二大国統合調印式編 その9 復讐(ミナゴロシ)
俺は振り返った。そこにはフードを深くかぶり蛇の様な仮面を着けた青年が、モーニングスターを手に持ち、俺たちの前に立っていた。
「お前は、ラックスと呼ばれていた」
『・・・その女、死んだのか』
聞き取りにくい声で、俺に話しかけた。
「てめぇは、誰だ?」
『顔を隠した奴が、教えると思うか?』
「たすけて・・・くれたの?」
コマチが質問をぶつける。恐らくあの攻撃を見て、そう錯覚したのだろう・・・少しでも奇跡を信じたい。その気持ちは分かる、だがこいつは、今もあの冷たい殺気が俺に突き刺さっている。こいつは、この村を殲滅する気だ。
『残念だが・・・ここで生き残るのは、一人だけだ』
その言葉と同時に巨大な影が俺の後ろから飛び掛かった。忠也!!
『ウオワアアアアアアッッ!!』
『まだ自我を保っているとはな・・・だが』
『ギャウン!!』
「忠也ァッ!!
ラックスはすさまじい電撃を忠也にぶつけた。忠也がしばらく固まり、その場に倒れこんだ。そして、ラックスはコマチを睨んだのを感じた。
俺はとっさにコマチを突き飛ばした。すると俺の目の前をまた電撃を纏ったモーニングスターが突き抜けた。
「・・・てめぇの目的はなんだ?何故、あの兵隊どもを殺した」
俺の質問にラックスはしばらく黙った。
『・・・零、お前を絶望に落とすためだ』
その言葉を放った瞬間、俺の目の前から消えた。
「うわうわうわ!!」
「なにするの!なにするの!」
そして振り返った時、ラックスはサナとルナを掴んでいた。
「っく!!貴様!!」
ハチがとっさに反応してラックスに向かって行ったが、電撃がハチを襲い。ハチはその場に倒れた。
『零、お前は誰も守れない・・・』
ラックスはサナとルナを手に持ち俺の前に立った。
「うわあああああ!!」
『っ?』
突然、ラックスが口から血が流れている。見ると、心臓から包丁の先端が突き出ていた。
「サナちゃんとルナちゃんを離して!!!」
コマチだ。後ろから落ちていた包丁で突き刺した。ラックスはサナとルナを落とした。今だ!!
俺はドスを手に持ち切りかかった。だがラックスは電撃を纏ったモーニングスターを俺に飛ばした。
「ぬぅああ!!」
俺の体はかなり吹き飛び、ドスを地面に落とした。衝撃は人間のレベルをはるかに超えている・・・
「わたしは、みんなを守る!!ここのみんなわたしの大切な・・・大切な家族なんですから!!」
コマチは包丁を引き抜いた。
『!?』
「おりゃああああ!!」
「てりゃああああ!!」
そして追い打ちをかけるようにサナとルナが俺のドスを拾い、ラックスに突き立てた。
『・・・・・・いいな』
だが、その攻撃は全くと言って通用してはいなかった。ラックスはサナとルナを俺と同じように吹き飛ばした。
『久しぶりに、あいつの目をみた・・・お前たち、強いな』
ラックスはコマチの前に立ちふさがった。
「っ!?逃げろ!!コマチ!!」
俺は叫んだ。だが、遅かった。瞬間でラックスの拳はコマチの心臓を貫いた。
「ぐっ!!ぅう!!」
『まずは、一人・・・次は、お前たちだ』
俺の体は、言う事を聞かない・・・動け、ホシとの約束だろうが。絶対に守るって、決めたじゃねぇか!!
「っふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ!いか せない!!」
「はぁ・・・はぁ・・・っ!やらせない!!」
サナとルナが、俺の前に背を向けて立った。
「サナ!ルナ!やめろ!!止めるんだ!!!」
『成程・・・次は、お前たちか』
ラックスがゆっくりとサナとルナに向かって歩いた。
「サナは、レイをまもる」
「ルナも、そのためにたたかう」
「サナ!!ルナ!!ホシとの約束を忘れたのか!!!」
「わすれてない!!でもたたかう!!」
「ぜったいにかたなきゃいけないんだ!!」
「みんなで、いっしょにかえるんだ!!」
「みんながいるばしょに!!」
「そこでまたわらうんだ!!」
「そこでまたあそぶんだ!!」
サナとルナは、ラックスに立ち向かっていった。俺は、何も出来なかった。体が、言う事を聞かない・・・やめろ・・・やめろ。
『惜しいな・・・こんなにいい目をした奴を、殺す事になるとはな』
「やめろ・・・やめやがれぇっ!!」
俺は、体の限界を超え立ち上がり、ラックスに襲い掛かった。だが、遅かった。
「ぐぅあ!!っくぅあああ!!」
俺が瞬きした時、その時既にサナとルナは力なく地面に落ちて行った。それを認識できた時には、奴の拳が俺の腹部を貫いた。
『次は・・・いや、もういいのか』
ラックスは突然戦闘態勢を止め、俺を地面に落とした。
「何故・・・俺だけ致命傷をさけた!!」
『言ったはずだ。零、俺はお前を絶望に落としに来たと、そしてここで生き残るのは一人だけだと』
「何を・・・言って !?」
俺は、後ろを振り返った。何故、ラックスが攻撃を止めたのか、理解できた。
「ハ・・・チ?」
そこには、体のほとんどが巨大化し大きなしっぽに、鋭い牙を持った怪物がいた。
『モ・・・モウシ、ワケ アリ マセン。 オレモ ダメ ミタイ デス』
『生き残ったのは零、お前一人だ。任務・・・終了』
ラックスはその場から立ち去ろうとした。俺もしばらくは茫然と眺める事しか出来なかった。だが
「まち・・・やがれ!!」
怒りの感情だけで、俺は奴の足を掴んだ。
『・・・怒りに満ちたいい目だ。だが、まだ駄目だ。覚醒にはまだ・・・零、俺からのせめてもの情けだ。よく聞け』
ラックスはしゃがみこみ、俺に伝えた。
『調印式に向かう連中の中に真の首謀者がいる。俺が教えれるのはこれ位だ。お前は・・・この結末を受けてどう行動する?』
その言葉を最後にラックスは電光と共に消えた。
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「っつ・・・ん゛ん゛ああああああああ!!!!うおおおおああああああああっっっ!!」
俺はただ、叫んだ。そして叫び声と共に、俺の背負っていた、刻んでいた全てが俺の中から消えた。
不動明王の意志も、櫻への覚悟も、全てが俺から消えた。
なにもかも無くなったんだ。
全部、俺の中から消えた時、冷静な感情が俺の中に芽生えた。
俺は、地面に手を付けてうつむいた。
「っふふふ・・・はははは・・・」
そして笑いが込み上げた。
「分かったよ。最初から、こうすれば・・・こんな事にはならなかったんじゃないか。最初からこの世界を支配すれば・・・決めたよ。俺は・・・私は、世界を支配し、この力で奴らの様な存在を、消し去る」
俺は立ちあがった、傷口はもうない。治し方が分かる。世界が全てを教えてくれている。
「待っていてくれみんな・・・俺は行く」
俺は、真っ直ぐ歩き始めた。
「このままじゃ追いつかないな・・・ハチ、先に行っててくれるか?チュウちゃん、お前なら私を乗せることが出来る。頼めるか?」
『グゥオオオオオ!』
ハチは、数十メートルはありそうな二足歩行の爬虫類の形をした化け物へと姿を完全に変えた。
『グルルルルゥ・・・』
忠也は起き上がった。犬の様なその背中に私をひょいと乗せた。さて・・・あとは。
「タマ、いつまで寝ているんだ?そろそろ行くぞ。お前は私と一緒に向かうぞ」
タマは、巨大な角の生えた四足の大鹿がムクムクと起き上がり忠也と並んだ。
「ここを襲った連中、奴らはこの調印式で逆に世界を乗っ取る気でいた・・・だが、それはもう無意味だ。世界は私たちが支配する。
ハチ、タマ、チュウちゃん。君たちの仕事はただ一つだ。皆殺しにしてやれ」




