第33話 この異世界より・・・
「ん?ここは・・・」
零は目を覚ました。辺りを見る・・・どうやら病院の様だ。そして上を見上げたらホシの顔があった。
「あ、目覚めた・・・みんなー、アマナ目ぇ覚ましたよ!」
「おきたおきたおきた!」
「きがついた!きがついた!」
「兄貴、大量に出血してまして生きているのが不思議だったみたいですよ」
ハチの言葉まで聞いて、はっきりと全部思い出した。
「みてぇだな。まだ少しフラフラする」
「輸血しようにも、アニキの血はこの世界の物じゃないから無理だったんです。けど、時間と共に何故か復活していたみたいで、医者も不思議がっていましたよ。時間はかかりますがこのまま安静にすれば元通り元気になるそうです」
「そうか・・・あの後、どうなったんだ?」
零は自分の体を見て様子を確かめている。
「君が気を失って丸二日が経ったんだ。ゲイルは今刑務所の中、そして今回の件である法律がエイド国内で制定されることになったんだ。政治運営のあり方を根本的に変えるそうだ。貴族の中に貴族院という組織を政府の中に作って、それと同時に民衆院って言う国民から選ばれた代表を政府に入れて、国の運営に取り組む方法にするらしい」
「そういやこの国は王制だったけな。それをまるっきり民主主義に変えるってか・・・王様もデカいことをしたな」
「昨日あんな事件が二つも起きたかんな。マリリン ゾロアスの暗殺未遂に、ゲイル ウィングの国家反逆、流石に国王も見逃せないってな。んでアレックスがチュウちゃんたち連れてエイドの王んとこ行って、そこで話し合って民主主義政治ってのを考えたんだよ。今はそれの承認待ちだ。これが制定されりゃ、世界は大きく動くだろうよ。マリリンの目指した貴族の革命が既に始まりつつあるって感じだ」
スチュワートとアレックスがより細かくこの二日の出来事を語った。
「んで、どうすんだ?」
「何がだ?」
スチュワート不敵に笑いおちょくるように零に問いかけた。
「とぼけなさんなって、ホシとの結婚、どうすんだ?あんさん、堂々と告白してたじゃねぇか」
「あ・・・そいつは、な」
零は口ごもった。
「明日にでもどうですか?」
エリザベートが笑いながらとんでもない事を言い出す。
「あのねエリザベート、君と私の結婚は少々特別だったの。物事には順番があるんだからさ」
「オホホ」
恐らくエリザベートは冗談半分で言っているだけだが、真面目に返すアレックスを見てまた笑った。
「そ、それよりもだ。俺がゲイルの所に来た時何で直後にあんたら来たんだ?」
零は話を逸らした。とりあえず不思議に感じていたからだ。零はその疑問を投げかけた。
「あぁそれは、君の後を追ったからだ」
「あんな地形がおかしくなるほどの戦いの跡が残ってたんだ。追ってくれって言ってるようなもんだ。そんでそれをしばらく追って、今度は瓦礫の中から血の跡だけがずっと続いてたんだよなぁ」
「その道中でケネスの遺体を見つけた。あいつは満足そうな顔をして死んでいた。アマナ、あんたのおかげだ。あんたが見つけてくれたんだろ?礼を言うよ。ありがとう」
後ろにいたルーアンが前に出て零に感謝の言葉を述べた。
「あぁ、あいつに気が付けたのはほぼ偶然だった。あいつが痕跡を残さなかったら、俺はあの偽物にたどり着けなかった。青薔薇、いや、ルーアンだったか?お前の相棒は凄い奴だったよ」
零はケネスを褒め称えた。彼のおかげで事件は全て解決できたようなものだからだ。
「にしてもこの剣・・・こいつぁ天石だろ?どうやって鍛えたんだ?それにこいつが折れるなんてな。一体どんな戦いをしたらこうなんだよ・・・まだまだ俺たちの知らねぇことがあるってか」
スチュワートは白い刀を興味深そうに眺めている。
「そうだね。天石は折れることは決してない石だ。私のこの剣も恐らく垂れている石をそのまま剣にしたような感じだ。けどこの剣は鍛えてある・・・アマナ君、これは一体どこで?」
「滝の裏の洞窟ん中だ。こいつのおかげで俺は偽物に勝てた・・・もともとこいつは墓の様なとこに置かれてた。今度返さねぇとな」
零はゆっくりと立ち上がった。少しふらついたが、しっかりと立った。
「だ、大丈夫か?無理すんなよ?」
ホシが零の体を支えた。
「あぁ、大丈夫だ」
「あらあら、もう既に夫婦みたいですね」
「んあ?」
エリザベートの余計な言葉でホシは思わず零を突き飛ばしてしまった。
「あー!ちょっ!エリザベートさん!変な事言わないで下さいよ!!ごめん!アマナ!!」
「あ・・・あぁ、問題ねぇ、けど、中々のパワーだ、俺が簡単に吹っ飛んだぜ」
零は少し苦笑いしながら立ち上がった。
「あ~多分原因は、あの血のせいだと思う。あ!そうだアマナ!これ見てよ!」
ホシはなんだかうれしそうに右手を前に出した。そして人差し指の先端から炎がゆらゆらと燃え出した。
「は?」
「いやさ、サナとルナがうちの症状を鎮めたのは良いんだけど、それでもうちの体には魔法族の血が入ったままだからね、気が付いたら普通に使えるようになってたんだよ。これ結構便利なんだよなぁ。料理にパパッとね」
ホシはニコニコな笑顔で零に炎の魔法を見せびらかした。
「わ~、ホシおねぇちゃん、すごいやー。おれ、そんな風に出来ない」
「きれい!きれい!きれい!」
「すげー!すげー!」
忠也とサナとルナがホシの魔法を見て称賛していた。ホシも乗せられて調子に乗っている。
「とまぁ、こんな感じでハッピーエンドって感じですアニキ。とは言っても俺たちが元の世界に帰る方法なんてこれっぽっちも見つかりませんでしたけど、でもまぁいいかって感じですよ」
タマが横目に零に語り掛けた。
「だな・・・親父や組の連中には済まねぇことをしたが、元の世界に帰る方法はゆっくり見つけるさ」
零は窓の傍に立ち外を眺めた。
「今日は、いい天気だな」
今日の天気は快晴。雲ひとつない青空だ。小鳥がさえずり、木々がなびいている。まるでこの異世界が零たちを祝福しているかの様な空だった。
【ジリリリリリリリ!!】
「あ!!」
突然警報が鳴り響いた。そしてスプリンクラーが作動し、部屋に大雨が降って来た。
「ホシ・・・今度は気を付けろよ」
「はぁい・・・」
原因は調子に乗っていたホシの魔法がスプリンクラーを作動させてしまったようだ。
「ちょっと!みなさま無事ですか!?」
突然部屋のドアが開いた。看護師あたりが駆けつけてきたと思ったら、来たのはマリリンだった。続いてシャイニーも来た。どうやら彼らも零のお見舞いに来たようだ
「・・・ホシさん、原因はあなたですか」
「ごめんなせぇ!」
マリリンが少々ホシを呆れた表情で見下した。後ろでシャイニーも頭を抱えて首を横に振っていた。
「フッ・・・」
その光景を見た零は、本当に全てが丸く終わったことを感じ取り、思わず笑いがこぼれた。
「あ、今笑った!?笑ったよね!」
「いや、笑ってねぇ」
「笑った!」
「笑ってねぇって。てか一応避難しなきゃいけねぇんじゃねぇか?お前のせいで部屋は水浸しだしよ」
「む~、話逸らしてうちの上げ足取りやがって~」
・
・
零が目覚めた。これで全ての事件が解決された。
この戦い、殺す為に戦った者、守る為に戦った者、そして死ぬ為に戦った者、様々な戦いが起こった。皆それぞれの正義を掲げ戦った。だが、その根本にあった感情、それは平和への願いだ。
そう、彼らは平和を願い闘った。そして平和を勝ち取ったのだ。
こうして、平和を願いし者たちの闘いの幕が上げられた。




