二大国統合調印式編 その5 裏切者 (ウゴキダシタシンノヤミ)
レイたちがいなくなって、いちにちたった。
「サナ、済まないけど牛乳買ってきてくれる?」
「いっぽん?いっぽん?いっぽんでいいの?」
サナはホシにききかえす。
「うん一本でいいよ。これお小遣いね。余ったらお菓子買ってきてもいいよ」
「やったー!やったー!やったー!でもルナは?」
「ルナは別にお買い物」
サナはホシからおこずかいをもらった。
「サナ行ってくる!!」
「気を付けてなー」
サナはげんきにげんかんをとびだした。
サナはちかくのやおやさんにいった。
「お、サナちゃんおつかい?いつもいつもありがとうね~。今日はなんだった?」
「ぎゅうにゅういっぽんくーだーさい!」
サナはてにもっていたおかねをてんちょうさんにわたした。するとてんちょうさんはぎゅうにゅういっぽんと、あまったおかねをサナにわたした。
「これお釣りね~」
サナはさっそくおかしうりばに行った。なにをかおうかな?これほしいけど、おかねたりない・・・
「これくーだーさい!!」
サナはちいさなおかしをいっぱいかった。そうしたほうがなんだかとくしたきぶん。
「あいよ、二百三十円ね~。お、丁度のお預かりね。毎度あり~」
のこったおかねぶんぴったしでかえた。きょうはなんだかいいきぶん。
サナはおうちにかえる。そうだ!ちかみちしよ~。
サナはかべとかべのあいだをすりぬけた。こうすればはやくおうちにつく。
だけどとちゅうでへいたいさんがいた、なんだかこわい。サナはおもわずかくれた。
「首尾の方はどうだ?」
「大丈夫だ、我々の動きはアダムスの奴らにもまだバレていない」
「にしても、あの方もひでぇことするよな~。まさか、この期を狙って両国王の抹殺を狙うなんてよ、でもさ、そんなことして大丈夫なのか?カバーストーリーとかってあるのか?」
「・・・実はなここだけの話、二国間の統合に反対する輩が暴動を企てたっていうカバーストーリーがあるんだ。その暴動を企てるのはこの村、俺たちはその沈静化の為にこの村を焼き払う。期日は両国王が通過した後、つまり今夜それを決行する。後のブリーフィングで知らされる予定だったんだけどな」
「おいおい・・・そこまでやるのかよ」
「そこまでやらねば国家の転覆は不可能だ。多少の犠牲をなくして革命は成功しない。いいか、可哀想とかは思うなよ?徹底的に一人残らずだ」
「そういえば、あのアマナとかいう男、今この村にはいないんだったよな。国王の護衛部隊ももうこの村にいない。絶好の機会って事か・・・やるしかないのか」
「あぁ、俺たちに不可能は許されない。全てはあの方の望むがままに」
サナはこわくなった。そしてなんとかしないとっておもった。だからこっそりとにげようとした。
「ん?だれだ!」
バレちゃった・・・
「今の聞かれた?これってマズイんじゃないですか?」
「あぁ、どの道殺す奴だ。今ここで殺るぞ」
へいたいがサナにむかってきた。たいへんだ!にげなきゃ!!でも、どこにいけばいいの?
「レイのとこにいかなきゃ!!」
サナはとっさにアマナ、レイのことがあたまにうかんだ。レイならたすけてくれる。それにいまルナのとこにいったらルナまでねらわれちゃう。そうしたらホシまで・・・いかなきゃ!!
「逃げたぞ!!追え!絶対に逃がすな!」
へいたいがおいかけてる。だめだ!そんちょうさんのとこにいきたいけどまわりこまれちゃう。あのへいたいさんたち、ねらってやってるんだ!やっぱりレイのところにいくしかない!
サナはまだちいさいから、そのちいささをつかってへいたいたちをよけていった。
「このチビ!ちょこまかと!!」
「へいたいさん!こっち!こっち!こっち!」
サナはへいたいをばかにしてみた。おもっとたとおり、へいたいたちはサナだけをおいかけてきてる。
なんとかしてにげなきゃ!!
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さて、この後はどうするか・・・いつまでもここにいる訳にはいかない。なんとかして、この問題を解決しねぇと。滝の裏の洞窟、俺は考えていた。
「ハチ、タマ、容体はどうだ?」
「俺は今のところ問題はないです」
「俺も、あれ以来は落ち付いています」
「チュウちゃん、大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。ゴメンねタマ兄、俺もう怖くないから」
忠也はこう言っているが、一度植え付けられてしまったトラウマはそう簡単には消えねぇはずだ。忠也は確かに確かにタマの事を心の底から信頼している。だがそれ以上にその信頼する親友に殺されかけたという事実は、十歳に満たない少年の心には深く傷を付けるだろう。今この状況でヤバいのは恐らく忠也だ。なんとかして安心させられないものか・・・
「あにき大丈夫?顔怖いよ?」
俺はふと目線を下げた、忠也が心配そうに俺を見ている。しまったな、俺が逆に忠也を怖がらせてしまったか?
「あ?あぁ、俺はなんともねぇ」
俺はとっさに取り繕った。
「こんな時は歌えばいいって、昔おかーさんが教えてくれたよ?気が紛れて、頭も働くんだって」
歌う?こんな時にか?いや、こんな時こそか・・・
「ハチ、なんか知ってる曲あるか?」
「俺、演歌しか知らないです・・・」
忠也に演歌を聞かせても意味ねぇな。俺も余り興味がねぇし・・・
「タマはどうだ?」
「ごめんなさい、俺深夜アニメの曲しか・・・それも女性ボーカル・・・」
「兄貴、タマには歌わせないで下さい」
「なんかあんのか?」
「昔、一緒にカラオケ行ったんです。こいつの歌、吐き気を催すレベルなんですよ。キャピキャピな声を出そうとして裏返りまくって、そして何よりの音痴です。本当に気持ち悪いです。というかあの時俺吐きました」
「そこまで言います?ハチさん」
タマはズ~ンと肩を落とした。というか基本感情を表に出さないハチがあそこまで嫌悪感出すとは相当ヤバいみてぇだな。
「・・・仕方ねぇ、俺が歌ってやろう。まぁ、チュウちゃんは多分知らねぇかもしれねぇが・・・」
俺が聞く曲は七十年代から八十年代の洋楽ばっかりだ。
俺はアカペラで歌ってみた。一応、2000年に出た曲だ。俺の知ってる曲では一番新しい。歌詞の内容としては、信念を持って挑戦する者を応援するような感じの曲だ。
今のこの現状には持ってこいな曲なのかもな、明日がより厳しい世界になっていたとしても、俺は俺の決意を貫く。それが俺の生き方なんだから。
俺は歌った。子守唄とは程遠いロックな曲。だが、より気分が安らぐのを感じる。そして俺は歌い終えた。なんだか気分が良い。
「兄貴・・・滅茶苦茶上手いじゃないですか歌」
「あ?」
ふとハチやタマを見たら口をポカンと開けて俺を見ていた。そう言えば俺は組の連中とかとカラオケなんか行ったこと無かったな。というのも、俺が子供の時におやっさんと一緒にカラオケ行って俺が歌ったらおやっさん、ぶっ倒れたんだったな。
「アニキ、俺なんだか涙出て来ました。なんで今まで一緒にカラオケ行ってくれなかったんです?」
「いや、昔おやっさんが俺の歌でぶっ倒れてな」
「それって上手すぎて倒れたんじゃないですか?アニキ、歌手やったらどうなんです?売れますよ~、俺プロデューサーやります」
さっきまで滅茶苦茶落ち込んでたのに、単純な奴だなタマは。
「あまり調子にってんじゃねぇぞ?」
「ヒィッすいません!!でも、本当に惚れそうなぐらい感動しました。ありがとうございますアニキ」
タマは嬉しそうに笑い、ハチは落ち付いた顔で優しく笑っていた。
「あにき、本当にありがとう。元気出た。おれ英語分からないけど、あにきの心が俺の中に入って来たみたいだった。おかげで勇気がもらえたよ。おれもいつまでも怖がってちゃダメだから、がんばろアニキ!おれ、もう怖くないから」
忠也が俺に抱きついた。心臓の鼓動はゆっくりだ。そしてなにより、本当に心の底から安らいだかのような優しい顔だ。さっきまでは取り繕って、表情を隠していたが、今はもうそれは無い。全て表に出ている。
「必ず帰るぜ。みんなと、家族の元にな・・・」
俺もそっと忠也をハグした。
「うん、帰ろ」
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だが、俺はもう帰ることは無かった。
何がいけなかったのか。どこで間違えたのか、誰も教えてはくれない。俺に教えられたのはたった一つの感情だけだった。




