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第6話 本番前、下準備

 ハチは、タマが玄関に飛び出る前に既に窓から外に出て、様子を見ていた。


 (・・・タマの奴め、また勝手な事を・・・仕方ないな、これがあいつなりのやり方だ。まぁいいか、タマが表立って動くのなら、俺は・・・)


 玄関から二人組の男が出てきた。一人は陽気な顔で、もう一人は妙な笑顔を浮かべていた。


 ハチは、タイミングを見計らって後をつけた。二人に気付かれないように、かつ、村の誰にもバレないように、慎重に行動した。


 男たちは、ホシが働いているというバーへと入っていった。ハチは裏へと周りこんだ。従業員用の入り口を見つけ、そこを使い中へと入る。


 そして再び誰にもバレないように男たちの居場所を探した。上の階から足音がきこえてくる。複数の足音だ。


 (上か・・・階段はあそこ一か所だけ、リスクは高いが、行くか)


 ハチは物音を一切立てずに階段を上った。そして2階の扉に聞き耳を立てた。



 「ホシの奴、やってくれそうですぜ、途中に旅人の変な奴が割って入って来て、契約書を見せろとか言って貸したが、問題はねぇだろ」


 男の一人が誰かに話しかけた。


 「問題はない、あれを調べてもアマナの消息は掴めない。燃やそうが何をしようが無駄だ。あれは写しだ。本物は銀行に保管してある。それに、あれを使って筆跡鑑定しようにも既にあそこにはあいつの残したものは何もない」


 「にしても分かんないですね、あの女、何かあるんですかい?巻き上げるのなら別の奴でもいいんじゃないですかい?ま、あいつが脱ぐってのは興味ありますけどねぇ」


 「あぁ、あの女自体に意味はない。あいつは余興だ。意味があるのはガキどもだ。あの双子を手にいれる・・・おっと、これ以上は詮索するなよ。お前は女の裸でも見て悦んでな。世の中には、ひでぇ奴もいるんだ。女を陥れて尚且つ絶望を。それを喜ぶ奴がな・・・」


 「詮索はしねぇですよ。その話に興味はあるが、俺たちみたいのが関わったらそれこそ命がヤバくなる。アマナの奴と同じく海に沈んじまう。あの女から巻き上げた金と、あいつが堕ちる瞬間を見れれば十分ですわ」


 「それがいい」


 「そうだ、話が変わりますけどよ、昨日・・・って、ん?誰だ?」


 男は何かに気が付き入り口の扉を見た。


 「どうした?」


 「今、物音が・・・」


 男はドアに近づき勢いよく開けた。


 「誰もいない・・・」


 更に上を見たりあちこちを探したが、そこには誰もいなかった。


 「すいません、気のせいでしたわ。んで昨日、ここのマスターには上手い事言っておきましたんで・・・」


 ・


 ・


 ・


 「成程な。随分と単純な手口だ。ベラベラとこんな所で喋るなんて、馬鹿な連中だな。しかし、アマナは殺されたか・・・ひどい奴らだ。ふっ、そろそろタマの奴も詰んでるだろうな、戻るか」


 ハチは既に外にいた。男がドアを開ける前に二階の窓から下に降りていたのだ。ハチは再び誰にも見つからず、孤児院へと戻った。




 その頃タマは・・・


 「だあああぁぁ!!なんでアマナさんの書き残したやつが何もないんだ!どっかないの?日誌とかさ!!」


 必死にアマナの書いた物を探していた。


 「やられたみてぇだな。タマ、あいつがその契約書を渡したのは、ここにアマナの痕跡は何一つ無ぇって事だ。筆跡鑑定は無理だったな」


 零は何故かクローゼットを探していた。


 「アニキ、何してるんです?」

 

 「下準備だ。今日は祭りなんだろ?」 


 「はぁ・・・」


 タマは再びアマナの物を探した。そんなこんなで時間が経ち、サナとルナが帰って来た。


 「ただいま!ただいま!ただいま!」 

 「かえった!かえった!」


 二人はまた、ちゃんと綺麗に靴を揃えて脱ぎ、綺麗に手を洗った。


 「おじちゃんたち、なにしてるの?」

 「おねぇちゃんのことー?」


 二人はなんだか心細そうに零に尋ねた。その質問にタマが優しく答えた。


 「えっとね~、祭りの前の下準備?」


 タマは冗談交じりで答えたが、双子は暗い顔になって呟いた。


 「・・・しゃっきんのこと・・・しってるよ。さっきおはなしきこえてた」

 「おねぇちゃん、しんぱい・・・」


 零とタマは二人して双子を見た。サナとルナは気が付いていた。今がどんな状況なのか、これから何が起きようとしているのか、感覚的ながら、酷いことが起きると二人は知っていた。


 「おじちゃん・・・おねがい、おねぇちゃんをたすけて」

 「おねぇちゃんがいなくなっちゃう。そんなのやだ」


 心配そうな顔をした二人に忠也が歩み寄った。


 「ホシおねーさんは、絶対に大丈夫だよー。おれ、分かるから。どんなに辛い目に遭っても、自分に正しくしてたら、絶対に救われるって。おかーさんがそうだったもん。おかーさんはおれの前からいなくなったけど、それでもおかーさんは今も元気に生きる事が出来てるんだー。だからおれたちは、お兄さんたちを信じるの。それがおれたちに出来る事だよー」


 零は忠也の放った言葉、生き方に感動を覚えた。だからこそ、決心はより硬いものとなった。必ず期待に応えると・・・


 忠也は双子に笑顔を向けて相変わらずぎこちない手つきで頭を撫でた。


 「アニキ、忠也の奴、あの環境で生きてきて、よくこんな思想が出来ますよね。俺には忠也がだんだん天使に見えてきましたよ」


 「だな、俺も久しぶりに感動って言葉を思い出したぜ。だが、世の中はそう上手くはいかないのも現実だ。忘れるなよ、タマ。上手くいかないのなら結果だけを残せばいい。全てを綺麗に片付けられるとは思うなよ」


 「分かってますよ。だけど、今回ばかりは、全部を望みますけどね」


 「あぁ、今回は全てを綺麗に片付けられそうだ。なぁ、ハチ」


 零が外を見た時、ハチは部屋に戻ってきていた。


 「どうだった?」


 「ビンゴです、奴ら、やはり巻き上げる為にホシさんを利用してたみたいですね。ですが・・・」


 ハチは他に聞こえない声で零の耳元でささやいた。


 「アマナさんは既に殺されています。そして、奴らの本当の狙いはサナとルナの様でした」


 「そうか、やはりな・・・」


 「まさか、気づいていたのですか?」


 「あぁ、お前に聞くまでは確証はなかったが、話が上手く出来すぎてる気がしてな・・・アマナさんの借金、代理人となっていたホシさん。そしてこの双子・・・奴らの狙いは、ホシさんからこの双子を取り上げる事としか考えられない、今日の祭りは、前夜祭って所だろうな」


 零は、最初に借金の話を聞いた時に薄々と、ホシは騙されているのではないかと感じていた。その時点で零は心の中で決心していた。自分の前で不貞を行う輩は、ぶちのめすと。


 「なぁ、サナちゃん、ルナちゃん。アマナさんの事、聞かせてもらっていいか?」


 零は精一杯の優しい言葉でサナとルナに話しかけた。零はある事を考えついたのだ。


 「いいよおじちゃん、なにきく?なにきく?なにきく?」

 「おしえるよ。おしえるよ」


 零はこの場で話を聞こうと思っていたが、サナとルナは零の足を掴んで思いっきり引っ張った。


 「んあ?」


 「こっち!ここでおしえる!おしえる!おしえる!」

 「ここであそぶ!あそぶ!」


 零は二人の部屋の遊び場へと連れて行かれた。


 「ハチ、頼んだぜ」


 零は連れ去り際にハチに指示だけして、部屋の中へと連れ込まれた。


 


 「タマ、知ってるか?兄貴はああ見えてお前以上の子供好きだ。本人は否定してるがな」


 「見てれば分かりますよ。というか、ハチさん。一体どこに行ってたんです?」


 「祭りの準備だ。さてと、ここからがお前の出番だタマ、忠也君もいいかい?」


 ハチは算段をタマたちに教えた。

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