第1章裏 異世界の英雄、自責の憎悪
『ブルルルルウウゥン!!』
バイクの音が鳴り響く。一人の西洋甲冑姿の男がそれにまたがり発進しようとしていた。
「んじゃ、またちょっくら行ってくるわ」
「最近行き過ぎじゃないですか?隊長、体壊しますよー?」
「何言ってんだ、こんなのラジオ体操みたいなもんだろ。むしろ行かねぇと健康に悪い」
「ついこの間ようやくバケモノの親の一体を倒したばかりじゃないですか。それで隊長、その頬に傷を負って・・・それ以来余計に外に行くようになって気がしますよ」
甲冑の男は左頬の傷を撫でた。
「・・・確かに、あの襲撃は多くの犠牲を出しちまった。あのバケモノは今まで見たことがなかったし、しかもこの中で現れた。あいつがどうやって侵入したかは知らねぇけどよ、だったら尚更早ぇとこ奴らをぶちのめさなきゃいけねぇだろ?それに、いいストレス発散になるんだ。散歩がてらストレス発散、丁度いいぜ?」
「ただでさえ子のバケモノでも我々は苦戦するのにそれをラジオ体操と一緒に出来るのはあなたぐらいですよビーン隊長。でも、あんまり無理はしないで下さいねー」
「おうよ、お前も体調管理に気を付けなー。じゃ、行くぜお前ら」
甲冑の男は国境の壁の門を通り部下を連れて外へと出た。
「さぁて・・・さっそくいやがったな」
ビーンがバイクを走らせてからしばらくたち、遠くにバケモノの影を見つけた。
「おいお前ら、気ぃ引き締めてけよ。とは言っても全部俺がぶっ倒すかもしれねぇけどな、はっはっは!」
「アイサー!」
ビーンは部下に指示を出しバイクを加速させた。
「行くぜオルゥアッ!!」
ビーンは破流血斬と呼んでいる槍を片手にバイクを乗りこなしながら次々とバケモノ共をなぎ倒していった。
「ひぇ~、隊長なんて動きしてんだよ。バイクそのものも武器みたいだ」
「そう言えばお前はビーン隊長と一緒に出るのは初めてだったな、あの人は別格だよ。あの人と一緒に出ると俺たちは基本眺めるしか出来なくなるんだよな。全部隊長が一人でやっちまう。ってほら、俺たちがこうやって喋ってるうちにさ・・・」
既にそこはバケモノの死体の山が出来上がっていた。
「ふぃ~、いっちょ上がりっと」
ビーンはバイクを降りるとその場で寝ころんだ。
「ちょ!?隊長!?何してんすか!?」
「んあ?うーん・・・朝早かったから、二度寝的な?」
「二度寝って、ここ敵陣のど真ん中みたいなものですけど・・・」
「いいのいいのだいじょーぶ。俺強いからさ、とりあえず今日はここらで切り上げるか。先帰ってていいぜ。俺はもう少しここにいるからよ」
「は・・・はぁ」
部下の一人は目をまん丸にしていた。
「先帰るか、ビーン隊長はいつもああなんだ。その後襲われても返り討ちにして普通にケロッと元気に帰って来る。心配するな」
部下たちは先に撤収した。ビーンは青い空を見上げてボーっとしていた。
「はぁ・・・つまんねぇな」
ビーンはむくっと起き上がった。
「全くムカつくぜ、俺が何も出来なかったばかりに・・・」
ビーンの周りを囲むようにバケモノが牙を出し構えていた。
「死ねよ・・・このバケモノ共」
ビーンは先ほどとは打って変わって憎しみを前面に出した表情になった。ビーンはそのまま起き上がると同時に一気にバケモノをなぎ倒した。
「イラつくんだよ。どいつもこいつも、バケモノにも、アマナにも、アダムスにも・・・この現状の何が平和だ。守ってばかりじゃいつか俺たちの国は終わっちまう。何十年とアマナが動いてないとはいえ、奴はもっと強くなってる・・・このままじゃ・・・俺は、あいつを・・・」
ビーンは強く拳を握った。
『ドグオオオオオン!!』
遠くから大砲の様な轟音が鳴り響いた。
「なんだ今の音、あっちの草原からだ」
ビーンは音のした方へとバイクを走らせた。
「んあ!?」
ビーンはその光景を見て口をポカンと開けた。
「おいおい!なんでこんなとこに一般人が!?それに血まみれだぜあいつ!!」
そこにはあのバケモノと、血まみれでよたよたと走る一人の青年がいた。青年はバケモノに足を掴まれ倒れてしまった。ビーンはバイクを加速させた。
「伏せろ!!」
ビーンは槍でバケモノを吹っ飛ばした。
「だいじょぶか?」
「は・・・はいっ!」
青年は答えた。見た目より大丈夫そうだ。
『グゥガァァァ』
まだバケモノは生きていた。
「ちっ、仕留め損ねたか。だけど終わりだぜ、バケモノ」
ビーンはあっという間にバケモノを木に串刺しにした。
ビーンは青年に質問した。すると不思議な事に青年はここがどこかすら分かっていなかった。ビーンは青年に最も簡単な質問をした。
「おめぇ名前は?どこのどいつだ?」
だがその質問はビーンの予想をはるかに上回る回答が返って来るのだった。
「ぼ、僕の名前は・・・三上 礼です」




