男、バリーにもたれかかった。


 「あ?何言ってんだ?って酒臭!!」


 「コレ、調べたけどさ。無意味だったって事ー。調べても調べても、ホシさんの自業自得じゃん。だから見に来たんだよー、入れてくれるって言ってたよなー。ごめんよー、さっき悪口言っちまってさ、俺の負けだ」


 タマの口からは凄まじい酒の匂いがしていた。タマはヨレヨレになった契約書をバリーに返した。


 「・・・ハハ、だから他人が口出しすんなって言ったんだ」


 「ほんとだなー、俺、すぐ熱くなるからさ、ほんとわりぃ」


 バリーはここまで謝るタマの態度に悪い気はしなかった。


 「フッ・・・バリー、そろそろ行ってきて構わない、入り口の見張りなら一人で十分だ。楽しんで来い」


 シャロウは、バリーに店内に入るようにそそのいた。


 「だな、ほんと無欲な奴だなぁお前はよぉ、ま、それのおかげで俺は楽できる。感謝するぜー」


 「あんがとー」


 タマとバリーは仲良く店内に入っていった。


 



 「・・・一瞬、本当に行き詰まったのかと思いましたよ。あなたたち、中々の役者ですね」

 

 シャロウは、誰もいない壁の方向へ話しかけた。


 「俺たちを甘くみるなよ。お前らの悪事は証拠を揃えてきた。ここを通しな」


 ハチはタマがバリーを連れて店内に入るのを待っていた。見張りが一人になったところを攻め込もうとしていたのだ。だが、シャロウは気配だけでハチの居場所を当てた。作戦は狂った。強行突破しかない。


 ハチは拳を構えたが、シャロウは手のひらを前に出し、待ての合図を出した。


 「戦う必要はありませんよ。少し話しませんか?あなた方、どうやって暴いたのですか」


 「・・・さっきも気になってたが、あんたの雰囲気、あの男とはまるで別だ。なんとなくだが格が違う感じがする。あんた、何者だ?」


 「さぁ?とりあえず言えるのは、最終的な目的はあなた方と同じです。あの双子を渡すわけにはいかない、利害が一致した者同士、ここは協力しませんか?」


 ハチはシャロウの言葉を信じることにした。ハチはシャロウの目を見ていた。不敵ではあるが、下衆のようなバリーの様な目をしていない。だからこそ信じれた。


 「・・・なるほどね、意外とあなた方も悪ですね。だが、気に入りましたよ」


 



 一方店内では、大分客が出来上がっていた。


 「なぁ姉ちゃん、もう一杯頼むわ」


 「そろそろ、おやめになった方がよろしいのでは?」


 マスターは、今にも潰れそうな客の介抱をしていた。ホシは、少し焦ってきていた。


 (まだ誰も来ないの?そろそろお開きになりそうなのに・・・)


 そう考えていた時、バリーが店内に入って来るのを見た。そこでホシは最悪なものを見てしまった。酔いつぶれてやる気を無くした顔をした、タマが一緒に入って来たのを。


 (まさか・・・そんな)


 バリーはホシを見てニヤリと笑った。だが、それと同時にバリーに気が付かれないようにタマはホシに親指を立てた。

 

 (よかった・・・一瞬裏切られたかと思ったよ)


 ホシもタマにウィンクを送った。タマは部屋の入り口付近に置かれたが、それと同時にバリーはどこかに消えた。


 この少し後、ホシはある事に気が付いた。いつも通り一生懸命に働いていたから気が付かなかったのだ。この店の店員が、ホシ以外どこにもいなくなっている。ホシはすかさずバックヤードに戻った。だが、他の店員はおろか、マスターもいない。いたのはバリーただ一人、ホシの前に立ちふさがった。


 「気が付いたか?会場の準備は整えてやったぜ?マスターたちは外にいる。もう誰も入ってこれねぇ。内側から鍵をかけた。これが無きゃ、外から中にも、中から外にも出られねぇよ」


 バリーは、ホシの前で鍵を見せびらかして腰のベルトに引っ掛けた。この店は、内側にも外側にも鍵がついている構造なのだ。


 「さぁ、行け。もう誰も来ねぇ。俺は結構ビビりだからな、全てに鍵をかけた。マスターも、そして、シャロウの奴も入ってこれねぇんだよ、あの男もな・・・」


 ホシはこの言葉で少し顔を強張らせた。その表情の違いをバリーは見逃さなかった。

 

 「ふっ・・・フハハハハ!!やっぱな!あの野郎、何かやらかす気だったんだ!完全に信用しなくてよかったぜ!!ホシ・・・頼みの綱が消えたなぁ、ハハハ・・・その顔、もっと悲惨にしてやるぜ」

 

 バリーはホシの腕を力強く握ったら、客のいる部屋へと向かって行った。


 「な、何するの!?」


 「地獄へ堕とすのさ。ホシお前、客の前で脱ぐだけとでも思ったか?それはとんだ勘違いだぜ?これから行われるのは、ホシ、お前への強○パーティだ。


 ま、この事はまだ、あの貴族共は知らねぇけどな。だが、あそこまで酔ってるんだ。どこまで自制心がある奴がいるのかなぁ、普段紳士ぶってる奴の化けの皮が剥がれるのを、とくと見ておけ」


 ホシの顔は、驚愕と恐怖が混じった顔になってしまった。隙間から見えたタマを見た。彼もまた焦った表情へとなっていた。ドアが開かなくなっている。タマは客に気が付かれないように必死に開けようとしているが、上手くいっていないようだった。その光景が、ホシを更に絶望へと向かわせた。


 「その顔・・・その顔が見たかったんだよ。だが、まだ足りねぇ。もっと堕ちろ!!」


 バリーはホシを連れて舞台部分へと上がった。


 「ようこそ!!皆さん!!」


 バリーはマイクを使い大声で呼び止めた。


 「えー、皆様、酔いも回ってそろそろお開きかと思いますが、本番はこれからです!!皆さま貴族は、我々庶民に比べてさぞ、ストレスが溜まっていることだろうと思います!だから、今夜はそれを全て吐き出してもらおうと思います!今夜は特別!この店の看板娘!ホシがその体を持って答えてくれるとの事です!!」


 会場にしばらく沈黙が流れた。


 「つまり、その子を自由に使って構わないと?」


 「そうです。何なりとお使いください」


 「ナニをしても良いと?」


 「はい、彼女があなた方の期待に応えます。あなた方が望む欲望を・・・この娘に吐き出して構わないのです。じゃあ、ホシ・・・堕ちろ!!」

 

 バリーはホシの腕を強引に引っ張り、舞台から下に落とした。ホシはバランスを崩して床に転がった。ホシの周りを押さえの効かなくなった目が囲んだ。


 「本当にいいんだな」

 「やろう」

 「まさか、こんな対応を受けさせてもらえるとはね・・・最初は少し面倒くさかったが、素晴らしい」


 ホシは恐怖で声が出なくなっていた。


 「では、レッツショータイム・・・」


 バリーの一言で貴族の男たちは理性が吹き飛んだ。ホシに掴みかかり、服をはぎ取ろうとした。


 「や・・・やめ!!」


 ホシは必死に抵抗するが、彼女のサナとルナに対する感情が、勢いを押しとどめてしまった。


 「その恥じらいの感じ、とても良いっ!!」


 (駄目だ・・・遅かった。あいつが一枚上手だったんだ・・・もういいや、これでサナとルナが無事になるのなら・・・うちは、女としての誇りを捨てよう。うちの初めては・・・あいつの為に取っておいたのに・・・)


 ホシはもう諦めた。貴族の男たちに恨みはない。別に零たちも怒りもない。彼らも必死に頑張ってくれた。タマの動きを見てそれを実感できた。だが、もう時は既に遅かった。それだけのことだとホシは思うことにした。


 



 『バガァン!!』


 部屋の中に乾いた耳鳴りするほどの大きな音が鳴り響いた。


 「すいません。本日の祭りは予定変更です」


 「ハチ・・・さん」


 店の扉を開け、堂々と店内に入って来たのはハチだ。手元に自動拳銃を握り、睨んだ笑みをバリーへと送った。


 「ここからが本当の・・・レッツショータイム」


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