二大国統合調印式編 その4 化物変化(バケモノトナッタソンザイ)
翌朝になった。マリリンたちはシャイニーたちと再会した。だが、この家の長のアングラがどこにもいなかった。聞くと先にゾロアス邸を出て会場に一足早く向かったとの事だ。
「それではみなさん、ごきげんよう」
マリリンは丁寧な挨拶でこの場を後にした。時と場所をちゃんと考えている様だ。
「みんな、成長してますねー」
タマがしみじみと老人の様なことを言う。
「そう言えば、ハチさん・・・ハチさん?」
そしてタマがハチに話を振ろうとしたときだった。
「ハチさん!?」
ハチの様子が変だ。なんだこの冷や汗の量は。
「あ、兄貴?どうしたんです?」
そして、そんな状況にも関わらずハチは現状を理解できていない。何かがヤバい!
「ハチ!!来い!」
「あ、はい・・・」
俺はハチを連れ出した。
「アニキ!俺も!」
「お前は来るな!!」
俺はタマを止めた。もしこれの原因が俺のあの時の怪物だとしたら危険だ。自我が保てるかも分からない。
俺は、ハチの肩を担いであの洞窟に向かった。
何とか無事に洞窟にたどり着いた。
「あ、兄貴・・・俺は一体」
「何も覚えてねぇのか?」
「・・・はい。これは、前に言っていた怪物なのでしょうか?」
「分からねぇ。だが、この場所は何故か恐怖感が薄れる。だから連れてきた」
ハチは周りを見渡した。
「ここが例の墓ですか。確かに、何故か安心感がありますね」
俺はハチの前に座った。
「ハチ、正直に話せ。今お前の中で精神を支配している感情はなんだ?」
俺は考える、恐怖心がこの症状の原因なのか、はたまた別の何かか。
「・・・恐怖です、よく分からないのですが、漠然とした恐怖が勝手に俺の中に巣食っているのを感じます。俺自身がいなくなってしまう、そんなような・・・だが俺は俺だ。そんな恐怖に怖気づいてたまるか」
「無理はするな、一旦ここにいろ。俺が戻るまでここを動くなよ」
「はい、承知しました」
俺は一旦ハチを残してこの場所を後にした。そしてタマの方へ向かった。あいつも同じ症状が現れていた。何かが起こってからではマズい。
俺は家に向かって走った。出来る限りの最大のスピードで。
そして玄関のドアを勢いよく開けた。その瞬間にホシが飛び出てきた。
「レイ!」
ホシの腕にはサナとルナが抱えられている。
「ごめんなさい!うち、二人を連れてくる事しか・・・チュウちゃんが、タマが!!」
「落ち着け!!何があった!?」
ホシは気が動転しているのか、肝心な言葉が何も言えなくなっている。だがこれでも十分理解は出来る。最悪な事態になった。それだけは分かった。
「はぁ、はぁ。タマが突然変貌して・・・それでチュウちゃんを・・・うちはサナとルナだけを連れて逃げ出して・・・・・・」
「分かった俺が行く。ホシはここで待ってろ」
俺はホシたちに待つように命じた。そして中に入った。奥に進むとそこには体の半分が変わり果て、頭から大きな角、そして大きな前足で今にも忠也に襲い掛かりそうなタマの姿があった。
『ぐぅあああああ』
俺は倒れている忠也の前に立ち、前足にドスを突き立てた。
「タマ、てめぇ今何をしてるのか分かってんのか?」
『う・・・ぐ』
今度は俺に襲い掛かろうとする。
「おい、俺と分かって攻撃してんのかこの馬鹿が、今すぐその手を降ろせ」
俺は睨みながらタマに命令する。だがタマは俺もろとも忠也を攻撃しようとした。俺はキレた。
「タマてめぇ!俺の言う事が、聞けねぇのか!!ぁあ゛!?」
俺は本当にタマを殺す勢いでタマの攻撃にドスを合わせた。だが、直前でタマの動きが鈍った。
「あ、アニ・・・キ?」
タマの体は徐々に元に戻り、タマはその場で倒れて気を失った。やはり、あの症状はあの怪物の・・・俺はタマと忠也を抱き抱え外に出た。
「レイ、大丈夫なのか?」
「あぁ、俺はな。だが、状況としてはヤバいみてぇだ。俺はしばらく滝の裏の洞窟にいる事にする。そこでコレの解決策を考える。それまではここを頼んでいいか?」
「・・・分かった。今のままじゃ村のみんなにも被害が行っちまう。悔しいけど、それが一番なのかも、うちに何か手伝えることがあるなら言ってくれ。村のみんなも協力してくれるはずだよ」
「その言葉だけで十分だ」
俺は二人を連れて、洞窟に向かった。
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「ん・・・俺は、一体?ここは、どこだ?」
タマが目を覚ました。
「タマてめぇ、てめぇが何をしたのか覚えてねぇのか?」
「俺は・・・俺は何をした?突然体が苦しくなって、それから怖くなって・・・それから・・・」
「タマ、てめぇは忠也を襲ったんだ」
俺はタマに真実を突き付けた。
「俺がチュウちゃんを?何を言ってるんですアニキ?そんな事する訳ないじゃないですか」
「だったら何故、忠也はてめぇに怯えてんだ?」
タマは周囲を見渡し、そして忠也を見つけた。忠也はタマから隠れるように俺の後ろにいる。
「まさか・・・本当に、俺が?」
「う・・・ん」
忠也は怯えた声でしか反応出来なかった。
「・・・なんでだよ、俺はいったい何をしてたんだ!?どうして俺がチュウちゃんを!?」
「一旦落ち着けタマ」
「落ち着けますか!!俺の意識の外で俺は忠也を傷つけた!絶対に守ると誓った相手をですよ!?それなのに落ち着けますか!?」
「分かってる!だがてめぇだけがおかしい訳じゃねぇんだ!それに落ち着かねぇとまた化け物に変貌する可能性があるんだ!よく聞けタマ!化け物を進行させる感情は恐らく恐怖心だ!だからこそ落ち着かねぇと事態をより悪化させるだけなんだよ!」
「恐怖・・・心が?」
「そうだ、恐怖心だタマ。恐怖心が、俺たちの化け物を暴走させるみたいなんだ。だが、原因が分かっただけまだありがたい。何をすべきかの対策が出来る。この場所は気分を落ち着かせる効果があるみたいなんだ。少しは気がまぎれるはずだタマ」
ハチが洞窟の奥から顔を出した。
「とりあえずだ。あの変貌の前にはどうやら段階があるみたいで、まず眠くもないのに意識が勝手に遠のく、それが感知できる一番の症状だ。今の俺が正にその状態だ。そして異常な発汗、その後に変貌、これが今わかる化け物になる順序だ。そしてそれを押さえることが出来るのが精神力。落ち着き、取り乱さない事が一番最良な方法だろう」
ハチは現状を理解し、打開策を思考している。ハチはそれが出来る。そしてタマも、こいつもやればできるはずだ。だが忠也はどうだろうか。いくら性格が大人びているとはいえまだ子供だ。そして信頼を寄せていたタマが暴走してしまった影響で、こいつの中にも恐怖心が芽生えてしまった。
何とかして押さえる方法を探さねぇと、一刻も早く・・・
俺たちはしばらくここの洞窟で暮らすことになった。近くには俺たちの車もある。生活に特別な支障が出ている訳ではない。村へも戻ろうと思えば少し時間をかければ簡単に戻れる。
俺たちの事は村で噂になったが、ファルコとコマチが情報をコントロールし、今現在俺たちの現状を知る者は村長とその娘のファルコとコマチ。そしてホシ、サナ、ルナだ。ビーンやスチュワートには伝えていない。あいつらは今調印式でこの村にいない。俺たちだけで何とかするしかないんだ。
調印式まで、あと三日。




