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第5話 どちらを選ぶか

 ホシは玄関のドアを開けた。そこには声と同様に柄の悪そうな男が二人立っていた。


 「ホシさん、昨日俺たちに渡した借金の金額、全然足りてなかったんだが?」


 「・・・はぁ?何言ってんの?昨日十万しっかり渡しただろ」


 「あぁ十万は入ってたな。でもねぇ、利子分が足りねぇんだ。アマナの奴が金借りてから一年たつ。それ分の利子を加えると月に二十万はいるんだぜ?ここの契約書にちゃんと書いてあんだろ?今までは大目に見てやってたけどよ、今月からはそうはいかないぜ」


 「・・・お前ら、うちを騙してんじゃないだろうな。信用出来るかよ、そんな無茶苦茶な話があるか」


 「それは知らねぇな。アマナはこの契約で同意してたんだ。でもアマナは今はどこかにか行ってしまっている。だから代わりにあんたが払う。代理人はホシ、お前だからな」


 ホシは納得がいかない。だが、真相を確かめようにも肝心なアマナが行方不明だ。ホシは二人を睨む事ぐらいしか出来なかった。

  

 「だけど今うちには、十万なんてないよ。ただでさえカツカツなんだ」


 「そっか、それは残念だなぁ、今日払えないってなると、ここは取り壊しだよ?それでいいのならいいけどね。でも、そんなことしたら、あの双子、どうなっちゃうのかなぁ?でも、二人なら一気に返済できるかもねぇ」


 ホシは勘づいた。この二人がやろうとしていることは、サナとルナを売り飛ばすつもりだ。


 「て・・・てめぇら。サナとルナに何かしたら許さねぇぞ・・・」


 「じゃあ払え。今日の仕事終わりまでは待っててやるからよ。なぁになぁに、今日は大物が来るんだろ?そいつらに金落としてもらえばいいじゃないか」


 「今日だけじゃ、十万は絶対に無理だ。いくら今日の客が貴族でも流石にそこまでいかないね」


 「いや、十万なんて簡単に行くだろ。今日はあの店は貸し切り、別の客は入ってこない。やり方次第じゃ、残りの借金まで一気に返済できるんじゃないか?」


 男はいやらしい笑みを浮かべた瞬間にホシは完全に理解した。


 「やり方次第って・・・まさか・・・うちを?」


 「そう、率直に言おうか。脱げ、それしか方法はないぜ?お前の体なら十分にいけるはずだ」


 「てめぇら!ふざけるのも大概に!!」


 ホシは男に殴りかかろうと胸ぐらを掴んだ。


 「殴ってみろよ。俺たちが怪我をしたらその慰謝料代、更に上乗せだぜ?そうしたらお前はずっと体を売り続ける事になる。しっかりと考えやがれ!」


 男はホシの頬を平手打ちして、床に転がした。ホシは男たちをひたすら睨んだ。


 ・


 ・


 ・

 

 ホシと二人の男のやり取りを、タマと忠也はドアに張り付くき聴いていた。


 「これじゃ、借金2倍になってるじゃないか・・・アマナって奴、どこの闇金業者を使ったんだよ」


 「よくわかんないけど、あの男の人たちの話聞いてたら、なんだかここのところがむずむずしてきた。何このかんじ」


 忠也は胸のあたりをぐりぐりしたり、トントンと叩いたりした。


 「タマお兄さん、おれ変なの?ぜんぜんなおんない・・・」


 「忠也、それは多分ムカついてるんだよ。怒りって感情」


 「ムカつく・・・そうだね、あの人たちなんだかムカつくー」


 タマは決心した。扉に手をかけた。


 「おいタマ、これ以上はよせ。これはあいつの問題だ。俺たちが下手に動けば余計に厄介な事になる。にしても、別の世界だってのに、結局金だ女だ、人間ってのは変わんねぇんだな」


 零は、今にも動き出そうとしていたタマを制止させた。


 「アニキ、ですがこれは明らかに巻き上げられてますよ。ホシさんに罪はないし、それを放っておけって言うんですか?」

 

 「タマ、お前は真っすぐ過ぎる。少しは考えて動け。だから、ドアを開けるな。分かったか」


 零は脅すようにタマに忠告した。しかし


 「アニキ・・・表裏一体ってよく言いますけど、俺はそうは思わないんです。常に裏が大きく表はほんの少ししかない。常に裏は表を蝕むんですよ。俺は表を蝕む裏の連中が許せない。だから自ら裏側に入った。ホシさんは今、裏の奴らに呑み込まれようとしている。

 アニキ、俺はアニキの事を尊敬してます。あこがれています。ですが、こればかりは譲れません!俺は俺の正義を貫きます!!」


 タマはドアを思い切り開けた。


 「タマの野郎、めんどくせぇ事を・・・仕方ねぇな」





 「おいてめぇら!話聞いてりゃ、勝手な事をぬかしやがってよ、舐めた真似してんじゃねぇぞコラァ!」


 「こらー!」


 結局、タマと忠也はホシの前に姿を出した。


 「あ?なんだてめぇ」


 「タマ・・・さん。ちょ、うちの事はいいって!」


 「そうはいきませんよ、話、聞いちまったんですから」


 タマは男二人を睨みつけた。


 「てめぇ、見ねぇ顔だな。どこのもんだ?」


 「言ってもきっと知らねぇよ。とりあえず、旅の者とでも言っておくか。今日ここの孤児院を借りている」


 「へぇ~、セイアン村へようこそ。旅の者なら分かんだろ。この件はホシと俺たちの話だ。他人が口出しすんじゃねぇよ」


 「そうはいかないね。さっきから話が丸聞こえだ。あんな会話聞かされてたからな、腹立って仕方ねぇんだよ。無駄にうるせぇしよ。もう少し声のトーンを落としやがれ」


 「ちょっと、二人ともやめなって」


 ホシが仲介に入ろうとするが、タマと男は睨み続けたままだ。どうしようもなかった。


 「そんで?声を大きさ下げりゃ気が済むのか?だったらそうしてやるよ。それとも・・・」


 「アマナさんが書いたっていう契約書、見せろ」


 男の話の途中でタマは用件だけを述べた。


 「は?こいつか。これで何するつもりだてめぇ。破ったりしても意味ねぇぞ?」


 「いや、少しの間だけ見せてくれねぇか?すぐに返す」


 「ふっ・・・そんなんでいいのか、いいぜ。貸すよ。返すのはホシの仕事終わりでも構わねぇしよ。ホシの運命はもう決まってるも同じだしな」


 タマは契約書を受け取った。男は勝ち誇った顔でタマを見た。


 「何するつもりか知らねぇが、お前のそのつら気に入った。あ、そうだ。今日のホシの舞台、お前も見るか?特別に入れてやれるぜ?俺はあそこの警備してるからなぁ」


 「冗談はそのふざけた顔だけにしな」


 「待ってるぜー」


 男たちはその場を立ち去った。


 「面白くなってきたな・・・」


 去り際、全く喋らなかったもう一人の男が呟き、扉を閉めた。



 

 「ホシさん。俺がなんとかします。この裏、絶対に暴きますんで」


 「タマさん、いいんだ。今日だけだ、ただ脱ぐぐらいなら、一日だけなら、耐えられるから・・・」


 ホシは若干諦めたような顔つきになっていた。


 「一日だけ?あり得ませんよ。ああいう奴らは、あなたを離さない。何かしら理由をつけて更に貪る気だ。ホシさん、今日やってしまったら、一生そこから抜け出せませんよ」


 ホシは肩を落とした。そして床を思い切り殴った。


 「クソ!!うちは、どうすれば!!」


 ホシは悩んだ。自分で全て背負うつもりだった。今までは順調だったはずだ。だが、ここで歯車が大きくずれた。ホシは選択を迫られている。サナとルナを犠牲にするのは論外だ。赤の他人の零たちを頼るのはしたくない。だったら、自分の体を使う。それで済むのなら、それでいい。そう考えた。


 「ホシおねーさん。女の人ってだれかの前で服を脱ぐのっていやなんだよね。おれのおかーさん、知らないおじさんの前でが服を脱がされてたけど、すごくいやそうにしてた。おれ、あんな顔は見たくないよ」


 ホシの隣に忠也が立った。


 「おれやだもん。ホシおねーさんにあんな顔してほしくない。おれ、がんばるよ。ホシおねーさんがあんな顔しないようにする。だからこうするね」


 忠也はホシの頭を撫でた。ぎこちない手つきで一生懸命に。


 「さっきこうしてもらったらさ、なんだか笑えるようななったの。これって不思議なおまじないだよねー」


 忠也の言葉にホシはしばらくキョトンして、その後大笑いを始めた。


 「アハハハ!!確かにね、おまじないだ。不思議な気分だよさっきまですごくムカついてたのにさ。今ので一気に吹っ飛んだ!元気が出たよ。ありがとうねチュウヤ君」


 「やっぱり、ホシおねーさんが笑ってくれると、おれもうれしくなるなー。初めて会ったばかりだけど、ホシおねーさんは笑顔が似合うとおれは思うなー」


 ホシは忠也をそっと抱きしめた。


 「ほんと、ありがとう・・・」


 忠也は首をかしげた。だが、すぐにニッコリと笑った。


 「必ず何とかして見せます。全部一人で背負い込まないで下さいよ。人間は支えあって生きてるんですから」


 「すまないね何度も、お言葉に甘えるよ。申し訳ないけど・・・頼む!」


 ホシは深く頭を下げた後、気を取り直して孤児院を出た。


 タマは零に叱られると思いながらも、応接室のドアを開けた。


 「タマ!」


 案の定叱られると思ったが、タマの手元に何かが投げ込まれた。


 「ルーペ?」


 「お前のやり口は分かってる、使いな」


 タマは顔を上げた。そしてある事に気が付いた。


 「あれ?ハチさんは?」


 部屋にはハチの姿はどこにも見当たらなかった。窓が一つ空いている。


 「アニキ、まさか・・・」


 「タマ、俺は考えて動けと言っただけだ。誰も動かねぇとは言ってねぇ。俺の目の前で金を巻き上げるとは、良い度胸してるぜ。元 警視庁捜査一課の腕前、みせてやりな。今こそが、動く時だぜ」


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