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二大国統合調印式編 その7 犠牲(ミンナノタメニ)

 ファルコの胸に深くナイフが突き刺さっている。


 「おい、ファルコ村長!おい!!」


 俺はファルコに呼びかけ、体を揺さぶった。


 「あ・・・アマナ君か 済まない」


 「あまり喋るんじゃねぇ、あんたが死んだらこの村はどうすんだ。コマチも、そうだ、俺の魔法なら!」


 俺は回復の魔法をファルコに使う。だがファルコは俺の手を止めた。


 「駄目だ、もう手遅れだよ・・・それよりも、娘を頼む・・・そして、村のみんなも。この一人の命と、村のみんなの命、天秤にかけられない様な人ではないだろ君は・・・」

 

 「・・・村長、分かった」


 俺は息絶えたファルコを置き、立ちあがった。そして呆然と立ち尽くすトキを見る。


 「てめぇは自分が何をしたのか、十分理解してるみてぇだなトキ」


 「はい・・・わたくしは、あの方の為に間違いを犯している。だが、わたくしにはこれしか選べなかった。アマナさん、あなたは大切なものを守る為なら、どこまで堕ちることが出来ますか?わたくしは弱い、これ以上は堕ちたくない!」


 トキは突然地面に落ちたガラスを掴み自分の心臓に突き立てた。


 「おい!!」


 俺は止めようと思ったが遅かった。俺が駆けつける前にトキは息絶えた。


 何故こんなことをしたのか、理由は分からねぇが、こいつも被害者だって事は分かった。決めた、この元凶、絶対に許さん。


 ・

 

 ・


 俺は決意を抱き外に出た。だがそこには俺が知っている村が無かった。家屋は燃え、人々が逃げまどい、それをアダムスとエイド、2つの甲冑を着た兵隊が、次々と村人を殺している姿があった。


 「っつ・・・!」


 俺は兵隊に向かって走った。そして一人の頭を掴み、そこに炎の魔法を放った。


 「ぐっうわああああああ!!」


 「なんだ!?」


 俺は頭を燃やした兵隊を掴み歩いた。


 「こいつは確か・・・やれ!こいつは最重要の危険人物だ!」


 兵隊はまとまって俺に向かってきた。俺は掴んだ兵士を武器にして、奴らをぶっ飛ばした。


 「殺してやるから、そこを動くんじゃねぇぞ」


 「ひ、怯むな!!あの方の為に何としてでもこの男を殺すんだ!!」

 

 一体何故こいつらはそのあの方の為にここまでして戦うのか・・・シャロウ、本当にてめぇにそれほどのカリスマがあるってのか?


 いや、そうじゃねぇ。俺はシャロウの事を少し考えた。あいつの行動、俺たちに事件を押し付けて、あいつは別に動いていた?まさかあいつ・・・


 俺は一つの確信が出来た。そして気持ちを元に戻し、兵隊共を蹴散らした。


 そして俺はホシの元へと走ろうとした。


 「おっと、ここにも一人残ってたか」


 数十人の兵隊が俺を囲んだ。


 「邪魔だどけ、死にてぇのか?」


 今はこいつらの相手をしてる暇はねぇ。こいつら、村の連中を外に出さない為に村を囲むように配置されていたな。だとしたらホシはまだ家に・・・


 「それは出来んな。この村を全滅させろとの命令を受けているんでね。子供も女も全員だ」

 

 「そうか。だったら死ね」


 兵隊は何か言おうとしたみてぇだが、知ったことか。俺は次々に兵隊共を殺した。中には命乞いする奴もいた。だが俺は問答無用で殺す。こいつらがやったことは殺されても仕方がない事だ。


 「うおおおおらあぁぁ!!」


 俺は戦い続けた。兵隊を斬り、骨をへし折った。


 数が、多すぎる・・・早く行かねぇと、ホシ!!


 ・


 ・


 ・


 ・

 

 ・


 「タマ!外はどうなっている!!」


 「あいつ等!!あちこちの家に火をつけてやがる!!クソッタレ!一難去ってまた一難かよ!!」


 ハチとタマは外の様子を家の中からこっそりと眺めている。うちはサナとルナ、チュウちゃんを連れて地下倉庫に隠れていた。


 「チュウちゃん大丈夫?」


 「うん平気だよ」


 そうは言ってるけど、汗が凄い。この間のアレと同じ・・・ここままじゃマズイ。どうにかしないと、チュウちゃんがうち等を殺してしまうかもしれない・・・そうだ!!


 「サナ、ルナ。この間の魔法、チュウちゃんに使ってくれる?」


 もしかしたら何とかなるかもしれない。イチかバチか!


 「わかった!わかった!わかった!」

 「やる!やる!」


 サナとルナは一緒の手をつなぎチュウちゃんの手を握った。そして二人は目を瞑って集中した。ほんのりと輝き始める。するとチュウちゃんの上がった息が徐々に落ち着いてきた、よっしゃこれならいける!


 「ありがとう、サナちゃん、ルナちゃん・・・」


 「いいのいいのいいの」

 「ルナはたすけたいもん、チュウちゃんたすけるもん」


 チュウちゃんはそのまま気を失った。やっぱり、相当体に負担をかけてたみたいだ。


 うちはゆっくりとチュウちゃんを抱きかかえた。


 「レイ・・・無事だよな」


 うちは暗い地下でレイの事を思い浮かべていた。


 「くっそ、ホシさん!」


 タマが降りてきた。そろそろまずいのか?


 「奴ら乗り込んでくる気だ!アニキはまだ来てないけど、一旦外に出ましょう!!その裏口は普段使ってない!まだバレていないはず!!」


 「分かった!チュウちゃん頼んだよ!うちはサナとルナを!」


 うちは地下の裏口から外に出た、やはりここは誰もいないな。


 全員出てハチが扉を閉めた。


 「あ、そうだ!」


 うちは扉の周囲を炎の魔法で焼き始めた。


 「何してるんです?ホシさん」


 「簡単な溶接。扉のふちの金属を溶かして壁とくっつけちまえば少しは時間を稼げると思って」


 「成程、切羽詰まってそこまで考えられませんでした」


 ハチがうちをほめた。地味にうれしい。けど今はそんな事やってる場合じゃない。


 「何とかしてこの村から出ないと」


 「そうだけど、他のみんなは大丈夫かな」


 「分からない、心配だがホシさん。今はここを出ることを考えた方が良い。あなたにとっては苦しい決断になるでしょうが・・・」


 ハチの言う事はもっともだ・・・今うちが無茶したらサナとルナまで危険に晒してしまう・・・くっそ、うちは、なんて無力なんだよ。みんなを置いて逃げる事しか出来ないなんて!


 「ホシちゃん!!」


 突然後ろから声をかけられた。うちが振り返るとそこには服はボロボロになり、あちこちから血を流しているコマチがいた。


 「コマチちゃん!大丈夫なの!?」

 

 「なんとか、ここまで逃げてきたのですわ・・・」


 「コマチさん、ファルコ村長は無事か?」


 ハチがコマチに質問した。そうだ。


 「アマナも確か役場に行っていた。どうなってるのか知ってる?」


 「私が駆けつけた時にはお父さんはもう、アマナさんが役場で立ち尽くしてた私を助けてくれたんです。その後アマナさんは孤児院に戻ろうとしたのですけど、囲まれてしまって・・・私はこっそりと逃げて、何も言ってなかったですけど、アマナさんは私の為に逃げ道を作ってくれてたんです。あの人、みんなを助けようとしてるんです」


 「って事はアニキはまだ戦ってるって事か?」


 「そうなのです。でもあの人数はアマナさんでも・・・」


 うちは後ろに更に別の気配を感じた。あいつ等が来た。


 「コマチさん、今は逃げましょう!」


 うち等は走って逃げた。だが、正面からもあいつ等は来た。


 「おっと、こんなとこにもいやがったか・・・」


 「囲まれたなぁ。逃げられねぇぜ?」


 戦うしかないか、うちだって炎の魔法が使えて、身体能力も上がっているんだ。


 「でも惜しいねぇ、この女ども結構な上玉だぜ?」


 「なぁに、一発ヤッてから殺しゃいいだろ。そうだ、どうせ殺すんならそのガキ二人使ってみるのもどうだ?幼稚園児をヤるなんて滅多にないぜ?」


 「面白そうだなそれ!んじゃまずは、このガラの悪い男二人だな」


 こいつら・・・人間はこういった状況になると精神のタガってのが無くなるのか?いや、こんな奴人間じゃない!!


 「ホシさん、下がってください・・・」


 タマが落ち着いた声でうちを止めた。


 「貴様ら、何をしようとしてるのか分かってんのか?ぁあ゛?女に手を出して、子どもにも手を出して、そして最後には殺すだと?貴様らそれでも人間か?」


 うちは初めて見た。こんなに殺気立ったタマは見た事がない。


 「俺は貴様らが人間に見えねぇ。この化け物共、俺に見せてみな。貴様らからは、どんな色の血がでるのかをなぁ!!」


 タマが兵士に怒りを胸に立ち向かおうとしたその瞬間だった。巨大な影がうちの前を横切った。


 「ぐぅうわああっ!!」


 突然兵士から血が噴き出し倒れた。その光景にうちはおろか、ハチも立ち止まり、タマもその場に立ち尽くしていた。

 

 『グルルゥ・・・』


 「なんなの?コレ・・・」


 コマチが怯えた様子でコレを見つめている。


 目の前に現れたこの怪物・・・コレは、まさか。


 「忠・・・也、なのか?」


 ハチが小声で呼んだ。そしてうちはあたりを見た。さっきまでいたはずのチュウちゃんがいない。


 『オレ・・・ガ、マモ ル』


 辛うじて声が聞きとれた。


 「な!なんだこの化け物は!!」


 『グゥオオオオアアアアア!!!』


 チュウちゃんだったコレは、雄叫びを上げて兵士に襲い掛かった。敵を鋭い爪で引き裂き、殴り飛ばして殺していった。


 「これが・・・本当にチュウちゃん、なの?」


 うちは目の前に起きていることが信じられない。そしてうちはチュウちゃんと目が合った。


 「なんて・・・悲しい目をしてるの?」


 その目には、殺意などまるでない。怯え、恐怖心しかない。とても人を殺す者の目じゃない。駄目・・・これ以上戦っちゃ。


 『マモ ルン  ダ!!アアアアア!!』


 「っつ・・・!!忠也!!やめろ!!やめてくれ!!」

 

 タマがチュウちゃんを止めようと押さえようとしたけど、それを振りほどきタマを吹き飛ばした。タマの体は木にぶつかり、その木がへし折れた。


 「見境なく攻撃を始めてしまっている!このままじゃ!!」


 ハチがチュウちゃんの前に立ちふさがった。


 「忠也、もういい。止めるんだ。お前が人を殺す罪を背負う必要はない!だから、もう止めるんだ!!」


 『ぐ・・・ぐぅう   ウオワアアア!!!』


 少しだけ、チュウちゃんは頭を押さえていた。だけど、ハチの言葉は虚しくチュウちゃんはハチにまで襲い掛かってしまった。


 「くそ・・・致し方ない!!許せ、チュウちゃん!!!」


 ハチは戦う姿勢をとった。


 「ハチ!!まさかチュウちゃんを!?」


 「駄目です!!チュウちゃんはあなたにとっても家族でしょ!?」


 うちとコマチはハチのやろうとしている事を何とか止めようとした。


 「こうするしか・・・ないんだ」


 この戦い、絶対にやめさせないと!そうだ!!


 「サナ!ルナ!もう一度魔法を!!」


 「さっきからやってるの!!でもきかないの!!」

 「これいじょうはだめなの!!とどかないの!!」


 もう、この二人の魔法でも駄目なのか・・・どうしたらいいんだ!!これしか方法が無いって言うの!?


 「行くぞ・・・チュウちゃん」


 駄目・・・チュウちゃんとハチは同時に駆け出した。


 止めなくちゃ・・・ハチはあのケンジュウと呼ばれる武器を取り出した。


 止めるんだ・・・チュウちゃんは大きな爪を振りかざした。


 うちは、知らない間に体が動いていた。そして、二人の間にうちの体があった。


 だが、それをやったのはうちだけじゃなかった。タマも同時に飛び出していた。


 「な!?」


 うちとタマはチュウちゃんの攻撃を二人で受け止めていた。うちら二人から血が噴き出し、チュウちゃんの体にかかる。痛みはなんか感じない。この瞬間にチュウちゃんの動きが止まった。


 



 




 ごめんね・・・みんな・・・


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