第3話 異世界との文化交流
「・・・まさか、ここは違う世界とでもいうのですか?」
「この人の意見を聞く限りじゃそうとしか考えられねぇ。エイドなんて国は聞いたことがねぇからな。そうだった、なぁあんた・・・」
零は女性を見た。そして先ほど自分のやった行為を少し後悔した。女性は魂が抜けかけた顔をしていた。
「アニキ、流石にさっきのはショッキングですよ。この子たちはそうでもないみたいですけど」
「おーい、おーい、おーい」
「おきろー!おきろー!」
双子が女性の顔をつねったりして必死に起こそうとしていた。しばらくしてようやく我に返ったようだ。
「あ、あんた、害獣をあんな短剣一本で倒しちまうなんて・・・・・・ってそんな感想言ってる場合じゃないか、この人たちがさっき言ってたあんたの仲間なのかい?」
「あぁ。そうだ、そういえば自己紹介してなかったな。俺は神崎 零だ。こいつが八屋 大五郎。そしてこいつが珠代 辰之助だ。そんで・・・」
「おれ、狐坂 忠也だよー。きみがおねーさんって人なの?おれはじめて見るなー」
忠也の怪我はもう完全に大丈夫なようだ。零の言葉を遮り興味津々な顔で女性を見渡していた。
「あ、あぁどうも・・・じゃなくて、ウチらの自己紹介もしてなかったな。うちの名前はホシだ。それでこの双子はサナとルナだ」
「よろしく!よろしく!よろしく!」
「はじめまして!はじめまして!」
ホシと零は互いに握手をした。
サナとルナは忠也をのぞき込み、忠也もサナとルナを不思議そうに見ていた。
『あそぼ!!』
二人は声をそろえた。
「遊ぼー」
忠也はにっこり返事した。3人は、先ほどの出来事が嘘の様に河原で一緒に遊び始めた。
ホシと零は話を戻すことにした。
「ホシさん・・・か、苗字はねぇのか?」
「苗字?貴族じゃないうちらみたいな奴には無いよそんなの。格式ある一族にのみ与えられるのが苗字だ。そんな事も知らないのか?だけど、あんたらの・・・その変わった名前・・・信用するしかないのかねぇ」
「あぁ、俺たちからしたら逆に苗字を持ってねぇなんてのはあり得ねぇ。やはり、ここは俺たちのいた世界とは違うって事になるな・・・」
零は少しずつ状況を整理し始めた。しかし、何故この状況になったのかは分からないままだった。
「ところで、さっき言ってたアマナってのは誰なんだ?すげぇ怒ってたみてぇだが」
「アマナね。アマナは孤児院をやっててね、うちもそこで働いてたのさ。だけどある日うちとサナとルナを残して突然行方をくらましたんだ。
その次の日からだ。いきなり借りた一千万を返せって変な奴らが来るようになった。アマナの奴、そいつらに借金してたんだってさ。今まで金を借りないのがモットーって言ってたんだけどね・・・」
「だからさっき思いっきりひっぱたいてたのか・・・」
「あぁ、あれは本当に済まなかったよ」
今の話でいきなりぶたれた理由が大方分かった。いつの間にかタマが、忠也たちに引っ張られるように一緒に河原で遊び始めていた。
「うわっ!つめたいよ!!」
「ずぶぬれ!ずぶぬれ!ずぶぬれ!」
「びちゃびちゃ!びちゃびちゃ!」
零とホシは遊んでる様子を横目に見ながら会話を続けた。
「孤児院って事は、あいつ等、親がいないのか・・・それに借金か、中々大変みてぇだな」
「まぁね。だけど何とかあの二人とも楽しくやってる。
あ、そうだ。あんたら、今日泊まる場所ないんじゃないか?さっきぶったお詫びと、さっき助けてくれた礼だ。うちの孤児院に泊まっていきなよ。うちの村、宿がないからね」
この提案は零たちにとっては願ってもない申し出だ。いつもならすぐに断り、車中泊を選択するのだが、今車は全く動かない。それに忠也もいる。零は少し考えた。
「兄貴、ここはお言葉に甘えたほうがいいのではないでしょうか、ここの場所についても何か分かるかもしれません」
「そうだな。済まないが頼む。手間は取らせない」
「いいさ、ほんの礼だ。うちにはこれ位しか出来なさそうだしな。サナ!ルナ!・・・ってん?」
話が終わり、ホシが双子を呼ぼうとしたときだった。
「うわっ!」
「なんだ?」
急に零たちの上から水滴が降って来た。雨じゃない。零が河原の方を見ると巨大な水の柱が立ち昇っていた。水滴の正体はこれだった。そしてその水柱を出しているのはタマだった。
「おい、何やっているんだタマ。兄貴たちの方まで水が飛んできてるんだが?というか、どうやってるんだそれ」
ハチの呼びかけでタマは水柱を落とした。下にいたサナとルナ、忠也、当の本人のタマが全身に水を浴びた。
「すごい!すごい!すごい!」
「もっかいやって!もっかいやって!」
「わー」
双子と忠也は大はしゃぎだった。だがタマが自分で何をやっていたのか分からない顔をしていた。
「いや、何となく水に触ったらこうなったんですハチさん。水が自在に・・・」
タマはもう一度水面に手を置いた。そして目を閉じて集中した。
「これは・・・・・・」
タマの手に水が吸い付き上に持ち上がった。ハチは目をこすったがこの光景は変わらなかった。
「また出来た・・・アニキ、ハチさん。これ、なんです?」
「俺が知るかよ」
「兄貴と同意見」
零たちは不思議そうにタマのイリュージョン的な現象を見ていた。ホシが何かを思い出したように呟いた。
「それってまさか・・・アダムスの!?」
「なにか知ってるんですか?ホシさん」
ハチがホシに聞いた。
「あぁ。隣の国アダムスには自然の力を自在に操る魔法族って言うのがいるんだ。炎を手に灯したり、今みたいに水を自由に操ったりできるって・・・ほんと、あんたら一体何者なんだよ・・・」
「俺にも分からん・・・」
魔法など空想の世界の事だ。だが、ここは別の世界。空想の中でしか存在しない世界の中に零たちは紛れ込んでいる。零はあり得ないと自分に言い聞かせながらも、現実を見るしかなかった。
「と、とりあえず案内するよ。サナ、ルナ、帰るよ」
『はーい!!』
一行はホシに案内され、森を歩いた。
数十分もしないうちに森を抜けた。そこにはログハウスのような木造の建物がちらほら点在しているだけの小さな村、というよりかは集落のような場所だった。
「ここがセイアン村さ。ご覧の通り、何にもない村だよ。うちの家はすぐ裏だ。こっちだ」
村の中央を通り、奥へと進む。そして中央から少し離れた場所にたどり着いた。
「ここが『アマナ孤児院』だ。結構広いだろ。一応ここにサナとルナと三人で住んでんだ。昔は孤児も多かったからこの広さでも足りなかったぐらいなんだけどね・・・今はご覧の通り、すっからかんさ」
案内された場所は二階建ての木造の建物で『アマナ孤児院』と書かれた看板が入口にぶら下がっていた。
「これだけ広いと家賃、結構いくんじゃないですか?」
ハチがこの家を見て率直な感想を言った。先ほどの借金の話もあったので気がかりだった。
「結構高いよ。ここの経営だけじゃ食ってはいけないさ。だから副業をしてる。そこのバーで夜働いてるのさ」
ホシは村の中央の近くに『準備中』と書かれた看板が立て掛けてある建物を指した。
「家賃に借金ですか・・・大変ですね。俺に何か手伝えることがあったらやりましょうか?」
タマがおせっかいを焼き始めた。タマは困っているのならば助けるというのを信条にしている。ホシの話を聞きタマは居ても立っても居られなくなった。
「おいタマ、余りおせっかいは焼きすぎるな。元より、ここに長居する気はないんだ」
「あぁ、別にうちには気を使わなくていいよ。今のままでも何とかやっていけれてるしね」
「そうですか、でも、今日ぐらいは手伝わせてもらいますよ?ここに泊めさせてもらうお礼です」
タマのこの意見にはハチも零も賛成だった。自分たちはよそ者、ホシの手を煩わさせる訳にはいかない。3人は決断した。
「おれもお手伝いするー」
忠也もだ。4人は同じ決断をしたのだった。