第31話 その心に刻む平和への願い
白い折れた刀が振り下ろされる。リバーは自動拳銃で防ごうとしたが、刀は粘土を切るのように拳銃を真っ二つにした。
「チッ、すげぇ切れ味だなソイツは・・・加工が不可能のはずの天石で出来た刀か、もしかしたら俺は、とんでもねぇ所に来ちまったのか?」
『何を、ごちゃごちゃと言ってやがる!!』
零は刀を横に薙いだ。その瞬間、刀身に風が発生し風の衝撃でリバーは飛ばされ、同時に襲ったかまいたちが、その体を引き裂いた。
「魔法の威力が桁違いに倍増されてる。やはり天石か・・・だが!」
リバーは体勢を立て直し、両手を前に突き出した。
「こんな場所でやるのは危険すぎるが、悠長な事は言ってられねぇ!!爆散しやがれ!!」
リバーの前方に炎の玉を撃ち出したその直後、その炎の玉は大爆発を起こした。
衝撃で零も、リバーも吹き飛んだ。
「流石に近すぎたな・・・やっぱ水蒸気爆発は原理は理解できても、それを自分の力で制御するなんてあいつら頭おかしいぜ・・・俺もかなり喰らっちまったしな。だが、これならアマナの野郎も」
リバーはの周囲は煙と湯気が洞窟に蔓延して、何も見えなくなっていた。
(臭いで探したいが、土煙の匂いのせいでアマナを特定できねぇ。目で探すしかないか)
「・・・ここだ!!」
リバーは目を瞑り、周囲の気配を探した。そして何かが勢い良く飛んできた。リバーはそれを氷の魔法で止めた。
「んっ!?岩!?」
だが凍らせたのは、巨大な岩だった。
『こっちだ!』
零はリバーの背後に回っていた。折れた刀がリバーに振り下ろされる。
「間に合う!!」
リバーも背後は取られたものの、反撃の手段を失ってはいない。凍らせた岩をそのまま防御兼、攻撃に流用した。
互いの攻撃がぶつかり、氷と岩の残骸が周囲に砕けた。それと同時に両者も飛ばされた。
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「いい加減・・・倒れろよ・・・アマナァッ・・・!!」
『たお・・・れる、かよ・・・おれの、なかでかってにきめた・・・やくそく・・・おれは・それをまもる。必ず!!』
互いに本当の限界が近づいていた。零はもう喋る事すらおぼつかなくなっている。リバーも捨て身の攻撃を立て続けに行ったせいで、立つのに必死だ。
「ここで決めなきゃ、どっちも死ぬな・・・すげぇよアマナ。覚醒者の俺を、ここまで追い込むなんてな」
リバーは少し笑った。その笑顔はどす黒いものではなく、感心、高揚感という清々しいような顔だ。
「だが、俺にも負けられない理由がある。苦しむ存在が生まれようが、俺はそれを踏みにじってでも、望みを果たす・・・」
リバーは、直後にこれまでにない敵意を零に向けた。
『おれはどうやら、てめぇを・・・みあやまっていたのかもな。・・・てめぇは、ばかのする、めをしてねぇ。たかいこころざしをもった、するどいめだ」
零も同様に少し笑った。
『けどな、おれはちかった・・・あいつらをまもると・・・おれははじめてだれかのためにたたかっている。そのりゆうはただ一つ。
俺の心が、平和を願ったからだ・・・俺は、俺自身の・・・それにあいつら全員の平和の為に戦う!!』
零も闘気を全開にして、刀を構える。
「平和・・・か。俺が望むのも結局はそれだ。俺の平和、てめぇの平和。どっちが成し遂げられるか・・・」
「いくぞアマナ」
『あぁ・・・これで』
【終わりだ!!】
リバーは最大威力の氷の魔法をぶつけようと、前に出た。
零も前に出る。だが、その刀に魔法が纏われていない。魔法を纏う力はもう無いのか・・・
リバーは拳を突き出した。零は刀を振り下りした。
「アマナァァァァァァァ!!」
『リィィィバァァァァァ!!』
互いの攻撃がぶつかるその瞬間、2人は最も望むものを目の前に見た。互いの平和を・・・
そして、平和への願いを成し遂げたのは・・・
「あ・・・・・・」
リバーが膝をついた。
『・・・・・・』
零は、踏み込んだ姿勢のまま立っていた。
白かった刀は、淡く光りを放っている。ゆらゆらと儚く、刀身から光が漏れている。
「・・・負けた」
リバーはその言葉の直後、顔面に真っ黒な一本の筋が入った。その筋は左胸にかけて綺麗な一本線となって繋がった。リバーは前に倒れこんだ。そしてその黒い筋は、リバーの背中繋がり輪になった。
そして筋はリバーの背後の岩にも斜めに真っ直ぐ黒く焦げた一本の線が入った。
「勝ちだ・・・」
零はそのまま膝をついた。が、
「まだだ・・・終わってねぇ」
零の変貌した体はみるみる元に戻っていった。
「行かねぇと・・・」
零は刀を杖代わりに、立ち上がり、歩き続けた。
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マリリンはひたすら廊下を走っていた。この広い屋敷では父親の部屋に行く事すらかなり距離がある。彼女は少し息を切らしていた。
(ごめんなさい・・・お父様)
そしてその目には少し涙が浮かんでいた。
「きゃ!!」
「うわ!」
廊下の曲がり角を曲がろうとしたら、何かにぶつかって二人はしりもちをついた。
「ご、ごめんなさい!」
「すまない!」
『あ・・・』
同時に謝り、二人はぶつかった互いを見た。そして誰なのかはっきり理解したが、二人とも口ごもった。
「あの・・・お父様」
「マリリン・・・」
二人とも口を開きかけているが、肝心な重要な事が言えない。しばらく黙っていたが、先に沈黙を破ったのはマリリンだった。
「お父様・・・ごめんなさい!!青薔薇に関する全ての事は全部わたしが仕組んだ事なの!!」
マリリンは立ち上がってシャイニーに深々と頭を下げた。
「本当に・・・真実だったのか・・・・・何故、こんなことをしたんだ?」
「見ていられなかったの・・・お父様、どうして貴族は高貴に振る舞わなくてはいけないのですか?どうして貴族は、身分を大事にするのですか?どうして貴族は・・・こんなにも、腐っているんですか・・・貴族だって人間のはずなのに、なんで人間の様に生きることが出来ないのですか!」
マリリンは声を震わせながら、シャイニーに問いただした。
「マリリン・・・貴族は、世界の要なんだよ。世界が平和であるには、支配者が必要なんだ。だが一つの支配者だけではその全てを見渡すことはかなわない。だから監視者が必要なんだ。それが貴族なんだよ。
人間は恐怖に弱い。だがその恐怖が無くなってしまえば、簡単に世界は崩れ出す。私たちは恐怖なのだ、世界は貴族という名の恐怖があるから、平和でいられる」
「恐怖・・・ですか。だったら何故、世界に何にも感心を示さず、身内の事しか考えないのですか?」
「別に関心が無い訳ではないよ。手を出すわけにはいかないだけだ。貴族は権力を持っているから存在する。権力は見えないがとてつもなく巨大な力。一度それを使えば、世界を破滅に導く。故に手を出さないのだ。
そして権力を持つ者同士は、互いに力が行き過ぎないように常に見張っている。貴族というのは、世界を見る者、決して手を下してはいけない」
マリリンは少し黙った。
「そう・・・だったのですか」
「分かってくれたか?ありがとう。そして許してくれ・・・私はお前が既にその事をもう理解できていると勝手に言い聞かせていたのだ。私も昔はお前と同じだったことを思い出したよ。何で貴族は自分の事しか考えないのだろうって、だけどそれも成長につれて忘れていった。そしていつの間にか納得出来ていた。マリリン、お前もいつかは理解できる日が来る。だから、もうこんなことはしないでくれ」
今度はシャイニーがマリリンに頭を下げた。マリリンはその姿を見て、哀れむ感情が芽生えた。
「・・・間違ってる。間違ってます・・・それじゃ、ダメなんです!!貴族そのものが変わらなきゃダメなんです!!!」
「そう、今のままじゃ・・・駄目なんだ」
「!?」
突然、二人の会話に割って入る者がいた。
「ごめんよ、心配で追いかけて来ちゃった・・・」
「アレックス・・・王子?」
そこには足を引きずり、顔には血管が浮き出ており体中のあちこちから出血しているアレックスの姿があり、その両肩をルーアンとタマで支え、腰を忠也が支えていた。
「その怪我は一体!?今、医者を!!」
「待ってくれ・・・その前に、決着をつけなくちゃいけない。これはとっても大切な事なんですから」
アレックスは、それよりも先にマリリンとシャイニーとの決着をつけさせようとした。
「お父様・・・今回私のこの件で、こんなにも大勢の人が傷ついてしまいました。みんな私を助ける為に傷ついた。これはわたしが貴族としての権力を使ったせいです。お父様の言う通り、ほんの些細な事がここまで事を大きくしたことは十分理解できました。ですが裏を返せば、救う事が出来るのも私たちのはずです。
お父様、わたしたちは人間です。世界を見張る神様じゃないのです。考えて、行動して、間違えたり、成功したりもする。わたしたちは人間になるべきです。わたしたち貴族は成長を止めてしまった。それは何故だかわかりますか?それはわたしたちが恐怖に屈してしまっているからです!成長しない者に、進化は訪れません!!いつかは滅びます!!
世界を支配するのは貴族でも、王族でもありません!!自分自身です!」
シャイニーは黙ったまま、呆然とマリリンを眺めていた。
「ようやく考え出したか・・・娘に説教されて、情けねぇなぁ?」
「スチュワート・・・君ももう少し言葉遣いについて成長しなさい。失礼極まりない」
いつの間にかシャイニーの後ろにスチュワートが立っていて、アレックスはそれを注意した。
「俺ぁ貴族とかが嫌いなの!行儀の良い言葉遣いなんて使ってたまるか!!にしてもアレックスよぉ、血、全部使ったのか。無理しすぎだぜてめぇ、てめぇこそ立場をもう少し考えな」
アレックスの注意に、スチュワートは注意し返した。
「お父様、一度築き上げたモノを壊すのは簡単じゃありませんが、出来るはずです」
「・・・マリリン、お前の言い分はよく分かった。確かにそうなのかもしれない。いつまでも見ているだけじゃ、退化するだろう。だが、守らなければいけないものもあるんだ。マリリン、貴族の全てをもし壊すとしたら、ここにいる人たちはどうなる?行く当てが無くなる。貴族を壊すことで悲しむ者、憎む者も生み出すんだ。それも守る、という事は残念ながら不可能なんだよ」
シャイニーは眉間にしわを寄せて、考えこむように語っている。そして彼の目線はルーアンに向けられた。
「君が・・・どうやら青薔薇みたいだね」
「!? 何故・・・」
「見れば分かる。その鋭い目つき、常人の目ではない。そして不安げなその表情、罪悪感を感じているかのようだ。まるでここに長居したくないみたいにね。それにここに来た人の中に君の顔は無かった。だったら君は侵入者以外の何者でもない。それで分かったのだよ。久しぶりにしっかりと人の目を見たな・・・」
そしてシャイニーは、マリリンの方を見た。
「マリリン、今回の件はかなりの損害になるだろう。色々考えたが、この件を誤魔化す事はもう出来ない。そうなると他の貴族は我々の不祥事を責める。だから・・・マリリン、君には罰則を与えなければいけない」
シャイニーは苦しそうな表情でマリリンに近づいた。
「分かっております。こんなにもみんなを傷つけた。どんな罰も受けます」
「そうか、だったら言おう・・・マリリン、お前はこれから家を出なさい」
シャイニーの思いがけない発言に周囲は固まった。
「色々考えた。だが、貴族は無くすわけにはいかないんだ。貴族は世界を回す大きな歯車。その歯車が他の小さな歯車を回すのだ。そしてその大きな歯車を回す事が出来るのは私だ。この歯車が壊れたら、全てが止まるだろう。しかしマリリン、お前は歯車ではない。言うのなら、ゼンマイだ。時計というのはゼンマイを巻いて歯車を動かす。ゼンマイを巻かなければ、いつかは動きを止めてしまう。お前は外に出て、歯車を回す為にゼンマイを巻く存在だ」
シャイニーはマリリンをゆっくりとぎこちなく抱きしめた。そして、再びルーアンを見た。
「それでも、ゼンマイを巻いても、針が狂っては意味がない。青薔薇よ、マリリンを連れて行ってはくれないか?」
「はい?」
突然のシャイニーの提案に、ルーアンは思考が停止した。
「君は我々にとってはほぼ真逆と言っていい存在だ。だからこそ、君がいるんだ。マリリンが知らない世界を君は知っている。見せることが出来る。その世界が醜くとも、美しくとも、マリリンが成長を望むのなら、見せてあげてほしいんだ。
別にこの家を継ぐのは血統にこだわる必要もないと分かった。早すぎるかもしれないが、子離れと言うやつだ。頼む、青薔薇よ。マリリンの回すゼンマイを修正できるのは君しかいない」
ルーアンは突然のシャイニーの提案に困惑し、しばらく悩んだ。
「・・・俺は・・・いいのか?俺は殺し屋だぞ?」
「分かっているさ。だが、君のその目は殺し屋のそれではない。君も成長しようとしている。君とマリリンは真逆の存在だ。だからこそ、マリリンは君を支えれる。互いに成長出来る」
「・・・分かりました。だが、いくら罰とはいえ決めるのはマリリンですよ」
「その通りだ。決めるのはマリリン、お前だ。この家を出る覚悟はあるか?強制はしない、別の罰を考えるだけだ」
マリリンも真剣に悩んだ。本当にこれが正しいのか、シャイニーはただ、無理を言っているだけなのでは、様々な心配事がマリリンを悩ませた。が、最後に勝ったのはマリリンの成長を望む決意だった。
「出ます。マリリン ゾロアスは、この家を出て外の世界を観ます。その先で何があるか分からないけど、必ず成長して、今度こそみんなが平和でいられる世界を見つけてきます。誰も無駄に傷つく必要のない世界を・・・」
答えは出た。マリリンは決意した。今でも彼女は貴族のあり方を間違っていると考えている。だからこそ出ると決めた。今度は誰も悲しむ必要もなく、傷つく必要もなく、絶対に貴族を変えてみせると決意した。
「だからよろしくね、ルーアン」
「・・・あぁ」
マリリンとルーアンは互いに手を握った。
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一件落着、マリリン ゾロアス暗殺未遂事件は、標的であるマリリンと殺し屋である青薔薇が互いに手を取り合い、終わりを告げた。
「あれ?そういやぁ、アマナの奴ぁどうした?」
「そう言えば見ないね・・・」
「ケネスも、いない・・・まさか・・・ケネス!!」
ルーアンが、突然大声を上げた。
「ど、どうしたの?ルーアン、ケネスさんが一体?」
「偽物だ、俺の偽物が動いているんだ!」
「まてよ青薔薇、ケネスは暗殺者ん中でも、トップだろ?そいつが偽物にやられたってのか?」
スチュワートがルーアンに質問を投げかける。
「まだ分からない。とにかく探さないと!」
「だな・・・俺としたことが、偽物はもしかしたらルーアン、あんさんより滅茶苦茶強い奴なのかもしれねぇ。ここまでは俺の思考も至らなかったぞクソ!」
全員で部屋を出た。そしてケネスと、アマナの捜索が始まった。




