第1章裏 異世界の非常事態、勇者は何故戦うのか
「バケモノ共よ、今こそ全てを支配する時・・・さぁ、行こう、みんなの元へ」
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『ジリリリリリリリィッ!!』
非常ベルが鳴り響いた。どういう事だ?火災? 違う。
私は情報を探った。
「中央近郊に、バケモノの親?」
何が起きている?計画はアンドリューがここを襲撃し、そこで避難民のレイ君を襲いその時点で暗殺するか、出来なくても国外に追いやる予定だった。しかも計画の実行は明日、高速鉄道出発式後、白昼の中行うはずだった。
なのに、これは一体・・・
「レイ君たち!すぐに非難を、現れたのは親のほうだ!防衛部隊も出ているが、手も足も出ない状況だ!早く非難を!ビーン君も早く」
私はレイ君を呼びに走った、事態は予言がどうこう言っている場合じゃない。優先すべきはまずバケモノだ。
現れたバケモノは調印式の日にいた、超巨大な奴だ。あいつのせいでかなりの犠牲を払う事になった。まずはなんとしてでも食い止めなければ・・・
私はとりあえず全員を避難させることにした。だがビーン君は拒んだ。彼は一人でも行くと言った。
駄目だ、この状況であれに勝てるわけがない。
「陛下、俺は二度とあいつらから逃げるようなことはしたくないんですよ。あいつらのせいで、友を亡くしスチュワート隊長も現場に戻れなくなってしまった。俺のせいだからです。
だから今、国境警備隊となりあいつらを次々と殺している。そしていつか、ゼロもバケモノ共も全滅させると二十年前に誓ったんです。そしてバケモノのしかも親が出たってんなら、俺はむしろ行きたい。行きます。なんとしてでもあいつを殺します。レイ!陛下を連れて逃げろ。俺は行く!あいつを殺してくる!」
私は何故かビーン君を止める言葉が一言も思いつかなかった。止めようと思えば止められたはずだ。彼を失う損失はかなり大きい、大隊を失うに等しい程だ。
それでも私は彼を激励し、送り出すことにした。私は彼の目に希望を見てしまったのかもしれない。ビーン君の目は自信に満ち溢れていた。だからかもしれない、引き留める事は私の何かが許せなかった。
「分かった。魔弓部隊もすぐに向かわせる。今ここで一番実力のあるのは君だったね。国境警備部隊隊長、ビーン・ムゥ通称、『雷鳴の一撃』君の実力をあいつらに思い知らせてやれ!」
私は彼に敬礼し、送り出した。
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私はレイ君と共に避難した。そして街頭テレビのある高台に着いた。テレビにはあのバケモノと、豆程のサイズのビーン君が見える。
ここに避難したはいいが、この後はどうするのか・・・みんな疲れ果てている。向かわせた部隊もどこまで耐えられるか・・・
私は怪我をした人の治療をした。せめてそれくらいはしなければ・・・
「陛下・・・一体この国はどうなるんですか?」
「侵略者はなぜこんなことを?なんで平和を奪おうとするんだよ」
みんな怯え、苛立っている。どうしたらいいんだ。
「らん・・・らららら・・・」
かすかな歌声が聞こえてきた。誰だ?この状況で歌っているなんて・・・
周囲を見渡すと、歌っている人物が分かった。レイ君と一緒にいたダストと呼ばれる少女だ。アンドリューが危険と判断していた人物、彼女が歌っていた。
だけど、この歌声はなんだ?彼女はほとんど喋れないはずだ、だがこの透き通った歌声は私の心を抉り取られる気分になった。それと同時に妙な安らぎを感じた。
「この歌、なんだか気分が安らぐ・・・」
「落ち着くわね」
ダストはこの状況だから歌っていると言うのか?みんなを不安にさせない為に、みんなを救う為に・・・なんだ?この子の顔、いままで髪でいまいちよく見えていなかったが、誰かに似ている気がする・・・誰だ?
「陛下・・・バイクってまだあります?」
レイ君が突然私にバイクの場所を聞いてきた。
まさか・・・レイ君は、あのバケモノに立ち向かうつもりだ。その表情は先ほどのあたふたした表情とは打って変わって自信と好奇心がある笑顔になっていた。
彼の中で何かが変わった。彼は自ら戦おうとしている。予言通りに彼はこの世界を救う為に行動し始めている。
予言・・・もしかしたら、予言通りというのなら、レイ君は本当に倒せるのかもしれない。終わりをもたらすとかは今はどうでもいい。今はあいつから国民を守る事を先決しなければいけない。
私はレイ君に軍のバイクの鍵を渡した。
「笑顔の為に・・・」
レイ君は最後に私にそう言った。そしてダストを連れて戦場へと向かった。
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「笑顔・・・か」
送り出したのはいいが、疑問が一つ残った。何故彼は戦う事を決めたのか・・・
レイ君はさっきまではまるで普通の青年の様だった。むしろ戦いを嫌い、虫も殺せないような人物だ。だが突然変わった。何が彼を変えた?私には分からない・・・
街頭テレビを眺める、一台のバイクの影がバケモノの方へと向かっていくのが分かる。
「あんなの、どうやって倒す気なんだろう」
住民たちを再び不安が支配し始めた。
「彼を信じてみて下さい、私は彼を信じます」
私は心にも無いことを言った。いや、正直心の奥底ではそう思った。レイ君を信じてみたい。そう思ってしまった。私は彼を殺そうとしているのに、その彼を信じるなんて・・・
「そう、だね!あそこにはビーン隊長もいるんだ!信じよう」
私の言葉は国民を安心させることに成功した。これもレイ君のおかげだ・・・
尚更分からない・・・何故、急に戦う事を決めたんだ?
そしてレイ君は、あの巨大なバケモノを氷漬けにして倒した。
「たお・・・した?」
「やったあああああああああぁぁぁぁぁ!!」
周辺は一気に歓声が沸いた。
本当に倒した。氷漬けとはいえ、バケモノを倒したんだ。私はレイ君の元に向かうことにした。
あのバケモノをどうするか・・・あれはいったい何者か、研究する必要があるな、そうだ。あそこに研究所を建てよう。
「ちょっと通してくれ」
私はレイ君の元にたどり着いた。そしてその時だった私はこのバケモノをどうするかについて話していたが、レイ君は何かを考えるようなしぐさをした後に私にとんでもない事を提案してきた。
「陛下、提案があるんです。僕はこれからゼロを倒しに行きます」
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私は今西ボーダーにいる。レイ君はダスト、ビーン君と共にゼロ、かつてのアマナ君を倒しに行く。
まさに予言通りだ。ここまで来たらもう予言を信じるしかなくなる。これが最後のチャンスかもしれない。レイ君を倒すなら今しかない。彼が旅立った後に部隊を追わせる。彼がゼロを倒した後に殺す。殺すのはビーンもダストも含めだ・・・
私は、今何をしようとしているんだ?彼はこの国の為に自らを犠牲にしてでも立ち上がったはずなのに、私は殺そうとしている・・・私は、一体何をしているんだ。
私は平和の為に彼を殺そうとしている。当のレイ君は平和の為に戦っている。止めるべきだった?どれが一体正しかったのか、何を間違えているのか、私は分からなくなってしまった。
「よぉアレックス」
突然声をかけられた。
「スチュワート・・・元気そうだね」
私は普段通り接した。
「あぁ、今日は少々元気すぎちまってな、少し体を動かそうと思ってたとこだ・・・この野郎!!!」
突然スチュワートは私を全力で殴り飛ばした。
「ぐあっ!!」
「ちょと!スチュワート隊長何してるんですか!?」
「うるせぇ!!てめぇは黙ってろ!!!次文句言った奴はぶっ殺すぜ!?俺はそれ位ぇムカついてんだ!!」
「ひぃっっ!!!」
スチュワートは完全に切れている。周りの兵士たちに本気で殺気を向けている。そして私にもだ。
「い、いきなりどうしたんだよ!?スチュワート!」
「てめぇ、軍を使って何しようとしてた・・・ぁあ゛!?」
まさか、私の計画を?
「てめぇ、レイを殺そうとしてんだろオラ・・・そのバイクは隠密用だって?何故そんなものがある。てんめぇ、それ使って後を追う気だったんだろ」
「な、何故それを?」
「ちっ!!やっぱかちくしょうめ・・・アレックス、てめぇは自分で何をしたのか分かってんのか?人殺しだぞ?何の罪もない奴を、しかもこの国を救う奴をてめぇは殺そうとしているんだ。分かってんのか?」
「分かっているさスチュワート!!だが彼はただこの世界を救うんじゃないんだよ!!」
「世界を救い、そして終わらせるだろ!?知ってんだよその程度はな!!だからこそ俺ぁあいつに全部賭けれると信じてんだ!!」
知っていた?スチュワートは、この世界を終わらせてもいいと言っているのか?
「分かってるのか?それはつまりこの世界は終わってしまうんだよ!?それでもいいのか!!」
「あぁ構わないね!!アマナがゼロとなって以降この世界は腐りきった。全員不幸な運命を辿っている。そんな気しかしねぇ。そんな世界俺ぁ守りたかぁねぇ!お前にはもう分かんないのか?この世界は既に終わってるって事に、その終わった世界をお前は守ろうとしてる!
俺はレイを信じている。あいつはこの終わった世界を終わらせる。その為に俺は命を賭ける」
スチュワートは私の前に鍵をかざした。軍用車両の鍵だ。まさか、レイ君の後を追うと言うのか?
「俺は命に変えてもレイを助ける」
「何故だ!どうしてそこまで信じることが出来る!彼を救っても、全てを守れる保証は無いんだよ!?」
「だからてめぇは終わってんだアレックス、俺ぁな自分の手で救えるのは世界だなんて阿呆な事思っちゃいねぇよ。俺が救えるのはせいぜい一人だ。俺はその程度の人間なんだよ。だがてめぇはその守るべき一人すら奪おうとしてる。だから俺はてめぇに刃を向けるんだ」
スチュワートは私に剣を突き付けた。
「ちょ!!スチュワート隊長!!いったい何をしてるんですか!?」
「国家反逆だ、見て分かんねぇか?」
「スチュワート・・・お前は一体何を守りたいんだ。守るべき者とは何なんだ!?」
「はぁ・・・てめぇはまだ自分の罪に気が付いてねぇのか?ま、出会っても気が付かない時点で駄目か、なぁ貴様、ボーダーの嫌われ者、ダストは知ってるか?」
ダスト、レイ君と一緒にいたイツ族の子。彼女はあまりにも強力な氷の魔法のせいで忌み嫌われていた。
「うん、知ってるよ。レイ君と一緒にいた子でしょ?確かにとてつもない氷の魔法を使っていたけど・・・あの子がどうかしたと言うのか?」
「あの子が何故喋れなくなったのか、それは自らの手で親を殺してしまったからだ。アレックス、俺たちは何がなんでもあの子を守らなきゃいけねぇんだよ」
「どういう事だ?」
「あの子の親は、マリリン ゾロアスとルーアン・イツ!!だって言う事だよ!!」
私は静止した。そしてすべてが納得できた。そして自責の念が一気に私にのしかかって来た。
「アレックス分かるか?貴様がやったことを、自分がいかに周りを見なくなっていたという事を!!貴様はルーアンの子を手にかけようとしてたんだよ!!!」
まさか・・・あの子が?
「貴様はもう!人間を人間と見ちゃいねぇんだ!!ただ動いてる物体だ!貴様にとってはレイもレイチェルも!俺もビーンも!!エリザベートもエルメスも!!貴様にとっては只の駒!!俺ぁな、成長する奴の味方だ!成長し、学ぶ奴に俺は仕える!!何も学ばない成長しない奴ってのはな人間を名乗る資格はねぇよ、バケモノ以下だ!」
スチュワートの言葉が私に突き刺さって来る。
「いや、貴様はむしろ化け物だな。貴様のせいでどれだけの人間が傷ついた?そして貴様は傷つけていた事すら知らない。何かしら理由をつけて自分の行動を正当化させる、この世で最も底辺の生物だ。
じゃあな、国王陛下様。俺はこれからレイたちの応援に向かう、とりあえず寄せ集めだが使える奴は集めておいた。行くぜ」
気が付くと周りは私を蔑んだ目で私を見ている。初めての気分だ。私はこの民衆の為に働いた。だが、帰って来た答えはこの視線。全部、間違っていた・・・そうか、私は全て間違っていたのか。何故こうなるまで気が付かなかったんだ。簡単な事なのに、なぜ気が付かなかったんだ。
全員、ただ平和を望んでいるだけじゃないか。私はそれを奪った。凄い単純だ。だからこそみんな私をそんな目で見るのか・・・
私がやるべき事は、世界を守るんじゃない、世界を平和へと導く事。その為には今ある世界では駄目なんだ。全員の平和の為には、全てが壊れないと・・・
「待ってくれ!!スチュワート!!」
「あ?」
「中央での倒し方だ!!」
「は?」
「バケモノを凍らせる!!」
私がやるべき事、それはゼロを倒す為のサポートだ!予言のもたらす『終わり』の意味はまだ分からない。だけど、レイ君はこの世界の為に命を賭けた。あの目に嘘は無い。だったら私ももう嘘はつかない!命を賭けて平和の為に闘う!
私だけだ、中央での戦いを直で見ていたのは、あの戦い方を参考にすれば、バケモノを倒せる。私はもう直接戦う事は出来ないだろう。しかし私はあくまでも王だ。みんなを纏める事位出来なくてはいけない。
「ふっ、少しはマシな面になったか?寝坊助が・・・」
「あぁ、ちょっと寝過ごしたかな?ようやく目が覚めたよ。私も闘う。スチュワート、これを持って行きなさい」
私はあるものをスチュワートに渡した。これが私の出来る戦いだ。
今こそ平和を取り戻す時、さぁ、行こう。彼らの元へ!
第零章 完




