二大国統合調印式編 その3 戦乱予感(アラシノマエノシズケサ)
アレックスたちがここを去り、夜九時近くになった。
「にしても、嵐のように来て去っていくなあの人たち。そう思わない?レイ」
「向こうも忙しいんだろうな。あまり時間はかけられないんだろ」
俺はホシの言葉に相槌を打つ。
「すいません兄貴、ちょっと外で風に当たってきます」
ハチが突然、外に出ると言い出した。
「あぁ、構わねぇが、十時にはカギ閉めるぜ?」
「それまでには戻りますよ」
・・・ハチの奴、一体どうしたんだ?後で様子を見るか。
ハチは外に出ていった。その姿が妙に違和感を感じる。いつものキリッとした歩き方をしていない。少し動きが乱れている。
「ハチさん、一体どうしたんですかね?いつものハチさんらしくないような・・・」
タマも異変に気が付いているみたいだ。
「後で様子を見てくる。お前はチュウちゃんと一緒にいな」
「はーい」
俺はしばらくしてから外に出た。少し歩くとベンチにハチが座り星空を眺めていた。いや、ただじーっと上を見上げている様にしか見えない。
「ハチ、ちょっといいか?」
「あ、兄貴。どうしてここに・・・」
「流石に最近おかしいと思ってな。タマですら違和感を感じてたぜ、何かあったのか?」
俺の質問にハチはしばらく考えていた。
「よく分からないんです。最近、気を抜いていると意識が遠のいていく感覚に陥ってしまって・・・正直に言います。俺はこの感覚に恐怖を感じています。そしてその恐怖心が増すにつれて意識がより遠くなっていくような・・・すいません、うまく説明できなくて・・・」
「いやいい。だがなんなんだ?タマもさっきお前と似たような感じだった。こっちで話してんのに上の空って感じでな」
俺も思考を張り巡らす。何かがヤバい気がする。この事は早急に解決しなければ、だが原因はなんだ?
「恐怖心・・・」
さっきのハチの説明、恐怖心が症状を進行させているという感じだ。恐怖と言えば、俺がリバーと戦っていた時だ。俺の体は得体のしれない怪物になっていた。その時俺の精神を支配していたのは、恐怖心だった。何か関連があるのか?だとしたらマズイな。あの時の俺は半分意識は無いに等しかった。精神力で無理矢理押さえ込んでいただけだ。
「恐怖心、ですか?」
「あぁ、お前にも話してない事だが、俺が青薔薇の偽物と戦ってた時俺の体は化け物みてぇになってな、あの時は無我夢中だったから俺自身もそんな体の変化に疑問を持つ余裕が無かった。だが、あの時俺の体を突き動かしたのは恐怖心だった。関連が無いとは言えないと思ってな」
「体が化け物に?今は無事なんですか?」
「あぁ、あれ以来特に何かが起きたことはねぇ。とにかく、ハチやタマの症状について調べるとするか」
「そうですね兄貴、その方が良さそうです」
ハチは少し元気が出たようだ。こいつは少し自分で抱え込み過ぎるところがある。もう少し周りを使ってもいい気がするが。
「さてと、そろそろカギ閉めるぜ」
俺たちは家に入り、戸締りした。サナとルナはもう寝ており、忠也とタマは談笑している。ホシはソファでくつろいでいた。
「お、帰って来た。なぁレイ明日の事だけどさ・・・」
俺はホシと明日の事について話し合って、その後就寝した。
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翌朝、今日は特に何もない休日だ。俺は朝の散歩がてら滝の裏の洞窟に向かった。俺はこの場所で一時的に怪物と化した。もしかしたら何か分かるのではと思ったからだ。
「この場所・・・」
そして俺は戦いの中で発見した名もなき墓に着いた。そこにはまだ折れている真っ白な刀が添えられている。
「あれは一体何だったんだ?そしてお前は誰だ?俺に何を伝えようとしている?まだ何かあるってのか?」
疑問を投げかける、反応は返ってくるはずもない。だがこの場所は少し安心する。不安などの感情が安らぐのを感じる。
「まだ、終わってねぇって言うのか?だが俺にどうしろってんだ。俺はただあいつ等と平和に暮らしていたいだけだ・・・・・・って、俺は何を一人で言ってるんだ。死人に口なし、俺たちの問題は俺たちで解決しねぇとな」
俺は墓を後にした。
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「ん?なんだか物々しいな」
俺が村まで戻ると、いつもに比べて兵士の数が多い気がする。それもエイドだけじゃない。アダムスの甲冑の奴らもだ。
その中にビーンがいるのを見かけた。
「なぁビーン」
「お~、アマナ元気?」
先日いきなり大出世になった割には元気そうだ。
「一体どうしたんだこれは?」
「あぁこれね。うーんと・・・アマナちょい耳貸して」
ビーンは小声で俺に話しかけた。
「一応これはまだ機密なんだけどよ、二国間の調印式がこっから馬車で一日程行ったところのホールで行われるんだけどよ、そこに行くのに両国王がこの町を通過することになるから、ここの警備も今日からちょい強化してんのね。ま、こんなに兵隊がいちゃあ機密って言っても大体みんな予測ついてるみたいだぜ」
そう言う事か、特に何事も無くいくことを望むだけだな。
「んでさ、俺の立ち位置だけど気になる?」
「い、いや」
「実はさ~、アレックス様の後ろにつくことになっちゃってまぁたいへんよ!!」
ビーンは自慢げに話している。話が終わりそうにないからさっさと俺は孤児院に帰った。
「・・・んで俺が選ばれたわけよ。ってありゃ?いね~」
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孤児院の中、サナとルナが部屋中を元気にはしゃぎまわっている。タマが馬乗りにされ遊ばれていた。
「外凄い事になってんな、噂だと調印式の会場に行くのに両国王がここ通るんだってさ」
やっぱビーンの言う通り、噂は大体広まってるみてぇだな。
『キンコーン』
孤児院のチャイムが鳴る。
「あ、はーい俺が出ま~す」
タマがサナとルナをどかして玄関に向かった。
「あ!!」
タマが大きな声を出した。俺は声につられて玄関を見る。
「お久しぶりです」
「ごきげんよう!」
そこにはあの青薔薇、ルーアンの姿とマリリンがいた。だが前に会った時とは雰囲気が大分違った。マリリンはルーアンの腕に絡みついている。
「マリリン、少し離れてくれないか?」
「いいじゃない別に」
そんな中後ろから忠也もやって来た。
「あ~、マリリンちゃん久しぶりだね~。ルーアン君も。2人とも元気そうで何よりだね~。ところでマリリンちゃんとルーアン君はもうかっぷるってやつなの?」
忠也の一言でルーアンは目を逸らし、マリリンは元気に前に出た。
「いや~そうなんですよ!わたしについ先日告白してくれてね~・・・」
「まだ若いのに凄いね~」
マリリンは雄弁に語っている。こいつこういうキャラだったのか。見た目に反してというかなんというか。
「ところで、ここに何の用なんだ?」
俺が本題を振った。
「あ、はい。実はこの度の調印式でゾロアス家も出席を願うとの通知が来たようでして、マリリンにも一応出席を願いたいとの事で、シャイニー様とここで待ち合わせる事にしていたのですが」
「実はわたし一日会う日付を勘違いしまして今日会う予定だと思っていたのですが実は明日だったようで、それでここに来たんです!!」
「とは言ってますけど、多分皆さんに会いたかったからわざと間違えたんですよ」
「えっへへへ~」
マリリンは照れ臭そうに笑った。もうかつての上品に笑う姿はどこにも無い。
「んじゃ、今日泊まってきな。その為に来たんでしょ?」
ホシがマリリンの望む答えを出した。
「そうです!泊めて下さい!」
「マリリンちゃん、キャラ変わったね・・・」
俺はマリリンたちを中に入れた。
そして今日は全員で仲良く夜はトランプをやって遊びました。




